#10 まいごのかぎ(全9時間)こうやって進めてみました
先日#7、#8で光村図書 国語(3年)「まいごのかぎ」の考察と教材研究について紹介しました。
今週「まいごのかぎ」の授業が全て終わりました。
3年前に授業をやった時よりも様々な発見があったので今回、全9時間の学習の流れを一通り紹介してみたいと思います。(※当初は6時間扱いの計画でしたが、子どもたちの興味や、考えていきたい問いがやっていく度に深まり、最終的に9時間になってしまいました。)
まず、9時間の学習計画を紹介する前に、当初、この教材を学習するにあたって以下のことをみんなで考えたいと思っていました。↓
以上の内容を一時間に一つずつ扱うのは、時数的に難しいので、これらの内容をできるだけ複数同時に考えていけそうな「大きな課題」を毎時間、学習状況や子ども実態に合わせながらつくっていきました。
今回考えた課題は次の9つ(全9時間)です。これらの課題を毎時間のはじめに子どもに示し「今日はこれについて考えてみようか」と授業を始めていきました。
次からはそれぞれの課題と、その時に感じたことなどについて解説していきたいと思います。
もしかしたら授業の何かヒントになる部分があるかもしれないので、気づいたことをできるだけ載せておきました。もしよければお付き合いください。
1時間目「この物語のあらすじを20秒で説明しよう」
・まず、1時間目をこの課題にしたのは「どれくらいの子どもがこの物語を しっかり読んでいるかを把握したかったため」です。
・「主人公が誰かもわからない」「何が起きるかもわからない」「あらすじも説明できない」そんな子どもが多いようであれば、物語についてみんなで考えるスタート位置にも立てないと思ったためです。
・どんな話かみんなで確認していくことで、子どもたちの読み込み具合を確かめました。
・まず数人の子どもたちに20秒でお話を簡潔に説明してもらいました。それを聞きながら、何となくお話を読んでいない子にもあらすじを把握してもらいました。
・あらすじがつかめたら、次は物語を説明するときに重要なキーワードは何かあげていきました。りいこ、うさぎ、交番、図工の時間、ベンチ…など様々なキーワードがあがりました。
・次のそのキーワードから絶対に外せないものを「3つ」だけ「選ぶ」活動をしてみました。そうすることで、子どもたちは教科書を読みながら、「りいこ」「かぎ」「うさぎ」といった、物語の核心になっているキーワードをしっかりと選んでいくことができました。
2時間目「物語を大きな場面に分けよう」
・これは、この物語の「起承転結」を一度整理したかったので2時間目にやってみました。
・前回「春風をたどって」で物語の起承転結の役割を学習したので、今回「まいごのかぎ」ではどこが起・承・転・結になるか、「きっかけ」や「急展開」に注目しながら改めて読み直していきました。
・また説明文「こまを楽しむ」と比較して、「『びっくり、楽しい、発見』などがある物語の『起承転結』と、説明文の『はじめ 中 おわり』は違うと思う」と子どもたちなりに説明してくれました。
・場面分けをするのと同時に「りいこの気持ち」をあらわす言葉をさがしていきました。
・すると「木、ベンチ、アジ」の場面では「よけいなこと」「ためいき」「悲鳴」などマイナスのキーワードばかりなのですが、バスの場面から「すごい」「わくわく」「目をぱちぱち」「うれしくなって」といったポジティブなワードが増えていくことに気づきました。
・場面分けをしながら、言葉をならべていくことで、後半に進むにつれて明るくなっていくお話だと気づくことができました。
3時間目「主人公のりいこはどんな女の子かな」
・この課題を提示する時に悩んだことは、「主人公りいこはどんな『性格』かな」と聞こうか迷ったことです。
・「どんな性格?」と聞くと、「やさしい」「明るい」「暗い」など安易に性格を表す言葉を発表して終わりになってしまうかもしれないと考えました。
・提示した課題の「どんな女の子かな」と聞くことで、性格以外にも、〇歳ぐらいの女の子、感情豊かである、活発、行動力がある、絵を描くのが好きそうなど、行動や容姿に関する意見も出てくるのでは考えました。
・この授業で面白かったことは、「りいこの性格の矛盾点」です。「よけいなことをしちゃった」と慎重な部分もありつつ、知らないにものに次々とかぎをさす、思ったことを言葉にしてしまう「大胆さ」、うさぎのことを気遣う「優しさ」など様々な一面をもっている主人公です。
・子どもたちに「みんなもこういうふうに全然違う性格になったりすることってある?」と聞いたところ「あるある!」とりいこの性格を自分たちと比べ、共感しながら理解していたところが面白かったです。
4時間目「物語の設定について整理しよう」
・物語の設定として、この物語の①季節 ②時代 ③りいこの年齢を推測していきました。
① の季節に関しては「夏の風」「半袖」などから初夏であることが分かります。
② のこの物語の時代はいつごろかについては「バス停」や「国道」という表記から現代ではないかという所まではすぐにたどり着けました。ただ話に出てくる言葉から、今より少し古い年代じゃないかと予想する子が多かったです。作者の斉藤倫さんが作家としてデビューしてから、この物語を書いた間の年代のどこかではないかと鋭い予想をする子もいて盛り上がりました。
③ のりいこの年齢は3年生~4年生という考えが圧倒的に多かったです。りいこに自分たちを重ねて読んでいる部分があることや、そもそも3年生の教材なのだから、りいこはおそらく3年生だろうという意見が多かったです。
一方で、「図工で風景画を書くのは小学校低学年ではありえないから、おそらく3年生か4年生あたりではないか」「うさぎを図工の時間に書き足す幼い面もあるので、5,6年生とは考えにくい、よって3~4年生ではないか」という理論的な読みをする子もいました。
5時間目 「りいこの気持ちはどこで変わったのだろう」
・この課題に関しては、3年前も子どもと一緒に考えたことがありました。物語の前半あれだけ落ち込んでいたりいこが、後半ものすごく気持ちが前向きになっていきます。
・気持ちが前向きになった一番のきっかっけは何か読んでいくと、みんな同じ場面(バスの場面)がきっかけだということに気づきました。
・そこからバスの場面の何が一番のきっかけになったか、気持ちが変わった一文を探していく時間にしました。よく読んでいくとバスのクラクションの部分でりいこ気持ちが一気に前向きになっているように思います。
・この時面白かったのが、「木、ベンチ、アジ」はかぎをさしても気持ちが落ち込んだままのに、なぜ「バス」の時は気持ちが前向きになったのかという問いが授業中に生まれました。
・おそらく前の3つは、動いていない「対象そのもの」にかぎをさしていますが、バスに関しては「本来動いているもの」であり、「バスの時刻表」というバスを束縛する「ルール」にかぎをさしているということに気づくことができました。
6時間目 「物語の気になる表現を見つけよう」
・この物語を初めて読んだ時に「比喩表現」が多くて楽しい話だなと感じていました。
・改めて、作中の素敵な表現をみんなで探してみることにしました。
例えば…
お豆腐みたいな校舎(絵)
夏の日差しをすいこんだ(かぎ)
ランドセルだけが歩いているよう(りいこ)
しっぽみたいにくるんとまいている(かぎ)
ほっとしたようながっかりしたような(りいこ)
ありのように(時刻表)
おだんごみたいに(バス)
がっそうするように(バス) 等まだほかにもあります。
・斉藤倫さん、さすが詩人だなと感じる素敵な表現のオンパレードでした。(作者の代表作「どろぼうのどろぼんも」こういった素敵な表現のオンパレードです。)
・この日の授業の最後のまとめとして、「斉藤倫さんはこういった表現をたくさん使うこととで、物語をどのように読んでほしかったのか」子どもたちに考えを書いてもらって授業を終了しました。
7時間目 「『かぎ』じゃなく『ボタン』を押す話ではだめなのか」
・この課題で公開研究授業をやってみました。
・「もしこの物語が『かぎ』ではなく『ボタン』を押すと次々と不思議なことが起こる話だったら…」と仮定することで、作者がこの作品のアイテムを「かぎ」にした必然性が見えてくるのではないかと考えました。
・子どもたちから出た意見として
「りいこがかぎを拾うことで物語が始まるきっかけが生まれている」という意見
「かぎ=不思議をひらくアイテム」という意見
「かぎ=ルールを変えていくもの」という意見
「例えばベンチにボタンだと誰でも押せてしまう、鍵をもっているりいこだけが対象に働きかけられる」という意見
「消したはずのうさぎとの関連をもたせるため」という意見
といった様々な意見が出てきました。
・個人的には「『扉ではなく不思議の扉をひらく』という、かぎ本来の使い方と少しかけているのでは」という考えや、「ボタンだと誰かが押してしまうかも、ボールが当たってベンチが動いてしまうかも」といった考えが子どもらしくて面白いなと思いました。
8時間目 「『りいこ』と『うさぎ』と『かぎ』の関係を考えよう
・この授業が全9時間の中で一番難しかったです。ある意味すっきりとした答えは出ませんでした。
・かぎはうさぎが化けているという意見は多くの子から出てきました。(「少し大きい」とか「しっぽのようにくるんとまいている」などの表現があるため)
・うさぎに関しては「うさぎ」は「りいこの心が生み出したもの」という所までは子どもから出てきたのですが、、「りいこの『どんな心』がうさぎをうみだしたの?」とさらに聞いてみたところ難しかったようで、なかなか答えがでてきませんでした。
9時間目 「作者がこの物語で伝えたかったことは何だろう」
・「前回の春風をたどって」と同様に学習のラストはこの課題にしました。
・まず初めの5分間で「春風をたどって」にはどのようなメッセージがあったかを確認し「普段、見慣れた場所も見方を変えるとよいところが見える話」「新しい友だちの良さに気づく話」「4月に新しいクラスや新しい友だちのよい所を見つけてほしいという話」といったように「作品のテーマ」について確認しました。
・この学習で学んできたことを総動員して、作者はこの「まいごのかぎ」にどんなメッセージを込めていたのかをみんなで考えました。
・はじめは「落ちているものはちゃんと交番に届けようという話」という意見も出ていましたが、「ルールを変えて自由にしていく話」、「見方を変えるといいことがあるよという話」「自分を元気づけてくれるものを大切にする話」など色々な意見が広がっていきました。
・ある子が言っていた「この話は『りいこ』と『はずかしさ』の戦いの話なんだ」という意見が子どもたちには一番納得できたようでした。
・物語のはじめは「恥ずかしさに負けて」うさぎを消してしまったけど、物語後半では「はずかしさを克服できたからうさぎがまた出てきたんだ」と子どもたちなりの理論で考えることができていて、面白かったです。
今回、説明がとても長くなってしまいましたが、「まいごのかぎ」を子どもたちと楽しむことができました。
また機会があれば、別の物語でも、今回のように授業の流れを紹介してみたいと思います。
最後まで読んでいただき本当にありがとうございました!