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【チャイニーズファンタジー】中国の怖くない怪異小説 第5話「北斗と南斗」

北斗と南斗


三国時代、管輅(かんろ)という占いに通じた人がいました。

ある日、顔超(がんちょう)という若者を見かけて言いました。
「おや、若死にの相が出ておりますぞ」

それを聞いてびっくりした顔超の父親は、
「どうしたらいいんでしょう。助かる方法はありませんか?」
と管輅に懇願しました。

管輅はしばらく思案して、こう告げました。

「まずは家に帰って、お酒一樽、鹿の干し肉一斤を用意しなされ。
 卯(う)の日、桑の木の下で、二人の爺さんが碁を囲んでおるから、 
 干し肉を出して、お酒をついでやりなさい。
 飲み干したらまたついで、樽の酒が尽きるまで繰り返しなさい。
 もし何か聞かれたら、ただお辞儀をすればよい。
 決してしゃべってはいかんぞ」

言われた通りに、桑の木の下に行ってみると、果たして二人のお爺さんが
碁を囲んでいました。

顔超は、二人の前に干し肉を置き、酒をついでやりました。

二人は碁に夢中で、振り向きもしません。
何度かお酒をつぐうち、北側に坐っているお爺さんが、顔超がいることに
気づき、叱りつけて言いました。
「何者じゃ、どうしてここにおる!」

顔超は、じっとこらえて声を出さず、ただお辞儀をしました。

すると、南側に坐っているお爺さんが言いました。
「さっきからこのお方のご馳走になっているんだ。
 少しは情けをかけてやろうじゃないか」

北側のお爺さん、「いや、文書でもう決まっていることだ」
南側のお爺さん、「ちょいと文書を見せとくれ」

文書を開くと、そこには、
「平原郡の顔超、寿命十九歳」
と書かれていました。

そこで、南側のお爺さんは、筆を手に取ると、上下反転の記号を書き込み、
「十」と「九」を逆さまにして、顔超に言いました。
「九十歳まで生きられるようにしてあげましたぞ」

顔超は、だまったまま深々とお辞儀をして帰っていきました。

そののち、顔超が管輅にわけをたずねると、こう説き明かしました。
「北に坐っていたのは北斗星の神、南に坐っていたのは南斗星の神じゃ。
 南斗は人の生をつかさどり、北斗は人の死をつかさどる。
 だから、人は命乞いする時は、北斗星に向かって祈るのじゃ。
 お前さんは、南斗の情けに救われたのじゃよ」

【出典】

東晋『捜神記』

【解説】

 中国古代の民間信仰では、人の寿命はあらかじめ定められていて、「どこそこの誰それは、何年何月何日に、何歳で死亡する」という内容が記されている文書、つまり死亡予定名簿があるとされていました。
 寿命に関する民間信仰には、二つの系統があります。一つは、泰山信仰に基づくものです。これについては、第4話の解説をご参照ください。
 もう一つは、占星術に基づくものです。星の神が人の生死を司るとされ、南斗星の神が「生」を、北斗星の神が「死」をそれぞれ記録管理するとされていました。ほかにも、「司命」という星の神が、寿命を司るとも言われます。文昌六星の六つの星が、それぞれ人間界の特定の事柄を司り、第四星の司命が、人間の生命・運命を司るとされました。
 

管輅


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