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異次元喫茶店 第1話

1. 居場所

今日も客が来るか来ないか分からない喫茶店のマスターを私はしている。

ピクピク星のスズナリという生物か名前さえも分からないやつに、ここを紹介された。
借用書もなければ契約書もない。
ここは、今日からお前の店だ。好きにすればいいと言われた。外に出ればいつも市が開かれている。でもそこにいるのは容姿は出鱈目だ。いや、私の方がおかしいのかもしれない。

ここの時間の流れ方は実に妙だ。気分に寄って天気が変わったりする。いや、訪れる者たちによって市が動いているようにも思う。
にこやかな子供たちのような感情を感じる時は、ソラは晴天で雲一つなく、実に清々しい。私がいた地球の日本という国の秋空によく似ている。
何かあるかもしれないと思わせるように、もう一歩先に行ってみたいと思う欲張りな自分がじわじわと出てきそうな、そんな期待を与えてくれる天気になる。

フード深く被り、まるでお通夜のような集団にあったときは市のソラには稲光が走っていた。

彼ら全員、黄泉に行くわけではない。そういう方たちに会ったことあるが、基本訪れる際は他のお客さんはまず入ってこない。譲り合いの精神のようには見えないが、空気感を感じるのだろうか。

ちなちに私自身、正直生きているのか死んでいるのかもよくわかっていない。ほとんど寝ずに店を開けている。というか眠気もないし、何故か店にいた方がいいように思う。材料がなくなったときにだけ、市に顔を出すのだ。

私がここにきた経緯はいまではぼんやりした記憶しかない。確か前の世界でも喫茶店をして大雨の日に豆を仕入れに出かけたんだが、いつもにもまして凄い雨で、その中でポツリと空いていた不動産屋に雨宿りを申し出たんだ。
そこの店主は気さくな人でお茶をいれようということになって、何気なく喫茶店を手伝っているのでやらせてくださいといってハンドドリップの珈琲を淹れさせていただいた。店主はすごくその珈琲をいたく気に入ってくれて、ぜひ店を任せたいのがあるんだと、熱のこもった口調でお願いしてきた。私は今の喫茶店の切り盛りもしないといけないので2つは見れないと話したところ、君の喫茶店は昨日の落雷で火事になってしまったというではないか。
私はびっくりしながらも今日の日付を店主に確認すると、どうも一日未来に私は辿り着いていたらしい。あの雨がそうさせたのかは不明だが、事実は間違いなかった。
私はすべてを失ったのだ。大好きな珈琲カップや大事な器具や、たまにかけていたレコードも。

肩から力が抜けてしまい、ソファに座り込んでしまった私をみて、店主から提案があった。少し珍しい物件なのだが、そこの喫茶店をしてみないかと。そこのマスターが現役を退く予定で候補者を探していたのだという。道具屋や家財はすべて自由に使ってほしい。やめたくなったら、適当な時に店を出ていいんだという。ちょいと変わった地域にあるから驚くことも多いだろうが、君ならやっていけそうだよと。あと古ぼけてはいるが、レコードプレイヤーとレコードも沢山あるとのこと。
私は願ったり叶ったりの条件に二つ返事でお願いをした。

初めて物件をみたときは、ここの異質な世界に戸惑ったが大好きな、喫茶稼業ができる喜びが大きく、深く考えるのをやめてしまった。

こうして、お客さんに珈琲が出せて、少しの時間の隙間に、お客さんの感性に触れ喜びに浸る毎日が始まったのである。

ここが、次元の狭間と知らずに。

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