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【小説】 白(シロ) もうひとつの世界  第19話

第19話

しばらくして、フルーツサンドとコーヒーをアンナが持って来た。
「お待たせしました。……あの、私ももう少ししたら休憩取っても良いって言ってもらえて。お席ご一緒しても大丈夫ですか? ぜひジャンとも話してみたくて」
「もちろん」
「やった!」
そう言うと、今度はリリーの方を向いて言った。
「じゃあ、ちょっとお仕事頑張ってくるね」
「うん。待ってるね!」
アンナがまた奥の方に戻って行ったのを確認して、リリーに小声で言った。
「リリー、良いとは言ったけれど僕は何を話したら良いのか分からないよ」
「何でもいいわ。ジャンの話したい事で良いんじゃない?」
「僕の話したい事……」
そう言われて真っ先に頭を過ぎったのは、この不思議な世界の事だ。
こんな話をして、信じてくれる人なんているのだろうか。
リリーにもまだ話せていないのに。
一番身近だからこそ、何だか真実を突き詰めるのが怖かった。けれど、ほとんど話した事のないアンナになら、逆に何でも話せるのではないかとも思った。この機会に、リリーと一緒にいるタイミングで。
「僕が変な話を始めても、君は驚かない?」
「面白い話は、大好きよ!」
僕は、リリーの無邪気な笑顔に何だか後押しされた気分だった。そうだ。不思議な話だからこそ、単なる作り話だと思って笑って聞いてくれるかもしれない。固く考えずに、言ってみても良いのかもしれない。
「ジャン、フルーツサンド食べないの?」
そう言われて、僕は、フルーツサンドに手を伸ばし、大きくかぶりついた。
そうだ、なるようになるさ。
「うん! うまい!」
リリーは、その様子を見て満足そうに笑っていた。

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