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目標は「夏の5回戦で勝負できるチーム」【神奈川から頂点狙う監督たち 市ケ尾】

 全国高校野球選手権神奈川大会も佳境に入ってきました。7月16日に行われた4回戦では、県立の市ケ尾がシードの三浦学苑を破り5回戦へ進出!
 
 好評発売中の『高校野球激戦区 神奈川から頂点狙う監督たち』(大利実 著)より、強豪私学を相手に健闘する市ケ尾・菅澤悠監督の章を一部抜粋で公開です。

市ケ尾 菅澤悠 監督


目標は「夏の5回戦で勝負できるチーム」

 2022年春、2023年春と、2年連続で県大会ベスト16に勝ち進み、夏の第三シードを獲得した市ケ尾の菅澤悠監督。2023年夏は、5回戦で全国制覇を果たす慶應義塾に1対8で敗れたが、14年ぶりにベスト16に進出した。新チームの目標は「夏の5回戦で勝負できるチーム」。菅澤監督は「うちは甲子園を目指していません」とあえて公言している。

市ケ尾 菅澤悠 監督

「うちは甲子園を目指していません」
 堂々と言い切る指導者は、そうはいないだろう。
「『甲子園出場』を目標にしながらも、それに見合った取り組みをしていないのを見ると、一番イライラします。だったら、『甲子園』を口にしないほうがいい。うちの場合は、入ってくる生徒の力、環境、学校の予算、さまざまなことを考えたときに、甲子園を狙うのは非現実的だと思っています」
 就任7年目を迎えた菅澤悠監督。荏田高校から中央大に進み、大学時代は横浜金港クラブでプレーしながら、麻生ジャイアンツボーイズのコーチをしていた。中央大卒業後、体育の免許を取るために筑波大に1年通い、中央大4年時からの2年間は母校・荏田で学生監督を務めた。2009年春にはベスト16に勝ち進んだ実績もある。初任の向の岡工を経て、2017年から市ケ尾の監督を務めている。
 市ケ尾では、2022年春にベスト16入りを果たし、創部初となる夏の第三シードを取ると、続く2023年春にもベスト16に進み、2年連続で第三シードを獲得した。同年夏は横須賀、城山、法政二と、難敵を次々と下し、学校としては2009年以来のベスト16進出を遂げた。
「指導者としてもっとも大事にしているのが、目標に対する取り組み方です。やるべきことをやれているかどうか。うちが『甲子園出場』を目標にすると、あまりに遠すぎて、努力の仕方がわからないと思います。こうなると、成功体験を得ることができない。持っている能力を最大限に伸ばした先に、たどり着ける目標はどこにあるか。それを常に考えています」
「甲子園を目指していない=緩い取り組み」ということは、まったくない。
 2024年の目標は、「夏の5回戦で勝負できるチームになる」。つまりは、甲子園を狙う強豪私学と本気で勝負をする。選手たちが立てた目標だ。
 昨夏はベスト16に勝ち上がったが、5回戦で慶應義塾に1対8の7回コールド負けを喫した。
「まったく、勝負ができませんでした。4回戦が終わった時点で、主力2人が足を攣り、エースも球数が増え、勝つプランを立てることすらできませんでした。手詰まりの状態。ぼくの見通しが甘すぎた。想定以上に5回戦の壁は高く、慶應とうちではすべてのスピード感が違いました。あとは、5回戦に行くまでが大変で、そこでエネルギーを使い果たした感じがあります」
 前チームの目標は「ベスト16で勝つ」。それでも、達成こそできなかったが、目標に向かう努力は見事なものがあったという。
「3年生の成功体験というか、自己実現力は最高のものがありました。大学入試もそれぞれの目標に向かって、よく努力をしていました。うちの部員たちは、3年生になると校内での立ち位置がどんどん上がっていきます。いろんなことに自信を持って、取り組めるようになる。周りも、『あの菅澤に鍛えられながら、よく頑張っているな』と見てくれるようになります(笑)。自分たちが『この目標を叶えたい』と思ったことに本気で取り組んで、苦しいことがありながらも試行錯誤を繰り返して、成功体験を重ねていく。だから、たとえ甲子園を目指さなくても、高校野球をやる意義は必ずある。うちにとっては、5回戦で本気の勝負をすることが、甲子園に出場するのと同じだけの価値があるということです」
 夏の慶應義塾戦を終えたあと、3年生からは「マジできつかったです」と本音が漏れたという。
「理不尽な走り込みもなければ、練習も短く、19 時には学校を出なくてはいけません。だから、練習でヘトヘトになることは少ない。でも、目標に向かってしっかり努力をしていないと、すぐにぼくから指摘が入ります。自分が決めた目標に対して、やるべきことを遂行できているのか。一番シンプルでかつ、一番難しいことを常に要求しています」
 その取り組みで目標が達成できるのか?
 苦しいときこそ、楽なほうに逃げてしまうのが、人間の性とも言える。そんな選手がいたときには、あえて厳しい言葉をかける。
「楽をすればするだけ、最後の夏に後悔するよ。自分の目標を達成するために、今やっていることが最善の選択なのか。お前はそれでいいと思っているかもしれないけど、おれは思わない。しんどいとかきついとかではなく、自分自身が成長できる選択をしたほうがいいんじゃないの?」
 最終的に、やるかやらないかは自分次第。自ら厳しい道を選ぶ選手が増えれば、おのずとチームは強くなっていく。
 菅澤監督が目標にするのは、福島の強豪・聖光学院の取り組みだという。
「毎年5月に、聖光学院の育成チームとオープン戦をさせてもらっています。育成チームと言っても、能力的にはうちの3年生と互角。聖光の子たちの野球に対する向き合い方や情熱が素晴らしく、かなりの刺激を受けています。若いコーチが、『チームを代表して出ているのに、何ひとつ示さないのか。だったら、ほかの選手でいいだろう!』みたいな言葉をかけていて、とにかく熱い。5月に聖光の野球に触れることで、夏に向かってチームが上がっていくのがわかります」

市ケ尾
菅澤悠(すがさわ・ゆう)

1987年7月5日生まれ、神奈川県川崎市出身。荏田-中央大。高校時代はキャッチャー。大学では硬式の横浜金港クラブでプレーしながら、麻生ジャイアンツボーイズでコーチを務める。中央大で社会科の教員免許を取ったのち、筑波大で科目等履修生として体育科の免許を取得。向の岡工の監督を務め、2017年から市ケ尾で指揮。2022年春夏、2023年夏とベスト16に3度勝ち進んでいる。

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