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家庭の新しいカタチをたくさん見たと思った日

この日曜日、食の学び舎フードスコーレとの共催で『炊事から考える家事』というイベントを開きました。参加者が料理や家事について語り合うこのイベント、最大の特長は、参加者が男性限定ということ。

「男性限定」の料理イベントをやる理由

これまで家庭料理や家事としての料理に関するトークイベントを多数やってきました。そこに来てくださるのは9割が女性で、男性の姿はほとんどありません。
コロナ禍を経て、若い層を中心に料理を日常的にする男性は確実に増えているはず。それなのに男性の声はなかなかこちらまで届かないものだなと感じていました。

ひとつ言えるのは、おしゃべりな女性たちが集まって家事や料理の話をしている輪は、男性が単身で入るにはハードルが高すぎるということ。
本来は料理の話をするのに男も女もないはずで、参加したい男性がそういう理由で来ないのはもったいない。そこで今回は思い切って「男性限定」として募集をしました。(配偶者とお子さんは参加OKです)

すると告知から1時間で満席に。反響に驚きつつ、こういう場に来たいと思っていた男性もいるんだということがわかりました。

今回、フードスコーレに協力を仰いだのもよかったです。代表の平井巧さんはご自身も家事をやっていることから、参加者にマインドが近い。フードスコーレの活動には食品ロスなどの社会問題やアカデミックな一面もあり、男性にも入りやすい空気感があります。

ちなみに場所はいつもお世話になっている、千駄木・KLASSです。

ごはんの支度を一緒にするとすぐ仲間になる不思議

当日は、私が会場で料理をしているところに入ってきてもらう形をとりました。本日のメニューは、たけのこごはん、くるくる豚汁、ほうれんそうといんげんのハリッサごまあえ、焼き新たまねぎの和風マリネ。春ですね。
炊きたてのたけのこごはんは、参加者自身でおにぎりにしてもらいます。食には一瞬にして知らない人を結びつける力があるなと常々思いますが、特に料理を一緒にやるとその距離はぐっと近づきます。

みんな揃ったところで食べながら、自己紹介もサクッとしてもらいました。参加者は基本的に何かしらの家事をやっている人ばかり。家事の受け持ち方は実にさまざまです。
ほぼ全てをやっている方。
料理は自分、掃除や選択は妻という方。
土日だけ料理する方。
仕事の時間やスタイル(在宅か通勤かなど)、お子さんの年齢や人数によってそれぞれの家庭で配分している様子がうかがえます。

本日の参加者は、男性9名。配偶者5名。お子さん連れの方も3組いました。

3ピース・ダイアローグで「家事のもやもや」をさぐる

食後はいよいよディスカッションです。今回は、以前にもやったことのあるワークショップ形式をとることにしました。それが「3ピース・ダイアローグ」です。

このワークショップは、2019年にNサロンの講師をやった際、ワークショップデザインの専門家・臼井隆志さんに設計してもらったものです。詳しくはこちらのnoteをご覧ください。

基本は3人一組です。
A:話す人 B:聞く人 C:メモをとる人 の役割分担をしたらスタート。

やりかたは
①Aが話し、Bが聞き、Cがメモをとりつつ対話を見守る(5分)
②BとCが、どの点をもう少し深く聞きたいか話し合う(2分)
③再度Aが話をしてBが聞き、Cがメモをとる。(3分)

1セット10分です。これを終えたら役割を入れ替えて、全員が話をします。10分×3セットで30分。このあと、5分で3人で話のふりかえりをして、おしまいです。

今日のテーマは「家事でもやもやすること」。
もやもやというのもあいまいな言い方ですが、要するに家事の悩みです。課題という言い方をしてもいいかもしれません。改善したいとか、うまくいっていないなとか、そうした事全般について話をしてもらいます。

さあ、準備ができたらスタートです!

この3ピース・ダイアローグでは、話す、聞くの役割に集中してもらうことによって、雑談のように話が流れたり飛んだりせず、しっかりとテーマを聞き出せます。

Bの聞く人は、とにかく聞くことに集中して、否定やさえぎりをなるべくしない、というのがルール。相手に気持ちよくしゃべってもらいます。
メモだけとるCの役割も実は大きい。客観的な目線です。多くの夫婦の話し合いが不毛に終わるのは、Cの役割をしてくれる人がいないからかもしれません。

家事の悩みは男性だからといって変わらない

3セットが終了し全員が語り終わったところで、全員の前で、各チーム2分ずつ話し合った内容を発表してもらいました。どんな意見が出たでしょうか。私のメモ書きを抜き出します。

・役割分担の境目にもやもやがある
・価値観のズレ。
  その日の気分で適当にvsレシピきっちり
  料理にお金をかけたいvs節約したい
  片付けをしてから食べたいvs温かいうちに食べたい
・話し合うこと大事。食い違うときは相手の「こだわりの重さ」を見る
・話を共有する機会がない。男性同士で家事をテーマに話すことがない
・ただやっていることを誰かと話ししたいだけなのに、家事の話をするとマウンティングしたように受け止められてしまう。「料理やってるんだ、すごいね」みたいな感じ
・料理をし続けて、この先どうなるかというものがない。日々は回せているけれど、どこにもたどりつけない感
・作った料理をおいしいと言ってもらえないと凹む(おいしいと言うようにしているという声もありました)
・作るものがマンネリ化する
・時間がない、忙しくてイライラしてしまう
・食事で栄養をとるという意識が強すぎて料理を楽しめていない

女性チームの発表も出しておきましょう。

・夫婦のタイミングがちょっとズレてる(ご飯を作っているときに相手には食卓をととのえてほしい!など)→もちつきのタイミングみたいな阿吽の呼吸がほしい
・相手への不満はなく、自分へのもやもや(スキルをもっと得たい)
・家事を(やってくれているパートナーに)楽しんでもらえるようにマネジメントしている
・やってほしいことをうまく言えない
・役割を線引きしている
・誰かが我慢するときに、そこに感謝の気持ちがほしい
・減点法じゃなく加点法でいきたい

実にいろいろな意見が出ました。家事という仕事そのものの悩みについていえば男性と女性の違いってほとんどないなと感じたのですが、その中で、

・家事のことを気軽に雑談できる相手がいない
昔で言う井戸端会議的なものが機能しなくなっているため実は女性も家事の話はしなくなっています。ただ、家事を引き受けている男性の母数はまだまだ少ないだけに、相手がみつかりにくということは考えられます。この発言をした方は悩み相談までいかない、単に鍋はどんなの使ってる?とか、食材の保管どうしてる?みたいな「家事の雑談」をしたいだけなのに、その話ができる同性を探すのがむずかしいとのこと。「家事をやっている話をマウンティングと受け止められてしまう」というような意見もありました。

・日々の料理の先に、何も目的がない
これも男性に多い悩みかも。家庭料理って延々と続いてゴールはありません。しかも食べてくれる人が固定されています。とくに企業などでバリバリ働く人は発展・拡大・売上増みたいな世界で生きているので、なんの発展性もない仕事って理解できにくいことがありそう。仕事に邁進する女性もこういうメンタリティになっていくんじゃないかと思います。ここはもう少し掘り下げて聞いてみたいなと個人的に思いました。

多様性が「ふつうに」実現されていた

私は常々、味付けでも調理道具でも片付けのやり方でも、それぞれの家庭における多様性がもっとも重要なことだと思っていて、イベントなどでもよくそういう話をしているんです。
一方でメディアなどの仕事では「こうすれば解決!」みたいな画一的でわかりやすい解答を求められることも多くて、多様性を伝えることの難しさを感じていました。

また、男女平等が中途半端に進んだ結果、男女や夫婦のことをフランクに語れない空気も気になっていました。安全な橋を渡ろうとすると、通り一遍のことしか言えないからです。

でも、この日多くの方が話してくれた内容はそれぞれの家庭の個性がとてもよく出ていて、夫婦の関係もシェアの仕方も、そしてそこから生まれる感情もとても生き生きとした個性的なものでした。少なくともこの会に参加された方々の家庭では多様性というものがしっかりと確立されていたように感じました。

車座で家事の話を熱心にされている男性たちの姿を見て、私はなんだか自分が恥ずかしくなりました。日本全体を見れば、家事はまだまだ女性の負担が大きいということは間違いありません。でも、確実に世の中は変わっている、いま自分の目の前に気負いなくごく当たり前に家事をやっている男性がいる。そのことにきちんと目が届いていませんでした。

令和5年の今、家事を日常的にやっている男性はみんながイメージしているよりずっと多く、分担のやりかたも進化しつつあります。家事はもう女性のものだけではなくなっている。
わかりやすいけれど誰にもあてはまらない理想や正解を言い続けることより、地に足をつけて暮らしている人たちの話を聞いて応援し、これからの暮らしの形を見せていくこと。それが暮らしの情報を発信する人間がやるべき仕事のように感じました。

ご参加くださったみなさん、ありがとうございました。こんなふうに家事と暮らしを考える会を、もう少し続けてやっていく予定です。またの告知をお待ち下さい。


『炊事から考える家事の世界』
2023.3.9(SUN) 11:00~13:30
千駄木・KLASSまちの教室
写真提供:フードスコーレ


読んでくださってありがとうございました。日本をスープの国にする野望を持っています。サポートがたまったらあたらしい鍋を買ってレポートしますね。