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Graap Gohu

Sinobu Kurono ©

第23夜 角月

切り離した爪のような形をして月は白道を転がり始めました。真夜中を2刻過ぎて三叉路の淑女の猟犬が奈落の咎から逃れ出た亡者の頬に牙をかける都会の静寂のただその中で、月は絞りでたその嘆きに耳を傾けました。

外灯1つに照らし出された赤いドレスの主は非業の女神の定めに従わない身。

「昔、私は忙しい日々を過ごしていました。仕事に全てを捧げ単純で退屈な作業に追われ夜になれば月を見て自分が何故生まれたか問いかける。そんな何も価値のない私でも、虚しい隙間を埋め合わせる情熱がありました。激しい欲情に想いを寄せ、時には痛ましい激怒が過ぎ、張り裂ける悲痛が押し寄せる時には、その想いで張り裂ける事もありました。丈夫だけが私の取り柄ですからしばらくたてば過ぎりさった感情が何もであったか忘れます。乱暴な男が私の大切な所を暴言とともに突き刺す事もありました。私はそれでも利用されてるだけだと知りつつも逆らう事、疑う事なく日々を過ごしました。優しい男もいました。胸に溢れた想いをすべて吐き出させてくれる男。彼が若い頃その手つきは投げやりでしたが経験を積み私の扱いになれたのでしょう。私と彼は仕事の中で結ばれ、彼の死と共に終わりました。明日私は死ぬのでしょうか。私の2つの口はテープで塞がれ撤去という貼紙が私の身体にくくられて。月よ月よ生命なき者の愛しき友よ。どうか教え下さい。手紙と明かされた秘密を預かる私はもはや無くてもいい存在なのですか?」

翌夜、同じ白道を月が通り郵便ポストの場所を照らましたがそこにあるべき影はなく、そこにあるべき姿もありませんでした。

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