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非営利団体(NPO)とコワーキングの密接な関係〜海外のNPO系コワーキングが担う役割とそこにガチで投下される時間と資金

※この記事は、2022年6月5日に公開されたものの再録です。

先日、ある非営利団体(NPO法人)から、シャッター街化した商店街を再活性化するに際して、コワーキングスペースを整備したいという相談があった。

人口十数万人のふたつの町をまたぐその商店街は、かつては大いに賑わいを見せていたのだが、元々大手スーパーが数多く進出している地域でもあり、時代の流れに沿って変化することを怠ったためだろうか、今や寂れていく一方になっているという。まぁ、日本中で見かける光景ですね。

そこに人を呼び戻す方策のひとつとして、コワーキングを開設するというアイデアが勃発したらしい。コワーキングはそもそも地域住民の活動拠点になるものだから、発想としては至極真っ当だ。

商店街の再生=町の再生

そういえば、以前おじゃました愛媛県西条市の「サカエマチHOLIC」も商店街の中にある。地域おこし協力隊としてこの地に入られた方が開設され、任期終了後も引き続き活動されている。

もう1年以上前になるが、ここをベースキャンプにコワーケーションしてきたことはここに書いた。

例に漏れずやや寂れた感のある商店街だが、その中で「サカエマチHOLIC」は人と人をつなぐ取り組みをいくつも起ち上げ、着実に町の活性化に貢献している。

そして、先日、ついにコミュニティ財団も設立した。ここまでやればまちおこしも本物ですね。スバラシイ。

昨年10月に呼んでいただいた北海道北見市の「サテライトオフィス北見」も商店街の中にある。それも書いてるので参照されたい。

ここは北見市がガッツリ運営に関わっていて、今年3月に改装し、あらたに「KITAMI BASE」となった。

改装後で注目なのは宿泊できること。地方都市のコワーキングは「滞在型」を志向すべきとやいやい言ってるが、まさにそれを実行された。スバラシイ。

一方、沖縄市の商店街にあるコワーキングが「Startup Lab Lagoon」だ。

かねてより起業家育成のほか、さまざまな活動の拠点となってきたが、今回、商店街全体を「コザスタートアップ商店街」としてリブランディングし、「県内外の挑戦する意欲を持った人が集まるオープンイノベーション拠点とする」ことを発表した。スバラシイ。

ことほどさように、商店街とコワーキングの組み合わせは日本中にたくさんある。商店街内の他の事業者とのコラボも可能だし、相乗効果を生みやすいので、町の再興にはもってこいだ。

ここで強調しておきたいのは、コワーキングがオフィス街ではなくて商店街という地域住民の生活圏内にあるということ。←ここ大事。

先日、生活圏内にあるスーパーマーケットのコワーキングについて書いたが、今後、リモートワークやハイブリッドワークが常態化するにつれてこの傾向はますます強まる。

コワーキングは地域住民のさまざまな活動拠点となることで、まちづくりの一翼を担うことになる。このことは、運営者自身が重々認識しておく必要がある(が、意外と気づいていない人が多い気がする)。

つまり、コワーキングとはまちづくりの方法に他ならない。

NPOが運営するコワーキング

ところで、くだんの相談者は非営利団体(NPO)だった。NPOとコワーキング。この2つは「コミュニティ」もしくは「パブリック」という言葉でくくれてしまうので、これまた相性の良い組み合わせではなかろうか。

ちょっと調べてみると、日本にNPO法人が運営しているコワーキングはいくつかある。

ここはNPO法人コミュニティビジネスサポートセンターが運営元。

ここはソーシャルビジネスラボ(SBL)は、NPO法人芸術家の村が運営している。

ここもクリエイター系。NPO法人クリエイター育成協会が運営している。京都では初期の頃からある老舗コワーキングのひとつ。

そう言えばぼくの地元神戸にもある。

ここは公益財団法人ひょうご産業活性化センターが開設し、NPO法人コミュニティリンクが運営を受託している。

まだまだ他にもたくさんありそうだ。ただ、その大半が運営者はNPOだが、一般のワーカーを対象にしたごく普通のコワーキングではないかと推察される。

だが、海外にはNPOの活動を支援する目的で運営されているコワーキングがあり、それをまたNPOが運営している。しかも、そこにハンパではない支援が集まっている。

ガチで。

社会課題を解決するNPOを支援するコワーキング

The Blake Annexは、ニューヨーク州アルバニーのダウンタウン中心部にあるシェアオフィスとコワーキングをミックスしたコミュニティだ。その面積、実に25,000平方フィート(約2,322㎡)もある。デカ。

ここは、United Way of the Greater Capital Regionの支援を受けて、ローカルの非営利団体のリーダーや従業員、サービスプロバイダーが共に働く環境を提供している。そこで多くのアイデアが交換され、コラボレーションを生む機会を設けている。←コラボが生まれるという点はコワーキングの5大価値のひとつ。

さらに、非営利団体が自らのミッションとインパクトに集中できるよう、非営利団体のオフィス業務をThe Blake Annexのスタッフがサポートしている。←ここに単なる利用者と運営者の関係ではなく、共に社会を変えていこうという本気度が伺える。まさに「非営利団体の働き方を進化させている」と言えよう。

ちなみに、United Way of the Greater Capital Region (UWGCR)とは、「個人と団体が地域社会全体で人々を助けるために協力する地域組織」。「すべての子どもたちが学び、成長する機会を持ち、家族が経済的に安定し、人々が健康で生き生きと暮らすことのできる、より強い、より強靭なキャピタル・リージョンを築くことが、私たちの使命」としている。

The Blake Annexには元看護師の運営する医療関係のNPO、女性の地位向上を目指すプログラム、地域の低所得層の家庭の子どもたちを支援する活動などをはじめ十数社の非営利団体が入居している。

で、驚いたことにこの数々の社会課題を解決するために活動するNPOを支援するコワーキングに、なんと107万5,000ドル(!)が連邦補助金から支出されている。つまり、国が支えてる。ス、スバラシイ。

「私たちがここで築こうとしているのは、変化を求め、物事を変えたいと願う、同じ志を持つ人々のコミュニティなのだ」とUWGCRは言っていて、そのコミュニティ運営のために社会的資本を国から調達する立場にコワーキングはある、ということに注目しておきたい。

もうひとつ、紹介しよう。こちらはサウスカロライナ州グリーンビルの話。

The Judson Mill Community Innovation Hub(JudHub)が織物工場再生プロジェクトのひとつとして、非営利団体、「社会貢献」を目指す営利企業、そして地域住民をつなぐことを目的としたコワーキングスペースをこの6月に開設する。

(画像出典:The Post and Courier ウェブサイト)

グリーンビルの大きなコミュニティでよいことをしようとする社会起業家、コミュニティ開発者、非営利団体をここに集め、貧困、食料不安、教育、住宅という4つの重点課題を解決するのが目的だ。

ちなみに、グリーンビル市の郊外にあるジャドソンのコミュニティは、1平方マイル弱に広がる地域に約2,300人の人口を擁している。米国の国勢調査によると、世帯年収の中央値は約25,000ドル。

17,000平方フィート(約1,579㎡)のスペースに、3つのアンカーテナント(主となるテナント)、9〜12の小規模オフィス、少なくとも3つの会議室、15〜20のプライベートデスク、コーヒーやビールが楽しめるカフェが入る予定。

で、そのアンカーテナントのひとつがCommunityWorksだ。

CommunityWorks社は、主に恵まれない人々のために資産を増やすことに力を注ぐ地元の非営利金融組織で、このコワーキングのアンカーテナントの1つとして3年間のリース契約にサインした。

CommunityWorks社は、ホームオーナーシップやスモールビジネスの創出などによる資産形成に注力しつつ、非営利団体への融資など地域プロジェクトを支援している。2020年には、十分なサービスを受けていない起業家を支援しビジネススキルを育成する「コミュニティワークス女性ビジネスセンター」も起ち上げた。

その非営利金融機関が、Judson Millのプロジェクトの資金援助として、オーナーに対して当初50万ドルの物件取得融資を行い、さらにJudHubに対して50万ドルの融資を行った。合わせて、100万ドル。

CommunityWorks社は、本社業務を従来のオフィスに残しつつも、中小企業向けのワークショップや、住宅購入に関心のある人向けの金融カウンセリングなど、教育イベントやトレーニングのための学習センターとして工場内の新しいスペースを利用する。

同社はこのプロジェクトを近隣地域と雇用創出の機会から、地域経済開発プロジェクトと捉えており、そのステージとしてコワーキングスペースを活用する。つまり、コワーキングがまちおこしのために一役買うわけだ。←くどいが、ここ大事。

ちなみに、JudHubでは非営利団体のための助成金サポートや弁護士によるカウンセリング、人脈作りや専門能力開発イベントなど、無料の公開プログラムも開催される。

こうした各種のイベント開催もコワーキングの得意とするところ。例の「コワーキング曼荼羅」にあるものなら、なんでもお互いに学び合うテーマになり、結果、地域住民のためにもなり、引いては町全体を活性化する。だから、コワーキングはまちづくりの方法だと言っているわけで。

このあと、YMCAの拡張計画、バスケットボールコートの追加、ビール醸造所、ピザとハンバーガーの飲食店、さらにオフィススペースと住宅ロフトの追加と、プロジェクトは目白押し。

なお、Judson Millの35エーカーの敷地が、住宅と商業の複合施設に完全に生まれ変わるのは約5年後のこと。完成したプロジェクトは1億5,000万ドルから2億ドルの投資に相当すると見積もられている。

それだけ時間とコストをかけて本気で取り組んでいる。

まちづくりの中軸にコワーキングを据える

こうした大きなプロジェクトの中核にコワーキングがあるということに、まったく目を見開かれる思いだ。それは投下される金額の多寡を言ってるのではない。

そうではなくて、コワーキングがまちづくりの「添え物」的に用意されるのではなく、コワーキングを軸にまちづくりをグランドデザインすることが必要であり、また可能である、ということだ。

社会課題の解決のためにコワーキングは場所だけではなく、活動を継続するための多くのリソースを分かち合うハブとなりインフラとなる。そして、その目的とするところを共有する者としてNPOが助け合うのも道理だ。

シャッター街化した商店街をにぎやかにするだけではなく、町全体を継続するためにコワーキングが果たす役割は大きい。それは未来への投資であって、一過性のイベントではない。

日本にも、こういうNPO系のコワーキングが現れることを期待する。と同時に、彼らを支援する仕組みが社会に必要だ。前述のThe Blake Annexに連邦補助金が支出された件では上院議員が動いている。そろそろ日本でもロビー活動をするべきなのかもしれない。

それでは。

(Cover Photo: The Blake Annex ウェブサイト)

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