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【小説】  猫と手紙  第14話

第14話


彼女とカレーを食べながら話をするというのが、僕の日常に溶け込む様になっていった。
彼女の様に色々な話をする事が僕には出来なかったが、彼女は笑ってくれていた。
僕と居て何を楽しいと思ってくれているのか分からなかった。
ただその疑問も、どう聞いたら良いのか分からなかった。

会うたびに彼女に対する自分の気持ちが、だんだんと変化している事に自分でも気付いていた。

彼女は大学やバイト、家の事はあまり話題にしなかった。
僕と会わない日の彼女の事も、僕はもっと知りたかった。
 
 
彼女は会う時は決まってあの黒いヒラヒラとしたワンピースを着ていた。
なぜいつもそのワンピースなのか僕には分からなかったが、かなり気に入っている洋服みたいだった。
スカートをふわりとさせてちょこんと座る彼女は可愛らしかった。

カレーを食べながら、やはり僕らはいつも他愛のない話をしていた。

ある日僕は、よく家の前に来ていた黒猫の話をした。
自分が話をするのは珍しかった。
その黒猫の話を、彼女は興味深そうに聞いてくれた。

そして彼女は、その猫に今度来たら餌をあげよう。
それで懐いたらここで飼おうと言っていた。
嬉しそうだった。
僕もこんな話を楽しそうに彼女が聞いてくれるので少し嬉しかった。

けれど、猫が僕に懐いている様子が想像出来なかった。
「きっと猫は僕に懐かないよ」
彼女ならそれが出来るかもしれないけれど、僕には無理だ。
動物には好かれない。たとえ最初は寄ってきてもすぐに嫌になってどこかに行ってしまうだろう。

「絶対、そんなことないよ」
彼女は前のめりになって、いつもより強い口調で僕に返した。
僕はそんな彼女の一言が嬉しくてなんだか心強かった。
僕の事を、僕より信じてくれている様だった。

それから彼女は、最近知らない人から好意の手紙が家に届くという話をしていた。
差出人の書かれていない手紙だ。
僕は、
「迷惑だったりしないの?」
と聞いた。彼女は、
「嬉しいよ。誰だかは分からないけれど、すごく素敵な人だったらどうしよう」
と無邪気に笑って答えた。

僕は彼女から顔を逸らしながら、
「さあ、知らない」
とだけ言った。

彼女は続けて、
「手紙って、その人がすごく現れると思うの、字体とか、文章に。だから手紙好きなの。貰うのはすごく嬉しい。きっと手紙の人、素敵な人よ」
彼女は自信ありそうに言った。

彼女と今まで恋愛的な話は一切しなかった。そんな関係性では無かった。

僕がこれまでに付き合ってきた女の子たちみたいに彼女は甘えたり、恥ずかしそうにしたりしなかった。
いつも自然体で、無邪気で、幼い子供の様だった。
ただカレーを食べて、色々な話をした。
大半は彼女が喋っていて、僕は笑って聞いていた。
普段あまり笑わない僕も、彼女といると自然と笑う様になった。

 
そうやって数ヶ月過ごすうちに、彼女の誕生日がやってきた。

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