読書記録『10年間飲みかけの午後の紅茶に別れを告げたい』
こんにちは、神崎翼です。
今日はタイトルだけで手に取ってしまったこちらの一冊。
『10年間飲みかけの午後の紅茶に別れを告げたい』
(岡田悠著/2021.11/河出書房新社)
副題は『部屋をめぐる空想譚』。hontoの商品説明を見に行った時に気付いたんですが、こちら分類が「エッセイ」です。エッセイ!??? エッセイということは、視点人物は作者……? この狂気の沙汰みたいな情報量を精査して空想に浸った男がそのまま作者の日常……???
今回の本はネタバレなしで読んだ方が楽しい類の本かなぁと思うので、未読の方は引き返した方がいいかなと。感想を見たいという方は、今回は部屋ごとに感想を簡単にメモしながら読み進めていったので、そのときのメモを貼り付けます。(※ネタばれあります)
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『台所 10年間飲みかけの午後の紅茶に別れを告げたい』
表題作。これを純愛と呼ぶか狂気と呼ぶか。いっそ耽美。神聖なる狂気という言葉を男と午後の紅茶の話で体感することになるとは思わないんだよな。
『リビング 取り扱う554冊からたどる或る男の人生』
これを書くに至って取説を実際544冊調査しただろう作者に感服した。創作活動はそうこなくては。あと説明書がSFに接続するのには度肝を抜かれた。作者の脳内どうなってるのか。
『トイレ 「地球の歩き方」100冊の詩的な一節で旅に出る』
本そのものの個性に出会いたくなった。卓上旅行ならぬ厠旅行。脳内旅の極地。本を綴った誰かの旅を追体験する。言葉の上でも、言葉に誘われて現実でも。本の意義はよくある問いかけだが、こういうQ&Aも面白いなぁ。
『寝室 122の花言葉から成る花瓶たちのロマンス』
うわ〜〜〜すごいなんだこのSF。創作者が一度は通る道「花言葉」でこんな作品生まれるの!? 拍手してしまう。花言葉が複数ある意味がわかる物語。
『風呂 バブの20分間の鼓動を聴く』
入浴剤に少年時代を重ねる発想はどこから生まれるのか。カゲロウのような儚さと美しさと生命の輝きを入浴剤に見ることになろうとは。そして情報収集と精査の量が多すぎる。短編にかける覚悟の違いに読み進めるたびに慄いている。
『書斎 「きかんしゃトーマス」490話から紡ぐ安全報告書』
きかんしゃトーマスと安全報告書の字面のアンマッチとマッチ具合がどちらも成立してて面白い。きかんしゃトーマス見たくなってきた。
『部屋 269色を探して部屋をめぐる』
一人の人間に詰め込んでいい情報量と作業量だったのかと真っ先に思った。仏教の「色即是空」の教えをまさかこの本で実感することになろうとは。すべては移ろいゆく。人も部屋もまた同じ。私や私の部屋もずっと移ろいでいるのかなと、空想へのきっかけを教えてもらった本になった。
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正直タイトルを見たときに期待していたタイプの物語集では全然なかったですが、ものすごく新ジャンルな空想に浸れて楽しいひと時でした。あと思ってたよりサクッと読めたので、普段あまり本を読まない人にもおすすめ。タイトルだけで判断して本を借りると意外な出会いがあって楽しいので、今後も続けていきたいです。
それでは今日はこの辺で。
また次の記事でお会いしましょう。
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