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正常性バイアスと学校の危機管理

ある日の午後、私は職員室で教材の準備をしていたとき、
突然、地面の奥の方から突き上げてくるような衝撃がありました。

時間にして10秒に満たない揺れで、
物が落下するほどの地震(震度3)ではありませんでしたが、
近年あまり感じたことがなかったため、
感覚的には、かなり大きな揺れに感じました。

心臓が早鐘のように打ちましたが、
何より生徒たちの安全が第一と考え、
揺れが収まった瞬間に校長、教頭、防災担当の先生と相談し、
即、周囲の安全確認しながら高台へ避難することを決定しました。

毎年、学校行事として避難訓練を行っていた成果もあり、
高台へは5分とかからず生徒、教職員の全員が
安全に避難することができました。

そして、その場で続報を待ち、
津波の心配がないことを確認できたので、安堵して学校に帰還しました。

それでも
一部の生徒は恐怖に震えていたり、
家族の心配をしていたりしたので、
担任を中心に心のケアを丁寧に行う必要があったため、
避難訓練においてカウンセリング的な内容も必須なのかもしれないと思い、多くのことを学ぶことができました。

地震の対応

この日、
同じ地域にある小中学校において対応が大きく2つに分かれました。

1つは、
私の勤務校のように高台や運動場へ避難し、
避難場所で児童生徒の安全確認をしたという学校と

もう1つは、
学校内で机の下に入るが、避難せず、揺れが収まったあと校舎内で待機し、津波などが起こらないことを確認したという学校です。

私の住んでいる市では教育長が防災に力を入れており、
何かにつけて学校の防災教育に口を出していたので、
この対応の件について何かしらのテコ入れがあるのではないかと
戦々恐々としていましたが、何の音沙汰もありませんでした。

しかし、逆にそのことが私を混乱させました。

確かに被害はありませんでしたが、後者の対応はあくまで結果論です。

これが問題のない対応であれば、
(何のために避難訓練をしているのか?)
と考えてしまいます。

他にも

・津波がくるという情報を得てから高台へ避難するのか?
・津波がくるとわかってから避難するほうがパニックになって
 2次災害が起こりやすくなるのではないか?
・(海が近い地域において)地震があれば、
 とりあえず高台へ避難するということを学んだのではないか?

など様々な疑問が渦巻きました。

しかし、どの学校も真摯に防災教育に取り組んでいることは事実であり、
児童生徒の安全を一番に考慮しているものと考えられるので、
対応の違いが生じたのは
人が無意識に陥ってしまうバイアス、
特に【正常性バイアス】が働いたためなのではないかと推測しました。

正常性バイアス

正常性バイアス
自分にとって都合の悪い情報を無視したり過小評価したりするという
認知の特性のこと。
「自分は大丈夫」「今回は大丈夫」「まだ大丈夫」などと
 過小評価するなどして、逃げ遅れの原因となる。

Wikipedia

おそらく、地震の揺れの大きさも継続時間もそれほどでなかったため、
より正常性バイアスがかかりやすい状況だったのではないかと思います。

私は性格上、
石橋を叩きわりそうなほど叩いて渡る慎重派なため、

「これぐらいの揺れなら…」
「地震がすぐおさまったから…」

と考えて大袈裟に避難する必要がないと判断するよりも

「避難してから何もなかったと思いたい」

と考えるため、
たまたま正常性バイアスを回避できただけなのかもしれません。

他のケース

地震だけでなく、例えば

学校への脅迫文(爆弾を仕掛けたなど)

があった場合はどうでしょうか。

しかも、
何度も何度も送り込まれてきても何も起こらなかったという状況で、
また新たに脅迫文が送られてきたとしたら、
どのように対応すべきなのでしょうか?

オオカミ少年ではありませんが、
正常性バイアスが働く状況がそろっています。

脅迫文の対応に慌てて避難する状況を見て
楽しもうとする愉快犯の可能性もあれば、

「またか」と気持ちが緩んでいるときを狙って
本当に実行するという可能性もなくはありません。

私個人としては、
愉快犯ですむなら実害がないので毎回、避難すればいいと考えるんですが、
それが正しい対応なのかどうかは全くわかりません。

また、
警備員もいない学校に誰でも気軽に訪問できるという現状においても、
学校に訪問する人物ならば、生徒に危害を加えないだろうという
正常性バイアスが知らず知らずのうちに働いている可能性は
かなり高く、突然の危機に対応できないかもしれません。

まとめ

正常性バイアスはすべて害悪ではなく、
正常性バイアスがあるからこそ助かっているというケースもあるそうです。ただ、
災害のときは命の危険に直結するので、
十分に吟味する必要があるでしょう。

最後に小話を1つ

ある夏の日のこと、
川が溢れたり、損壊する家屋が出てきたりするような
記録的な豪雨があった日の翌日、
防災研修の生徒引率をすることになっていました。

いつまで降り続くかわからず、
さらにどれほどの被害が出るかわからない状況だったため、
研修の主催者である教育委員会に、

「生徒の安全確保・確認を優先するために翌日の研修は欠席したい」

と伝えたところ、

「翌日、警報が出ていなければ来てください」

という返答しかもらえませんでした。

教育委員会のある地域ではそこまで雨が降っていなかったため、
今まさに災害が起ころうとしている地域に対して
正常性バイアスが働いたのでしょう。

しかし、もし生徒に何らかの被害があったら、
防災研修とは一体なんのために…と感じる出来事でした。


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