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流されるメリットは知らない場所に行けること

「住む場所や環境を変えても、たとえそれが外国でも、人はそう簡単には変わらなくて、そこに誰と行くか、誰と過ごすかで人は変わっていくんやと思う」

正月に久しぶりに会った友人が言っていたことがとても腑に落ちて、それ以来ふとしたときに思い出しては、同時に新生活が始まった日のことを振り返ります。


初冬のある日、わたしは車ごと長野に引っ越して来ました。当日に夫が高松空港に飛行機でやってきて、そのままわたしと二人で交互に車を運転しながら、10時間くらいかけて長野に入りました。
途中で適当なレストランに入り食事をして、家に着いた時にはもう日が暮れていて、冷え切った家にヒーターを入れ、長距離運転の疲れもあって、その日は荷解きもほどほどに就寝。

翌朝、今日はゆっくりするものだと思っていたら、起き抜けに、夫に「天気がいいから山に登って富士山見よう!」と言われて唖然。
……は?パードゥン?いやだよ行くわけないしと咄嗟に思ったけれど、夫の“こんないい天気なのに行かないわけないよね”という濁りのない目、例えるならゴールデンレトリバーみたいな目を見ていたら(ブンブン振る尻尾も見えた)断るにも断れず、疲れを残した体で高峯山という山に登ることになりました。


高峯山は登山口から山頂まで1時間もかからないくらいで行けるお手軽な山です。夫にとってはお散歩で、わたしにとっては登山。そんな位置づけです。

余談ですが、別の機会で高峯山に登った帰りに入ったラーメン屋さんで、私たちの服装を見たカウンターに座っていたおじさんに「どこ登って行ってきたの?」と尋ねられ「高峯山です」と答えたら「それ登って来たって言わない山だよ」と鼻で笑われたことがありました。めちゃめちゃ失礼だし、どつく!と思ったし、そうやって初心者をバカにするような最低な人ってどの分野にもいるよなって思い出し怒りしています、今。


……そんなことはさておき、登りの途中で、夫の知人に会いました。「いい天気だからちょっと登りに来たんだよ」「だよね!富士山見えた?」なんて話している会話を聞きながら、天気を楽しむだけなら家の庭でもできるのになーと思っていました。
その一方で、わざわざしんどい思いをして天気のいい一日を体中で満喫しようとする人たちが、ものすごくまぶしくも見えました。そんな価値観の人たち、わたしの周りにはいなかったからです。
その後30分くらいで山頂に着いたけれど、わたしにはじゅうぶんな達成感があって、山と山が連なって重なり合っている景色を見ながら、ちょっと強くなった気さえしていました。

しんどいことが大嫌いなわたしが、引っ越しの翌日に能動的に山に登るわけがありません。たしかに天気はよかったし、12月とは思えない暖かさでもありました。でもわたしひとりなら、絶対行ってません。絶対ってあんまり言いたくないけど、これは絶対。

もしこのとき「疲れてるから今度にしよう」と断っていたら、たぶん今、ここでの暮らしを楽しめる人にはなれていなかったと思います。
休日にバックパックを背負ってどこかへ行く夫を見送って、わたしはわたしでせいぜい近くのお店を開拓するくらいで、それどころか、便利とは言いがたいこの立地にうんざりして、勝手にがっかりして、いいところを知ろうともしないで、好きな洋服が買えないからと言って「何にもない!つまらない!」と言い捨てるくらいのことはしていたはず。あぁ、見えちゃう。その地獄絵図。
自分でもこの日が、ここでの暮らしの明暗を分けるターニングポイントだったと感じています。間違えなくてよかったよ。


だからこれを機に、夫の誘いは全部乗ってみるようになりました……と言えば美談ですが、そんなうまい話はなくて。まあまあ断っています。
それでも、以前よりも確実に視野は広がったと思っているし、生活は180度までは行かなくとも140度くらいは変わりました(当社比)。いい大人になってのこれはかなりありがたい。


留学したからと言ってみんながみんなその国の言葉が話せるようになるわけではないのと同じで、まるっきり環境の違うところに身を置いただけでは、自動的に視野が広がっていくことはない。良くも悪くもそんなに簡単に変わらないです。普段なら選ばないことを、あえて少しずつ選んで自分に負荷をかけていかない限り、人はそのままなんだと今なら分かります。


年齢を重ねれば重ねるほど、知識も増えて、やる前からある程度の結果を予想できてしまうことも正直なところ結構あります。
ただ、やってみたら予想外だったってこともなかなかの確率であるって事実は、やってみたから分かったことです。

自分では選ばない選択肢をたくさん持っている夫に流されながら、今日もここで暮らしています。

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