見出し画像

【小説】 白(シロ) もうひとつの世界  第16話

第16話

リリーは、僕が野菜を刻んでいるのを楽しそうに眺めていた。
今日のリリーも、前の世界と変わらない。やっぱり、テレパシーなんて僕の気のせいなのかもしれない。あの時の僕は疲れていたから。
「君は、いつも楽しそうだね」
「ジャンと居るからよ。私、ジャンと出会うまでは毎日に退屈していたの」
「僕と居るから?」
僕は、にやけてしまいそうな口元をキュッと引き締めた。そして、ずっと気になっていた事をそれとなく聞いてみた。
「ここに来ない間、どこに行っていたの?」
「う〜ん。色々と。綺麗なお花を見に行ったり、川に足をつけに行ったり、人間とお喋りしたり」
「……僕以外にも仲の良い人間が居るの?」
「うん! とってもお話上手で楽しいの!」
僕は、少しムッとした。
「ここに来ない間は、その人の所に行っていたんだ」
「二人で居ると、ついつい喋り過ぎちゃうの! 今度ジャンにも紹介するわ」
「……それはどうも」
僕は、楽しそうに話すリリーの横で黙々と野菜を切り続けた。
リリーに人間の友達ぐらい居たっていい。
それぐらい、別に良い。
「……リリーは、僕とその友達、どっちの方が好きなの?」
「どっちも好きよ!」
リリーは悪びれた様子も無く、すぐさま笑顔で答えた。その答えにまた少し、ムッとした。
「僕が一番じゃ無いんだね」
野菜を切りながら、冗談まじりでリリーに言った。
「順番つけた方が良いの?」
「別に……どっちでも良いけど」
僕は切り終えた野菜を、鍋にどさっと入れた。
料理に集中しているフリをした。
「美味しそうね。ジャンは料理上手だわ」
悪びれた様子の無いリリーは、鍋の中を興味深そうに覗いている。
「僕は、ジャスミンほど料理は上手く無いけどね」
あえて出したジャスミンという名前に反応する様子もなく、にこりと笑ってリリーは僕に返した。
「二人とも上手よ」
そう言うとリリーは、ふわりと飛んで近くにあった棚に腰を下ろし、足をぶらぶらとさせていた。
 
リリーはどれだけ僕に興味があるのだろうか。彼女の様子からは、あまり読み取れない。
 
 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?