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木彫りのゴリラ|短編小説

 ここに2つのゴリラがある。2匹ではなく2つと表現する辺りで、日本では主に動物園に生息しているあのゴリラではないことは察してほしい。木彫りの置物だ。
 木彫りの熊ならまだしも、ゴリラである。謎にリアルタッチの木彫りの置物。夜中にリビングに置いてあったら条件反射でビビってしまう。泥棒避けにはいいかもしれないが、ごく一般家庭のインテリアにするには迫力がありすぎる。しかもサイズがデカい。高さにしておよそ50センチ。いやどこに置くんだこれ。
 ところで、現在は6月。連想することは何だろう。梅雨? 紫陽花?
 正解は、ジューンブライド。幸せな結婚である。

 ―――さて、ここに2つのゴリラがある。木彫りのゴリラだ。リアルタッチな木彫りの50センチもある置物で、それぞれ白い服が着せられている。タキシードに、ウエディングドレス。それが、今、しがない町の雑貨店のバックヤードに妙な圧力をかけている。それを間に挟み、机に座って向かい合う人間が二人。

「なんでこんな商品入荷しちゃったの?」
「ごめんなさい!」
「いやごめんなさいじゃなくて。何でこれをうちに置こうと思ったの?」
「ごめんなさい、ごめんなさい!」

 片や、この店の経営者にして店長。片や、アルバイト。
 このアルバイトが、何を思ったのか店長が不在の折の入荷作業中に、この誰に需要があるのかわからない謎の木彫りの置物を注文してしまったのである。せめてここがアフリカ雑貨とか民俗雑貨の店ならワンチャンジョークグッズで置けたかもしれないが、ここのメインは英国食器である。店内に置けやしねえ。
「ごめんなさいじゃなくって」
「うう……」
 無論勝手をやったことは叱る。だがものがものなだけに、正直叱るよりも先に、なぜこれを買おうと思ったのか聞き出したい。というかよくこんな商品取り扱っている問屋があったな。どこの筋の店だ。しかしアルバイトはずっと頭を下げるばかりで、しかも目が潤み始めている。泣く直前だった。
「ごめんなさい……」
「ごめんじゃなくってだな……」
 店長はため息を吐いた。

「店長にプロポーズしようと思って」という斜め上の回答をもらうまで、あと五分のことだった。

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即興小説リメイク作品(お題:2つのゴリラ 制限時間:15分)
リメイク前初出 2020/06/02
この作品は(pixiv/小説家になろう/アルファポリス/カクヨム)にも掲載しています。

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