菅原寛名の「百人一首で伸ばす読解力講座」

百人一首命!和歌の研究をしています。競技かるたもします。読手でもあります。全国の天満宮…

菅原寛名の「百人一首で伸ばす読解力講座」

百人一首命!和歌の研究をしています。競技かるたもします。読手でもあります。全国の天満宮を巡りながら、竜笛も吹いています。祝日には鰻を食べることにしています。

最近の記事

百人一首で伸ばす読解力講座第8回:「わがいほは」(喜撰法師)

今回は「六歌仙」(『古今和歌集』の序文で特に有名な歌人として名前を挙げられた6人)の一人である喜撰(きせん)法師の歌です。 わが庵(いほ)は都のたつみしかぞ住む 世をうぢ山と人はいふなり 【現代語訳】私の庵は、都の東南にあって、(そこで私は)このように住んでいる。(それなのに)世の中をつらく思ってこの宇治山に住んでいるのだと、人々は言っているらしいよ。 「庵」(イオと読みます)は、主に、出家した人が世の中から離れるために作った仮の住まいを指します。「たつみ」は昔の方角

    • 百人一首で伸ばす読解力講座第7回:「あまのはら」(安倍仲麿)

      今回は遣唐使として若い時に唐の国(中国)に渡りながら、69歳で亡くなるまでとうとう日本に帰って来られなかった安倍仲麻呂の歌です。 天の原ふりさけ見れば春日なる三笠の山に出でし月かも 【現代語訳】広い大空を仰ぎ眺めてみると(月が出ているが、それは)春日にある三笠山に出ていた月(と同じ月)なのだなあ。 この歌は唐の国からいよいよ日本に帰れるとなって、唐の人々が開いてくれた送別の宴で仲麿が詠んだ歌です。しかし、結局仲麿はこのときには帰りの船が難破してしまい唐に戻ることにな

      • 百人一首で伸ばす読解力講座第6回:「かささぎの」(中納言家持)

        今回は「万葉集」の編さんに深く関わったとされる大伴家持(おおとものやかもち)の歌です。 かささぎの渡せる橋に置く霜の白きを見れば夜ぞ更けにける 【現代語訳】(天の川にかかるという)かささぎが羽で渡した橋に、降り置いた霜が真っ白になっているのを見ると、夜が本当に更けてしまったのだなあ。 「かささぎの橋」というのは、七夕の夜、天の川を渡る織姫のために鵲(かささぎ)という鳥が羽を連ねて橋を作り、織姫を渡らせたという中国の伝説を踏まえています。もうこの時点で「恋」の香りがしま

        • 百人一首で伸ばす読解力講座第5回:「おくやまに」(猿丸大夫)

          今回は、こうして百人一首にも選ばれ、三十六歌仙の一人にも選ばれたにもかかわらず、その伝記がほぼ不明で、残っている和歌も少ないという「謎の歌人」猿丸大夫の歌です。(猿丸大夫の歌ではないという説もあります。) 奥山に紅葉踏み分け鳴く鹿の声聞く時ぞ秋は悲しき 【現代語訳】山奥に紅葉を踏み分けながら鳴いている鹿の声を聞くときに、一段と秋が悲しく感じられることであるよ。 奥山は山奥のことで、そこには紅葉が散り敷かれているのでしょう。「踏み」があるのでそうとわかります。そして鹿の鳴

        百人一首で伸ばす読解力講座第8回:「わがいほは」(喜撰法師)

          百人一首で伸ばす読解力講座第4回:「たごのうらに」(山部赤人)

          前回からだいぶ間が開いてしまいましたが、今日からまたぼちぼち始めていこうと思います。第4回の歌は山部赤人の歌です。 田子の浦にうち出でて見れば白妙の富士の高嶺に雪は降りつつ 【現代語訳】田子の浦の浜辺にちょっと出て(遠くを)見てみると、真っ白な富士山の高い頂のあたりに、ちょうど雪が降っているよ。 有名な話ですが、この「田子の浦」の歌は、もともと万葉集に入っていました。万葉集では次の形で入っています。 田子の浦ゆうち出でて見れば真白にそ富士の高嶺に雪は降りける この万

          百人一首で伸ばす読解力講座第4回:「たごのうらに」(山部赤人)

          百人一首で伸ばす読解力講座第3回:「あしびきの」(柿本人麻呂)

          平安時代の歌人たちにとって憧れの存在で「歌聖」とも呼ばれた柿本人麻呂の歌が第3回の歌です。 あしびきの山鳥の尾のしだり尾の長々し夜をひとりかも寝む 【現代語訳】山鳥の尾で、長く垂れ下がった尾のように、長い長い夜を一人で寝ることであろうかなあ。 この歌も前半と後半で分かれます。前半は「あしびきの山鳥の尾のしだり尾の」で、後半が「長々し夜をひとりかも寝む」です。 前半は和歌の表現技巧でいうところの「序詞(じょことば)」というもので、「長々し」を導き出す働きをします。「導き

          百人一首で伸ばす読解力講座第3回:「あしびきの」(柿本人麻呂)

          百人一首で伸ばす読解力講座第2回:「春過ぎて」(持統天皇)

          ちょっとだけ間があいてしまいましたが第2回行きます。持統天皇の「春過ぎて夏来にけらし白妙の衣干すてふ天の香具山」です。 【現代語訳】春が過ぎて夏が来たらしい。真っ白な衣を干しているということだよ、天の香具山に。 「春過ぎて夏来にけらし」が前半、「白妙の衣干すてふ天の香具山」が後半だということは【現代語訳】からわかりますね。 前半が感想になっていて、後半がその感想を持つ理由、景色になっているわけです。 さて、この和歌の読解のポイントは「真っ白な衣を干す」です。なぜ白なの

          百人一首で伸ばす読解力講座第2回:「春過ぎて」(持統天皇)

          百人一首で伸ばす読解力講座第1回:「秋の田の」(天智天皇)

          これから不定期にはありますが、百人一首の歌を取り上げて、歌を詠みながら読解力を伸ばすための「読むポイント」を紹介していこうと思います。今日はその第1回。天智天皇の「秋の田のかりほの庵の苫をあらみ我が衣手は露に濡れつつ」です。 【現代語訳】秋の田の刈り穂を積んでおく仮の庵(小屋)は(屋根の)編み目が粗いので、私の衣は(落ちてくる雨で)露に濡れ続けているよ。 まず、作者に注目してください。天皇ですね。7世紀といいますから奈良時代より前の天皇です。で、その天皇が、この歌では農村

          百人一首で伸ばす読解力講座第1回:「秋の田の」(天智天皇)