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磯野真穂×與那覇潤「コロナ禍に人文学は役に立つのか?」(No. 926)

考える人 メールマガジン
2021年8月26日号(No. 926)

磯野真穂×與那覇潤「コロナ禍に人文学は役に立つのか?」


 新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、1回目の緊急事態宣言が出されてから1年4か月あまり。理系の専門家が主導するコロナ対策の裏で、見過ごされている問題はないのか。人文学の視点から何か提言できることはないのか。人類学者の磯野真穂さんと、(元)歴史学者の與那覇潤さんが話し合いました。

第1回 パチンコと居酒屋と「共感格差」

第2回 「いのちの現場」はどこにあるのか

ブレイディみかこ×ヤマザキマリ「パンク母ちゃん」

ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー2 』の発売が9月16日に決まったブレイディみかこさんと、ヤマザキマリさんとの対談「パンク母ちゃん」、noteで好評配信中!

「考える人」で冒頭の立ち読みができます。

1. パンクな母ちゃんとクレバーな息子たち


2. 詩人と本気で恋をした


3. 私たち一生「グリーン」

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■第1位 早花まこ「私、元タカラジェンヌです。」
第4回 鳳真由(前篇) 宝塚から医療大学へ――どうやったら自分なりに理解できるか、いつも考えている


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■第3位 安田菜津紀の写真日記
“最終”報告、という暴力

「考える人」と私(26) 金寿煥


 先週の続きです。念願がかなって、建築史家・風俗史家である井上章一さんの原稿を拝受。「考える人」2003年秋号の特集「異文化都市『京都』を楽しむ・考える」に、その原稿「洛外からの『ざまあみろ』」を掲載することができました。
 その原稿は、生まれも育ちも京都である井上さんが当地の「地域格差」をユーモアたっぷりに綴ったもので、「よそさん(府外の人間)」が無邪気に「京都っていいよね」などと語るのを戒める内容になっています。戒めるだけではありません。原稿の終盤で井上さんの筆は、段々と苛烈になっていきます。

 かつての今日京町屋は、だんだんすくなくなりだした。多くは、雑居ビルやマンションにたてかえられている。駐車場に化けているところもすくなくない。
 私は、建築史を研究している。文化史的な価値のある町家建築の衰亡を、ざんねんに思わなければならない立場にある。

 街の開発にともなって市中の空洞化が進むことを嘆くのかと思いきや、井上さんは「むしろ、『ざまあみろ』といった感情のほうが、わいてくる。千年の都なんか、つぶれてしまえという気持ちになってしまう」と、その胸の裡を正直に吐露しています。そうして、「ほろびるがよい。もう、この街は、大きな使命を終えた。あとは、凡庸な地方都市になってしまえばいいのだ」と原稿を結んでいるのです。
 この京都という街に対する複雑な愛憎。まさに井上さんにしか書けない「京都論」です。

 その7年後の2010年、私は井上さんに『ハゲとビキニとサンバの国 ブラジル邪推紀行 』(新潮新書)という新書をご執筆いただき、その編集を担当しました。井上さんがリオデジャネイロに滞在した時の経験をまとめたもので、愛読していた著者の本に携わることができ、望外の喜びでした。そして、「ぜひ次は井上さんの京都論をまとめたい。以前『考える人』に書いていただいた原稿をベースに」と、曖昧な約束を交わしたつもりになっていました。
 しかし、その5年後の2015年。朝日新聞出版から『京都ぎらい 』という新書が刊行されたのです。「しまった!」と思っても、時すでに遅し。約束を交わしたつもりで大したフォローをせず、漫然と過ごしていた自分をどれだけ呪ったことか。
『京都ぎらい』は、あれよあれよという間にベストセラーとなり、2016年の新書大賞にも選ばれました。
 編集者を経験した人間ならば、「逃した魚は大きい」と後になって悔しい思いをしたことが何度もあると思いますが、私にとって井上章一さんの『京都ぎらい』は、まさにそのような気持ちを駆り立てる一冊なのです。

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