見出し画像

【第1回】「小説家講座系サイト」を読んでも、小説家になんかなれないよ?

 さて、マガジン「モノカキTIPS」第一回ですが、「小説家になりたい人へ」などとのたまっておきながら、初回から存在を全否定するようなタイトルになってしまいました。そういった記事を書かれている方にケンカを売る意図などはもちろんございません。いやほんとに。

 さて、では記念すべき第一回目で何が言いたいのかと言いますと、「小説家になるのに、有効な方法論なんかマジでない」という身も蓋もない大前提があるということです。これはもう、実際に商業作家として何冊か本を出版してみて僕が実感したことでして、結局のところ、小説家になれる人は実力と運が伴えば小説家になれますし、なれない人は、いくらなにをやっても時間の無駄、というのが現実なのだろうな、と思うのです。

 とはいえね、「小説家講座系サイト」に書かれていることは、正直「正しい」と僕は思うんですよ。こういう努力をすれば文章上手くなるだろうな、とか、こういう心構えで小説を書けたら理想的だろうな、と思うからです。でも、その通りに努力した結果、作家になれるか?と聞かれたら、答えは「ほぼNO」です。

 ええ、、、なんでやねん、、、

 書かれていることは正しいのに、実践しても小説家になるための近道にはならないのはなぜか? 初回はまず、こういった「小説家講座系」のサイトや記事をどう捉え、どう活用すべきなのか。そして今後、僕がどういうスタンスで記事を書こうとしているのか、ということについて語ってみようかと思います。

■「小説家講座系サイト」は基本正しい!

 試しに、「小説家」「なるには」というキーワードで検索をかけると、さまざまなハックサイトが引っかかります。プロ作家が質問に答えているものもありますし、どこのどなたかはわからないのですが、それなりにライター経験がありそうな方がまとめた記事もあります。

 内容を見てみると、とても「正しい」ことが書いてあります。技術論から精神論まで。たぶん、有象無象のハックサイトでも、元をたどればプロ作家が書いたHOW TO本やブログの文章などを拾ってきていると思われるので、やっぱり書かれていることは「正しい」のだと思うのですよ。

 試しに、「小説家講座系サイト」で書かれている「小説家になりたいならこうすべき!」みたいなものをざっくり抽出してみますと、こんな感じになりました。

◆小説家になるために実践すべき8つのこと
①毎日少しずつでもいいから書く
 →一日1行、30分でもいいから毎日書き続ける。
②とにかく一本小説を書いてみるところから始める
 →まずは一本書き上げなければ始まらない。
③とにかくたくさん本を読む
 →本を読まない人間に本は書けない。
④いつでもアイデアを書き留められるためのノートを持つ
 →アイデアが降ってくるのは突然!逃すな!
⑤自分が応募する新人賞の傾向を把握してストーリーを考える
 →新人賞を獲りたいなら分析も必要。
⑥自分の書きたいジャンルを確立する
 →ミステリや歴史小説など、自分の専門分野を見つける。
⑦小説の技法や基礎を学ぶ
 →視点や時制など、基本的な技法を身につけることが大事
⑧設定ノートを作成し、プロットを組む
 →ストーリーの背景や骨組みを作り上げてから執筆すること。

 まだまだいろいろあったのですが、多く見かけるのはこの辺り。小説を書く上で、はっきり言ってぐうの音も出ないほどのド正論だと思います。まったく何も知らない状態からでも、この8項目を意識するだけで、原稿はずいぶんクオリティアップするんじゃないかなあ。

 ただ、これが「小説家になる」ということには直結しないのですよ。言い切るのには、それなりの根拠があります。なにが根拠かっつうと、「僕自身」なんですけどもね。

 新人賞を頂いてデビューするに至るまで、要するにアマチュアだった間に上記①~⑧の項目の中で僕が実践していたことは、一個もないんです。

◆実際、小説家になった僕が実践していたかどうかチェック
①毎日少しずつでもいいから書く
 →✖ 暇なときにたまーに書くだけだった。
②とにかく一本小説を書いてみるところから始める 
 →△ 初めて書き上げた小説がデビュー作。  
③とにかくたくさん本を読む
 →✖ 年に5冊読んだら多い方
④いつでもアイデアを書き留められるためのノートを持つ
 →✖ ノートを持ち歩いたことなどない
⑤自分が応募する新人賞の傾向を把握してストーリーを考える
 →✖ 応募は書きあがってから考えた
⑥自分の書きたいジャンルを確立する
 →✖ いまだに確立してない
⑦小説の技法や基礎を学ぶ
 →✖ 「視点」「時制」という言葉さえ知らなかった
⑧設定ノートを作成し、プロットを組む
 →✖ 冒頭から順に思いつきで書いていった

 とはいえですよ、僕が基本なんてクソ喰らえ、という「型にはまらない突出した天才タイプの人間」かというと、全然そんなことありません。むしろ、天才とは真逆のタイプだと思うんですよね。音楽を奏でるかのように文章を書ける人間なんかではなく、日々、うんうんと唸りながら、ぽつりぽつりと文章を積み上げていくタイプの凡人です。年中、頭が便秘気味です。

 でも、ド正論中のド正論をド無視して書き上げた処女小説でも、新人賞を受賞することができました。きっと、新人賞は応募作の「クオリティ」よりも、「伸びしろ」とか「将来性」が重視されるからじゃないかなと思います。つまり、「小説家になる」という目的を達成するためには、こういう「実践すべきこと」の類はあくまでも十分条件であって、必要条件ではないということです。

 実際、物書きを生業にしてからは、こういうド基礎がしっかりできてる方がいいに決まってる、ということが嫌と言うほどわかるんですよ。だからこういうのはむしろ、小説家になるならないというよりは、「ちゃんとした小説を書くために実践すべきこと」なんじゃないかなあと僕は思います。

 でも、「ちゃんとした小説」が面白いかどうかは、別の話。

■可能性は、限りなくゼロに近い無限

 僕は仕事がら他の作家さんとお会いすることもありますし、編集さんを通して他の作家さんの話を聞くこともありますけど、デビューの経緯からアイデアの出し方、原稿の書き方から執筆スタイルまで、まあーいろんな作家さんがおられます。もう、十人十色というか、似通った経歴・スタイルの作家さんなんかいないんじゃないか、と思うくらい千差万別。

 「小説講座系サイト」の記事では、「こういう人は作家に向いていない」みたいな記事も見かけるんですけど、そこで「向いていない」と言われているような性格の作家さんもおりますし、売れてる作家さんの共通点、みたいなものもないと思うんですよね。

 小説家たるもの古今東西の知識が必要、なんて思われるかもしれないですけど、他の作家さんと話をしていて、「この人、雑学的知識は皆無だな」と驚くこともあります。でも、作品は素晴らしいんですよ。書くときに調べれば書けちゃうから、知識があろうがなかろうがどうでもいい、っていうスタンスなんでしょうね。
 逆に、恐ろしいほど知識が深くてドン引きすることもありますけどね。

 つまり、どういうことか。

 小説家になるまでの道に、そしてなった後も、決まったルートなんかない、ということです。こうしなければならない、なんてこともないし、こうでなければならない、なんてこともない

 今、小説家になりたいと思っている人のほとんどは、統計上、たぶんその夢を叶えることはできないでしょう。でも同時に、ほぼすべての人に、小説家になる可能性がある、ということでもあります。どんな作品がウケて、誰が売れるかなんて、神様でもわからないですからね。

 自分が小説家に向いているか。自分の小説が面白いか。自分が小説家になるためにはどうすればいいか。すべて、考えるのは自分自身です。「小説家講座系サイト」の情報というのは、そういった自己判断のためのネタだと思ったほうがよいです。有益なネタを取捨選択し、自分に合っているものだけを身につけていく。書かれていることを鵜呑みにしたっていいことありません。

■当マガジンのスタンス

 「モノカキTIPS」なんてマガジンタイトルをつけておりますけど、ここに書く記事は、「こうすべきである」というHOW TOではありません。僕だって日々勉強中の身ですから、えらそうに言い切ることができる立場じゃないので。
 なので、一人のモノカキとして、仕事を通して見たこと知ったことを、そのまま事実として伝えて行こうと思っています。いわば、現役作家(僕です)と一緒に、いろいろ知ろう、学ぼう、というスタンス。

 書かれたことを実践するかどうかは自由。読者さんのスタイルにフィットするかどうかを判断するのも、読者さん次第。でも、現場の生の情報ですから、知って損をするということはないんじゃないかなと思います。


 ということで、今後不定期で当マガジンを更新していこうと思います。今はまだまだ読者も少ないので、しばらくは無料公開するつもりでおりますが、そのうち有料化できるくらいクオリティ上げていけたらいいなあ。

 取り上げてほしいテーマや質問などは随時コメント欄で受け付けますので、お気軽に投稿してみてください。

 
 


小説家。2012年「名も無き世界のエンドロール」で第25回小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。仙台出身。ちくちくと小説を書いております。■お仕事のご依頼などこちら→ loudspirits-offer@yahoo.co.jp