御伽怪談短編集・第十話「雪隠の疫病神」
第十話「雪隠の疫病神」
ここに不運で哀れな男がいた。
時は延宝(1672)、天下分け目の関ヶ原から七十年ほど過ぎた頃のこと。
不運な男は名を、御厨松之助と申した。立派なサムライではあったが、いわゆる勇猛果敢な性格には、ほど遠かった。小さなことに怯えては騒ぎ立てる弱腰に、同僚たちも閉口していた。軟弱な心の持ち主であり、まわりからは軽く見られていた。不運と言ったのはそれだけではなかった。何をやっても結果は裏目に出るのだ。もし、おみくじを引いたとしたら、たぶん〈凶〉しか出