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コーヒーは発酵飲料でもある?

緑茶や烏龍茶、紅茶、チョコレート、お酒、嗜好品と呼ばれるものは「発酵」が付きまとっている。
実はコーヒーもそのひとつであることをご存知だろうか。
コーヒーを発酵飲料というカテゴリに分類されることはないが、実のところ発酵が深く関わっていて、発酵飲料だと呼んでもよさげなコーヒーも近年登場してきているのだ。

そんなコーヒーを語る上で欠かせないポイントが生産処理である。
ここに発酵が深く関わるからである。
元々はコーヒーチェリーと呼ばれる果実なのだが、そのまま天日で乾燥させ、2~3週間ほどかけて乾燥させたチェリーを脱穀してパーチメントにし、そこからまた数ヶ月間寝かせてパーチメントを剥ぎ、生豆をローストしてコーヒー飲料となる。

この昔ながらの果肉のまま天日で乾燥させる生産処理をナチュラル(自然乾燥式)と呼ぶ。
ナチュラルは果肉が発酵しやすいため、発酵が進んでしまうと「ひねた香り」が登場してしまい価値が下がってしまうため、ナチュラルの生産処理では「発酵をさせないように、そして発酵臭をポジティブにする」という考え方が根底にあるものである。
そのためコーヒーの生産処理では発酵が進んでしまわないような取り組みが考えられ、そして進化してきた背景がある。

時代背景的に次に考えられ普及したウォッシュド(水洗式)の生産処理がその典型である。
果肉とパーチメントに付着しているミューシレージ(粘性のぬめり)が発酵に関わるため、果肉を剥ぎ取り、ミューシレージが付着したパーチメントを大量の水に浸けることによって水中微生物による発酵でミューシレージが分解されるため、水洗式と呼ばれる。
発酵の観点から見たウォッシュドの生産処理は、「発酵をさせない」である。

その次に登場してきたのは、ブラジルから始まったエコウォッシュド(パルプドナチュラル)という生産処理がある。
聞いた話によると、ブラジルの水には、パーチメントを分解する水中微生物がいないらしく、大量の水でミューシレージが付着したパーチメントを浸けても、ミューシレージを分解してくれないために考え出された生産処理がエコウォッシュド(パルプドナチュラル)だと聞いている。
エコウォッシュドは少量の水を循環させながら機械によりパーチメントに付着しているミューシレージを機械式に取り除くという方式である。
これが中米の水が大量に確保できない環境下で使われることになり、パルプドナチュラルの生産処理として広まっていった。
発酵の観点から見たパルプドナチュラルの生産処理もウォッシュドと同じく「発酵させない」である。

そして、スペシャルティコーヒーの生産において、注目すべく乾燥処理を記しておかなければならない。
それがあることで、発酵がポジティブに変換されるようになったからである。
それがケニア式であり、ドライテーブルと呼ばれる乾燥方式である。


ドライテーブル

ケニア式ドライテーブルは、今では当たり前のようにスペシャルティコーヒーの各生産処理で取り組まれている乾燥方式となる。
網を張ったテーブルの上でパーチメントを乾燥させることで、発酵を抑えながら生産処理が行えることで、スペシャルティコーヒーのクオリティを飛躍的に進化させることになった。
ナチュラルの生産処理にもドライテーブルが普及されてくるようになると、COE(カップオブエクセレンス)上位にナチュラルの生産処理のものが浮上するようになってきたことからも、ドライテーブルの有効性が伺える。

そして、そのドライテーブルの普及と共に生まれたのが、ハニープロセスである。
それまではパルプドナチュラルでミューシレージを取り除き(発酵をさせない)乾燥させていたものから、ミューシレージをあえて残して乾燥させることで、発酵を利用しポジティブなフレーバーを登場させるという考え方が生まれたのだ。
そのポジティブな発酵に欠かせないものがドライテーブルであると考えている。

パルプドナチュラルの枠の中に同義語としてハニープロセスを捉えがちであるが、発酵をさせない意識から登場したパルプドナチュラルと、あえて発酵をさせ発酵のフレーバーを添加する考え方のハニープロセスはボクは別物であると考えている。

このハニープロセスの登場から徐々に発酵をポジティブに考察する考え方が生まれてきたのだと考えることができる。
ボクたちが知らないだけで生産現場では様々な取り組みがなされてきたと思うのだが、より進化した発酵をポジティブに捉える考え方がアナエロビック・ファーメンテーション(嫌気性発酵処理)である。

アナエロビック(嫌気性発酵処理)は、果肉がついたままの状態で行う場合と、果肉を剥いでミューシレージを残したままのパーチメントで行う場合の2つのアナエロビック(嫌気性発酵処理)があり、その後に生産処理を行う。
アナエロビック(嫌気性発酵処理)を生産処理方式と呼ぶ人もいるが、ボクはアナエロビック(嫌気性発酵処理)と生産処理は分けて考えなければならないものであると考えている。
それは、フレーバーはすべての作業工程で取り組んだ内容が反映されるためである。

アナエロビック(嫌気性発酵処理)がどの状態(果肉がついたままであるのか、パーチメントにした状態であるのか)で行われ、そしてその後にどの生産処理にて発酵を止めたのか、もしくは発酵をポジティブに進めたのかが、フレーバーの添加となるためである。
そしてもう一点、アナエロビックは酸素を遮断するために、コーヒーチェリー(パーチメント)を液体に浸すのだが、どのような液体をもって浸すのかで更にフレーバーが添加されるということなのだ。
これにより、より複雑なフレーバーが登場することに繋がる画期的な発酵プロセスなのである。
ゆえに生産処理方式ではなく、あえて発酵プロセスである。

ここまで書くと感覚が良い人ならばもう気づくことだと思うのだが、今までのコーヒーテイスティングではあまり意識しなくてもよかった「発酵」のカテゴリで登場するフレーバーを学ばなければならなくなったことを意味している。
それだけ複雑なフレーバーがコーヒーで登場する時代になってしまったのだ。
これまでだったのなら、素材から登場するフルーツの酸とフレーバー、そして種子由来のフレーバー、そして焙煎により登場するローストのフレーバーの3つを意識すればよかったのだが、発酵をポジティブに登場させるハニープロセスやナチュラル、そしてアナエロビックの登場により、発酵由来のフレーバーを意識しなければならなくなってしまった。

しかしスペシャルティコーヒーで問われるのはクオリティ(品質)である。
発酵はとても複雑なフレーバーが登場するのだが、ネガティブなフレーバーも登場してしまうため、その処理が難しくまだアナエロビック(嫌気性発酵処理)が広まり始めてから年月が経っていないので、その品質にブレが大きい。
可能性としてはとても大きなものが含まれているのだが、まだまだ安定したクオリティのものが生産できるまでは時間がかかりそうな感じがしている。

コーヒーも発酵が絡んでいる事実を知ると、味の特徴に発酵由来のフレーバーが見えてくるものである。
コーヒーの好きな味わいが、発酵させないウォッシュド(水洗式)またはパルプドナチュラルであるのか、少し発酵臭が登場するナチュラルまたはハニープロセスのホワイト〜イエローであるのか、発酵させた状態のハニープロセスのレッド〜ブラックまたはアナエロビックであるのかを知識として理解をすると、コーヒーを選ぶ際の好みが明確に判るようになるので、豆選びに失敗がなくなると思っている。

なので、生産処理と味の特徴はリンクしていることを知識として覚え、そして実際にカップして感覚としても理解することで、自分の好みが明確になるものである。




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