- 運営しているクリエイター
記事一覧
記憶の動物園 #カモシカ
ど田舎で暮らしていた頃、移動手段は原付だった。
大雨の夕暮れ時、原付を走らせていると、トンネルの入り口に大きな獣が濡れそぼちながらぬっと立ちはだかっている。
まさか熊か。なにせ目も開けてられないほどの土砂降りだ。いや、熊にしては足が長い。減速しながら思った、ひょっとしたら、牛か……どこかから逃げ出して来たとか、いくら田舎でもこんな山のなかに飼育舎なんてないし、観光牧場があるのは山のずっと
記憶の動物園 #レオポン
動物園で、酔っ払った中年男が手摺を乗り越えて、ヒョウの檻の鉄柵に手を伸ばし、腕を食いちぎられる。子どもの頃、そんな恐ろしい事件があった。今では、恐ろしいのは猛獣ではなく、アルコールの方だと思うような年齢になってしまった。
まだまだ若かった学生時代、ドイツの詩人を読んでいてふと思い出したのが、この事件だったのである。
通りすぎる格子のために
疲れた豹の目には もう何も見えない
彼には無数
記憶の動物園 #アルマジロ
マザコン気味の孤独な少年、母は友だちのいないこの一人息子のことを心配し、長期休暇にスキー合宿に参加させようとする。それが嫌でしょうがない少年は、合宿に行った振りを装い、集合住宅の地下にある物置部屋に隠れ暮らす。ヘッドフォンで音楽を聴きながら、お気に入りのマンガでも読んで冬休みを過ごすつもりなのである。
中国の皇帝の伝記映画で一世を風靡した、イタリアの映画監督の最晩年の作品である。スペクタクル大