見出し画像

ギフトエコノミーとわたしたち

小さな子どものころ、不思議に思っていたことがあります。
それは、「地面をどうして売ったり買ったりできるのだろう」ということでした。

地球はむかしは人が住んでいなくて、町も国も建物も道路もなかったのです。
境目というものは存在しませんでした。
ところが今や地球上にはたくさんの境目が存在し、多くの土地が誰かの所有物になっています。
ハガキくらいのサイズの地面の所有のことでもめたり、犬のテリトリーよりも小さな土地を売り買いするのにびっくりするほどのお金が交換されます。

こんなことを思い出したのは、『ギフトエコノミー』リーズル・クラーク、レベッカ・ロックフェラー著、服部雄一郎訳(青土社)を読んだからです。

この本を翻訳した服部雄一郎さんは、わたしの古くからの友人です。
彼がこれまで翻訳した本はどれもすばらしく、今回も楽しみにして読み始めました。

まず驚いたのが、ギフトエコノミーとはシェアエコノミーとは違う概念だということ。
ギフトエコノミーにはお金が介在しません。シェアエコノミーでは、余剰だったり使っていないものを誰かに提供し、それによっていくばくかのお金をもらいます。
それに対して、ギフトエコノミーは買うのをやめて分かち合うのです。

ギフトエコノミーには3つの基本的なアクションがあります。
1.ゆずり
2.受け取り
3.感謝する

わたしはこの考え方には大きな自由があると感じました。
お金を基準とした経済ではすべては「交換」であり、物事の価値は「それが金額にしていくらになるのか」ではかられます。

これはモノだけではなく、人も同じです。
わたしたちは自分たち自身もモノとして、市場ではいくらの価値があるかを常に気にしています。
どんなスキルがあり、どんな経歴があり、どれだけ評価されているか。

それに対してギフトエコノミーには、交換ではなく「贈り物」で世界が成り立ちます。
共通した価値というものはなく、一つ一つの贈り物はそれぞれの複層的な側面を持ち、それぞれ違った形で感謝をされます。

わたしはこの本を読む前は、本のテーマは「持続可能な経済の在り方」だと想像していました。
もちろんそれも含まれるのですが、もっと深くて広い、わたしたちの存在の基盤を変えるような力があると感じました。

この本をこれから読む方のために、詳しい説明はしないでおきます。
どうぞ手に取って、読み終わったら友達に本を貸してください。
生きていくことはバトンを渡すこと。
人と人のやり取りも、経済も同じです。バトンを渡すことです。

バトンには誰かが決めた価値があるのではないのです。
価値は新しくその時その場所、その人たちの間にできてくるものではないでしょうか。
そしてわたしたちの価値も、本当はわたしたち自身が決められるものなのです。

この本には楽しいギフトエコノミーライフのエピソードや、アイディアの数々が紹介されています。
それを読んでいるだけでわくわくすることでしょう。
加えて装丁が美しく、軽やかで視覚的にもやさしく語りかけてくれる訳文も素晴らしいと思いました。
(友人の仕事であることはまったく関係なく!)

この本の帯にはこう書いてあります。

この本は、あなたへの招待状。
「買わない暮らし」とは、
要らなくなったものをゆずりあり、
すっきり、心おだやかに過ごすこと。
あるものでまかない、ないものは作ること。
きっと、忘れていた大切なものにめぐり逢える


そして終わりに、これまでに服部雄一郎さんの翻訳した本の一部を紹介します。
どれも暮らしを楽しく、軽やかに変えてくれる力を持った本たちです。

『ゼロ・ウェイスト・ホーム』ベア・ジョンソン著(アノニマ・スタジオ)

『プラスチック・フリー生活』ジャンタル・プラモンドン、ジェイ・シンハ著(NHK出版)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?