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パリ五輪で活躍した早田ひな選手「脳内スピードを高めるノート」【世界を獲るノート】

ノートは主体性の萌芽


 パリ五輪閉幕いたしました。
 卓球シングルスで銅メダル、女子団体で銀メダルを獲得した早田ひな選手!今後の活躍にも期待ですね。

2019年刊、島沢優子 著『世界を獲るノート アスリートのインテリジェンス』より、早田ひな「脳内スピードを高めるノート」を一部抜粋で公開です!

「勉強のノートはきれいに書けるけど、
卓球ノートはきれいにまとめられない。
答えが簡単に見つからない。
まずは疑問や悩みを書き出し、
それから答えを見つけていった。
数日経って、あ、わかった! みたいな」

悩みを吐き出すノート

 引き出しと勇気。前者の「アイデアの引き出し」を、早田はノートに整理してきた。
 まずは、自分の頭の中にある疑問や悩みをただただ吐き出す。
「ノートにがむしゃらに書くんです。できないこと、わからないこと、迷っていること。技術的なことも、メンタル的なことも、その日の試合や練習を振り返って全部いっしょくたに頭に浮かんだことから書いていきます」
 例えば、ノートにはまず黒ボールペンで疑問が並べられる。
 ――下回転ループやドライブに対してのF(※フォア)カウンターは、前で早く打点捉えて回転を利用するのか。少し足を下げて半拉するのか。
  すべてではないが、黒ボールペンの書き込みの下には赤ボールペンで答えらしきものが記入されている。
 ――両足をさげる時間はない。右手と左手がクロスしそうなぐらいに小さくならないこと。面を開いて、回転を利用する――。
 早田を小学生からみてきたコーチの石田大輔は、早田のノートを「吐き出すノート」だと言う。
「ひなは必要以上に考え込んでしまうタイプ。なので、自分の頭の中にある疑問や悩みをいったんノートには吐き出してみて、それを客観視して解決しようとしています。黒色が課題、赤がその時点での答えとして書かれている。考えたことは言葉で表現するわけなので、言語能力は重要。それをノートで養ってきたんでしょう」
 そう分析する石田によると、早田は中学1年生くらいのころ、「わかりません」を連発していた。
 石田「いま右足下がったよね?」
 ひな「わかりません」
 石田「集中してないよ」
 ひな「わかりません」
 石田「声出てないよ」
 ひな「わかりません」
 思春期にありがちな不器用な自己表現だったのかもしれないが、石田は、この「わかりません」に手を焼いた。
 しかし、後に石田は、リオ五輪で競泳日本代表の監督を務めた平井伯昌が自分と似たような体験をしていたと聞く。
 平井が女子選手に「いまどうなの?」と尋ねると、「わかりません」と発することが多いと言うのだ。
「今の子独特のリアクションなんでしょうか。相手が望んでいる回答でなかったらどうしようと不安になるのか。わかりませんと言えば、すぐに大人から教えてもらえるからなのでしょうか」
 答えは出なかったが、石田は「わかりません」と言われても、問いかけ続けた。
「この取材で初めて(早田の)これまでのノートを見たのですが、訓練してきたんだなあとビックリしました。あんなに『わかりません』を連発して、人任せに見えたのに、自分で考えて答えを見つけ始めているのですから」

 コーチにおしえてもらったサーブを だせるようになりたい
 
 そう書いて、卓球クラブで「おしえてもらうのではなくて、人のサーブをみてじぶんでおぼえる」と赤字で二重線をひかれた1冊目のファーストノート。
「勉強のノートはきれいに書いていました。きれいにまとめれば達成感もあるし。でも、卓球ではきれいにまとめられないんです。答えがなかなか見つからない。だったら、まずは疑問や悩みを書き出して、それから答えを見つけていこうって思ったんです。すぐ見つかるときもあれば、数日経ってから、あ、わかった!って気づいて書き込んだりしました」
 早田なりに思考錯誤を重ねたことがよくわかる。コーチや親に見せる前提で「いいことを書こう」とか「ちゃんとやってるね」とほめられようと、そつなくきれいにまとめようなどと思ったことは一度もない。その時々の自分の疑問に率直に向き合ってきた。
 わかったつもりにならない「究極の自問自答」。
 そのおかげで、少しずつ自分で考えられるようになり、その思考はコーチを驚かせるまでになったのだ。そう。ノートは成長する。そして、その成長は本人の進化に比例する。

卓球 早田ひな(日本生命
はやた・ひな
2000 年福岡県生まれ。16 ~ 17 年は膝痛で試合に出られない時期もあったが、17 年11 月スウェーデンオープンダブルスで伊藤美誠と組み世界ランク1、2 位の中国ペアを下して優勝し注目される。166センチの大型サウスポー。ITTF 世界ランキング最高位11 位。19 年1 月現在45 位。

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著者プロフィール

島沢優子 しまざわ・ゆうこ
ジャーナリスト。筑波大学体育専門学群4年時に全日本女子大学バスケットボール選手権優勝。2年間の英国留学等を経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年からフリー。
『AERA』『東洋経済オンライン』などで、スポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。
少年サッカーの情報ウエブ『サカイク』の連載『蹴球子育てのツボ』は、2018年最も読まれたコラム第2位。
著書に『左手一本のシュート 夢あればこそ! 脳出血、右半身麻痺からの復活』(小学館)『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実 そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『部活があぶない』(講談社現代新書)など。日本文藝家協会会員。

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