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短編小説

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#しょうもない話

小説: イバラの道をゆけ

小説: イバラの道をゆけ

男は天才故に変態であったがそれ以上に繊細であった。しかし、彼の創造物はどれもこれも何やらよく分からぬ臭い汁にまみれている。それゆえ飴細工のような美しい心を理解出来る伴侶となり得る女性はこの世から絶滅したと思われていた。我々どころか男もそう思っていたし、男はそんな境遇に酔いしれニヤニヤと笑っていた。したがってその一報を聞いた時、それは冗談であると我々は一蹴した。しかし、彼の態度を見るとどうもそ

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小説:休日の可動域

小説:休日の可動域

片手に収まる大きさの液晶を眺めていたらもう朝の11時をまわっていた。おかしい、先程女児アニメが終わったばかりではないか。エンディングが流れたのもつい数秒前の出来事に感じられる。したがってまだ9時程のはずである。しかし、六畳の部屋にある時計を全て見渡しても、短針は真上に到達しようかという具合である。

終わってしまう。このままでは一日が。

先週もその前の週も、であれば先月、更に

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小説:突撃夫婦の晩御飯

「みんなで食べたほうが楽しいのに」

 集団による規律統制のためのまやかしの呪文を私に浴びせるのはやめていただきたい。断固拒否する。

 そもそも、一人でご飯を食べる時間ほど豊かな時間はほかにない。それを知らぬとははなはだ失礼な奴だ。相手が同じく大学生の純粋無垢なおとこであるのなら女子大生でごった返した新大久保に一人放り投げて韓国料理でも食って来いと言うところであるがそうはいかない。

 私と彼女

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小説:花火展望石階段の乱

小説:花火展望石階段の乱

 階段を登ってくる風に揺られ、木々はさわやかに揺れる。日陰から見上げる真っ青な空と入道雲は実にまぶしかった。ここで純粋無垢な乙女とともに空を見上げ共有したイヤホンで恋の歌でも聞けたら何と素敵なことであろう。

 しかし現実は甘くないのである。青い空の下で麦わら帽子をかぶり白いワンピースを着た無垢な乙女との出会いなどまるでない。それどころか、ここにいるのは汗で石畳を濡らすさえない男どもである。このう

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小説:留年生の華麗な部屋

 諸君、クオリティオブライフを高めるうえで最も大切なものはなんだかわかるだろうか。それは住居である。古来より衣食足りて礼節を知るということわざがあるがなかなかどうしてここに住が入らないのかもっぱら謎である。故人よりも私のほうが優れているということか。

 優れた私が設計した部屋なのだ。端的に言うと、イヤ、もはやこの部屋はこの言葉でしか表現できない部屋なのである。そう、完璧だ。まさに魔法界である。

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