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【小説】 猫と手紙  第19話

第19話

ソファで、はっと目が覚めた。


僕はまたここで眠ってしまっていた。
この場所は、心地良くてよく眠りに落ちてしまう。

撫でていた頭から手をどけると、その子はぴょんっと僕の膝の上から飛び降りた。
「あっ、待ってジャスミン」
僕の膝の上から飛び降りたその黒い猫は、ベランダの近くに止まって休んでいた鳥目掛けて飛びかかった。

ジャスミンが飛びかかったので、鳥はびっくりしてパタパタと大きな空へと飛んで行った。

『ジャスミン』は、僕が黒猫につけた名前だ。最近は僕のあげる餌もよく食べてくれて懐いていた。

マンションの前によく現れていたその黒猫を、ある時から僕は家の中に連れて入る様になった。

猫を飼う自信は無かったが、時々ジャスミンが現れた時にだけ、僕は家で餌をあげる事にした。

ジャスミンが家に来る時に限って、彼女は家に来なかった。
懐いてくれた猫を、僕は彼女に見せたかった。

ジャスミンは残念そうに、鳥が飛び立って行った綺麗な青空を見上げていた。
僕はジャスミンと一緒に空を見上げた。
 

ここ最近はこうやってぼんやりと空を見上げ、空想する様になった。

とても詳細で盛大な話だ。

 
僕はいつだって変わる事が出来た。
 
僕の中身を見ようとしないのは、母でも、周りにいた人たちでも他の誰でもない。
きっと僕自身だった。僕は自分に認められていなかった。
僕自身が僕を嫌いでいつも逃げていた。

僕は大人になってもあの幼い頃のまま、どう自分の気持ちを見ればいいのか分からず、周りばかりを見て、自分から目を背け続けた。

誰にも傷ついて欲しく無かった。周りの期待に応えたかった。
それで、自分の本当の気持ちにずっと気付かないでいた。

彼女の、温かい世界に触れるまで。

いつも自分の思いを言葉にできなかった。
どう言えば正しく伝えられるのか分からなかった。

ただ、誰かに気付いて欲しいと、分かってくれるかもと期待して、待っているだけだった。
多分、一言でも良かった。
自分の言葉がまとまらなくても、全てでなくても。
今なら分かる。僕の本当の気持ち。
正しい伝え方が分からなくても、きっと手を差し伸べてくれる人は、僕の周りには沢山いた。

「寂しい」

「悲しい」

そのひとことが言えるだけで、きっと僕の世界は違っていた。



僕はみんなが好きだった。

自分自身が分からず、言葉が出て来なくて、ちゃんと向き合うのが怖かった。
 


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