fatwreck

主に鑑賞した映画の感想を書いています

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FGO LB7 『ナウイ・ミクトラン』 〜この星があなたに届きますように〜

「嘘つきばっかりなんだ。気持ち悪いなあ」 誰もが平等であって、誰もが特別じゃない。 そんな汎人類史の価値観に対して、アルトリアが胸に抱いた正直な感想。 足りないものが多い人間という知性体は、他人より優れていたいという飢えを抱えながら生きている。 妬み僻みで足を引っ張りあっているのに、耳触りのいい”理想”を標榜することでその醜悪さを誤魔化す態度。 どうあれ差は生まれる以上、誰かを踏みにじりながら生きていかざるをえないのに、その現実から目を反らして拙い夢を見る無責任さ。 彼女

    • 映画『アンダーカレント』 あなたの人生を聞かせて

      フィアット。 空と海。 青い服。 冷たい風。 白いマフラー。 役者の演技をじっくり堪能できる素晴らしい映画だった。 佇まいや眼差しだけで、その人物が背負っているものの重みを感じさせる。 人の厚みに説得力があったからこそ、彼らの内面に深く潜り込んでいく道程は静かな緊張感に満ちていた。 振り返ってみれば、この映画を見ること自体が、人の暗流に耳を澄ませる行為だった気がする。 2時間かけてゆっくりと水の中に沈み込んでいくような。 ラストシーンは原作とは異なっているらしい

      • 映画『アリスとテレスのまぼろし工場』 膝裏フェチはマニアックなのか?

        とても奇妙な映画だった。 いくつものテーマが次々と浮かび上がり、そしてすべてが錯綜しながら突き進む混沌としたクライマックスの展開は、感動とも戸惑いとも呼べる独特の味わいを醸し出していた。 そして、どうやら私はその味わいを気に入っている。 愛おしいとすら感じているかもしれない。 一体この映画の中では何が描かれていたのか。 そして私は何に戸惑い、何に感動したのだろうか。 生きて、痛い予告編からは、岡田麿里お得意の青春群像劇の展開が予感された。 夢を持つことを良しとしない

        • 映画『バービー』 きっと何者かになれる

          男女間の不均衡の問題を描きながらも、人が存在意義に苦しみ、他者と争うその根本的な問題を炙り出す。 理不尽で矛盾だらけの世界であることを認めつつ、その苦悩を解決する糸口は自己認識の解像度を高めることにあると指摘する。 そのうえで、ありのままでいいなどと耳障りの良い結論を安易に用意しないところが、とてもグレタ作品らしいと感じた。 そして映画の終盤には、被造物と創造主の間に横たわる断絶にもスポットライトが当たる。その描写には、消費されるキャラクターへの愛と、人間の窮屈な生への肯定

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        FGO LB7 『ナウイ・ミクトラン』 〜この星があなたに届きますように〜

          映画『遠いところ』 遠い心

          込められた想いは切実だった。 どうか多くの人に届いてほしいと思う。 この映画はきっと、そう願って作られたはずだから。 そこで生きる人の姿 痛くて、重たくて、苦しくて、冷たい。 見ている間、ずっとそんな感覚が漂っていた。 凄惨な現実を前にして、自然と心は希望を探し求める。 どこかに解決の糸口があってほしいと。 しかし、そんなものはどこにもない。 問題の根の深さは、少年少女が自分でどうにかできる範疇を遥かに超えてしまっている。 底の見えない絶望的な状況を知って途方に暮れ

          映画『遠いところ』 遠い心

          映画『逃げきれた夢』 柴犬はかわいい

          フィクションとリアルの境界を探るような映像だったからか、見ていて濱口竜介監督の作品が思い浮かんだ。 いわゆる異化効果ともまた違う、僅かな現実とのズラしが独特の味わいを生んでいたように思う。 映像もお話もスケールとしてはとても小さい。 定時制高校の教頭を務める末永周平の、特にこれといった事件も起きない平穏な日常が描かれる。 劇的な音楽は流れず、時間の跳躍も起こらない。 身体が躍動することもなく、ただ日常的な動作が繰り返されるだけ。 現実世界を支配する重力を、誇張することも矮小

          映画『逃げきれた夢』 柴犬はかわいい

          映画『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』 白城ゆいはやさしい

          誰かの言動に深く傷つく。 その痛みを自分の中で抱え込むのは苦しいから、言葉にすることで消化する。 その言葉を誰かに聞かれるのが怖いから、ぬいぐるみに語りかける。 この映画で描かれた弱さに共感できない、という人は少ないんじゃないだろうか。 映画を見るまでは、その弱さを肯定する内容が描かれることを想像していた。もちろんこの映画の軸足はそちらにあったと思うが、決してその一面的な切り取り方に終始せず、弱さが持つ危うさにもスポットライトが当てられた。 非常に繊細で、ともすれば(それ

          映画『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』 白城ゆいはやさしい

          映画『ザ・ホエール』 どうしようもなく醜い

          ソファーに沈めた体を起こすことが、どうしてこれほど難しいのだろう。 落ちたものを拾うだけのことが、どうしてこれほど億劫なのだろう。 ただ当たり前に生きてるだけで、色々なところが痛んで仕方ない。 心はいつも叫んでいる。 誰かへの愛を。 誰かへの憎しみを。 心の贅肉だ。 誰も中に入れてはいけない。 その醜いカタチを見せるわけにはいかないのだから。 善意も悪意も、想いは捻じれ伝わり、願いは届かない。 人に誰かを救うことなどできはしない。 だから静かに消えてしまい

          映画『ザ・ホエール』 どうしようもなく醜い

          映画『シン・仮面ライダー』 ヒーローの条件

          庵野秀明が関わった、シン特撮シリーズ第3弾。 聞こえてくる噂はネガティブなものが多い印象だが、3作の中では今作が一番好みだった。 正直なところ仮面ライダーシリーズには特に思い入れはなく、幼い頃数シリーズだけ見ていた記憶と、親におもちゃを買ってもらった記憶が朧気にある程度だった。 それ故さして期待もせず見に行ったのだが、予想を遥かに超える感動が待っていた。 まず何より、ビジュアル的な要素が大きかった。 庵野作品らしい、ユニークなカメラアングルで切り取られた美しい構図の画面に

          映画『シン・仮面ライダー』 ヒーローの条件

          映画『少女は卒業しない』 学園に置いてきたもの

          卒業式を翌日に控えた、高校三年生の少女四人の群像劇。 卒業という区切りを機に、それぞれがそれぞれの大切なものに別れを告げる、美しくも切ない青春の一幕。 私の高校生活にこんな美しい煌めきは一欠片もなかったが、少女たちの姿には共感要素の多寡とは関係なしに胸に迫るものがあった。 彼女たちが身を切るような思いで大切な宝物を手放すその痛みが、青春の甘酸っぱさなどという通俗的なイメージの枠を突き破ってひしひしと伝わってきたのだ。 卒業という強制的な区切りは、ある種の暴力だ。 残された人

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          映画『コンパートメントNo.6』 熱を分け合って

          「過去を知れば現在を容易に理解できる」と男は言った。 みんなは深く頷いた。 「人間同士の触れ合いは、いつも部分的にすぎない」と女は言った。 みんなは笑った。 その言葉が、マリリンモンローのものだったからだ。 彼らの自信に満ちた態度から語られる言葉にはゆるぎがない。 この世に解明できないことなどないのだから、恐れることは何もないのだと言わんばかり。 彼らはきっと正しい。 議論になれば、必ずや相手を言い負かすだろう。 しかし、貪欲に世界の空白を埋めようとするその態度にこうも思

          映画『コンパートメントNo.6』 熱を分け合って

          映画『エゴイスト』 問題はエゴではなく

          誰かを愛そうとすれば、相手の幸せについて考えざるを得ない。 自分にとっての幸せさえ定まらず不確かなものなのに、他人の幸せを理解することなんてほとんど不可能だろう。雲をつかむような話である。 それでも、願ってしまうのだ。 あなたと一緒にいたい、あなたに必要とされたいと。 たとえ、何もわからないまま終えていくのだと、心のどこかで気づいていても。 その苦悩に見合うだけの報酬は、多くの場合約束されていない。 夢見るような合一は果たされず、問題をよりややこしくしただけの徒労に終わる

          映画『エゴイスト』 問題はエゴではなく

          映画『すずめの戸締まり』感想 忘却よりも怖いのは

          この映画を見た人たちは、それぞれ何かを思い出したのだろうか。 私の場合それは震災に関する記憶ではなく、全く個人的な故郷にまつわる記憶だった。 奇っ怪な導入から始まった日本列島縦断ロードムービーは、宮崎を出発して東京を越え、果ては東北大震災の被災地へと至り幕を閉じる。 映像的なカタルシスに反して、どこか見知らぬ土地で放り出されたような居心地の悪さを覚えたが、それが何なのかよくわからなかった。 だが時間が経つにつれて、段々とその得体の知れなさが氷解して自分の中に染み込んでくる

          映画『すずめの戸締まり』感想 忘却よりも怖いのは

          映画『もっと超越した所へ。』感想 

          見せられちまったぜ……超越した世界の景色ってやつをさあ!!! あとから予告を見たんですけど割と仕掛けを見せちゃってるんですね笑 なんも知らずに見に行ったから素直に驚いてしまった。 とはいえわたくし天邪鬼なので、こういうセンセーショナルなタイトルを見ても斜に構えてあまりその部分には期待してなかったんですよ。 でも見事に食らっちまいましたね。 超越の仕方が全く予想していない方向だったというか、なんとなく自分が大事にしたいと思っている価値観とも結びついていてびっくりしてしまっ

          映画『もっと超越した所へ。』感想 

          映画『四畳半タイムマシンブルース』感想 今ここに“あなた”といる豊かさ

          明石さんはかわいい。かわいいは明石さん。 諸君、異論があるか。あればことごとく却下だ。 もう感想なんてこれでいっかって気がしてきますね。いやまじで。 四畳半神話大系では私と小津の友情に焦点があてられていたけど、今作ははっきり私と明石さんに。 明石さんのいろんな表情や動きが見られてそれはそれは眼福でした。 本作は『サマータイムマシンブルース』とのコラボ作品で、それはこれまで森見作品のアニメ化のたびに脚本を担当してきた上田誠さんとの縁があってのことだと思いますが、これがめちゃ

          映画『四畳半タイムマシンブルース』感想 今ここに“あなた”といる豊かさ

          映画『マイ・ブロークン・マリコ』感想 死が壊すもの

          好きな原作の映像化って楽しむハードルが上がっちゃいますよね。 どうしても原作の体験と比べたり、原作との差異に目が行ったりしてしまって。 特に漫画やアニメの実写化だと顕著で、どれだけ原作の場面を忠実に再現したところで、漫画やアニメの描線と生身の肉体の演技には埋めがたい差が生まれる。むしろその描写が近いほど、その差は浮き彫りになる。 でもそれは良い悪いではなく単にメディアの違いでしかなくて、メディアミックスってそういう違いや変化を楽しむことが前提にあると思うんですよね。 原作至

          映画『マイ・ブロークン・マリコ』感想 死が壊すもの