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近世百物語・第三十一夜「U F Oらしきもの」

 UFOは霊体験には分類されませんが、何度か見ています。はじめて見たのは中学1年の冬でした。真冬のとっても寒い夜のことでした。その頃は、北海道に住んでいたので、気温はマイナス20度くらいありました。
 夜の9時前だったと思います。そんな寒さにもかかわらず、犬の散歩を忘れたことを思い出しました。

 その日はちょうど成人の日で、家に親戚たちが遊びに来ていました。遅い時間まで騒いでいる様子でした。私は騒がしいのが好きではありません。犬の散歩を理由にして、家の外に避難したかったのです。それで、防寒具に身を固め外へ出て行きました。
 真冬の十勝平野の夜はさすがに寒いです。空気まで凍りつくような寒さです。当時は最近より気温が低く、まさしく、しばれる寒さでした。ちなみに北海道地方の方言で〈しばれる〉とは、凍った縄で全身を締め付けられるような寒さを意味しています。
 その寒い寒い夜の道を、橋を渡って犬をつないでいる場所まで行きました。犬は家から離れた場所で飼っていました。川向こうにある私有地で、番犬の役目をさせていたのです。
 着いてから、黒い小さな犬の鎖を手に取って近くを歩いて行きました。風が強く横殴り、ほほに雪が当たり続けます。
 もう、遅い時間でしたし、もともと人が少ない広い土地です。視野の中には動く物はありません。かなり遠くまで見わたせるのですが、それでも人も車さえ動いてはいません。
 犬を散歩している……と書きましたが、散歩にするにはかなりの強風で、しかも吹雪いるのです。もう少し強い風が吹くと、たぶん、どこかに遭難する程度の風だと思います。今にして思えは、
——良くあんな夜に犬の散歩などしたものだ。
 吹き溜まりに気をつけて、強く吹雪いた時の非難場所を目で確認しながら、犬の行くまま歩いていました。すると、突然、犬が空に向かって吠え出しました。やがて立ち止まって吠えるのを止め、空の一点をじっと見つめています。
 その瞬間、空気の流れが止まって吹雪がおさまりました。
 その時、
——もしかすると時間が止まったのかな?
 とも思いました。しかし、遠くの景色は吹雪いています。犬も止まっているだけで、口から白い息を吐いています。
——何が起きているのだろう?
 と思いながら、犬が見ている方向に目をやると、電柱の上の1メートルくらい上に何か光る物が見えました。
 最初は何だか分かりませんでした。じっと見ていると、目が慣れてきて、ハッキリと見えるようになりました。あきらかに人工物です。そしてそれは、回転塔のような物で、空から生えているように見えました。赤と青と黄色の光が、ガラスのバケツのような物の中で、回転したり、点滅したりしていたのです。その部品の上部は金属のようでした。回転塔のまわり、半径50センチくらいから先は雲が広がっていました。雲に1メートルほどの穴が空いて、回転塔が出ているように見えました。
 雲を見回すと、私のいる場所を中心にして、直径1キロ位の間に吹雪きがなく、雲も静止しています。
——これは巨大な何かかな?
 と思いながら見ていると、回転塔が電柱をつたうように移動し出しました。犬も空を見ながら移動しました。
 鎖を持ったままでしたので、しかたなくついて行くと、直径1キロ程度の空間をしめている雲が同じように移動しています。しかも、何の音もありません。
 回転塔の光が川に近づき、橋の上に来た時、大きな道を直角に曲がってものすごい速さで上昇して行きました。巨大な雲ごと上昇し、あとには激しい吹雪だけが残りました。
 この体験はこれでおわりました。翌日の新聞に、UFOを目撃した人の記事が載っていました。
 記事は〈昨夜、多くの人がUFOらしき物体が飛んでいるのを目撃した〉と言うような内容でした。それを読むと、私が立っていた所から飛んで行ったようでした。
——幽霊だっているのだから、UFOだっているかも知れない。
 と、その時は思いました。

 UFOは〈未確認飛行物体〉のことです。空飛ぶ円盤のことではありません。多くの人々は、アダムスキー型の宇宙船をUFOと呼んでいます。また、UFOと言うと、そんな物を想像してしまうのです。しかし、本当は、未確認の飛んでいる何かです。皿が飛ぼうと、雲であろうと、見間違いであってもUFOになります。まぁ、未確認の飛行する物体を目視で確認するのは、何だかおかしな話です。
 後に何回かUFOらしき物を目撃しましたが、明らかに不自然な人工物が飛んでいる場合と、
——狐か狸にでも化かされているのでは?
 と思う場合とがありました。
 実際、UFOが目撃されやすい地域は、昔から狐狸に化かされる被害の多い地域と重なるのです。UFO現象を狐狸の所為せいにしているのか、さもなくば、単に化かされているのかも知れません。狐火などは、遠目に見るとかなりUFOぽいです。
 私は宇宙人に出会ったことはありません。過去の文献や、播磨陰陽師の伝承を調べても、宇宙人の概念がなかったのか、映画で見るようなグレーのエイリアンぽいものは見つかりませんでした。

 江戸時代の絵に、お釜のような宇宙船に乗った日本髪の女性が、玉手箱のような物を持って降りてくる物があります。多くのテレビ番組では、
——これが宇宙人が来た証拠である。
 と言わんばかりに、しきりに放送しています。しかし、良く見ると、あれはただの瓦版のヨタ話です。歴史的にも何の価値もない偽ニュースなのです。瓦版のネタを信じるなんてどうかしています。その理由は、洒落で楽しむ物だからです。だいたい日本髪の女性が降りてくるのも怪しいです。ですがテレビでは、さも鬼の首でも取ったように何度も放送しています。他の、いわゆる〈心霊特集〉を見ても、いい加減な物ばかりをやっているようです。関連雑誌もあまり変わりばえしません。ネタがなくなると〈心霊特集〉をやるそうです。

 昔の資料の中に、どう考えても他の星から来たとしか思えないものをいくつか見つけました。
 そして、ふと、
——神と呼ばれるものも宇宙人だしね。
 と思いました。
 播磨陰陽道の宇宙の概念は、遠い星々も含まれているので、当然、そこを統治する神々のことにも触れています。姿は明確に伝わっていませんが、考えたら、あれが宇宙人……もしくは宇宙の星々の神なのですが……。

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