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#8 まいごのかぎの教材研究

前回に続き、研究授業をした「まいごのかぎ」について書きたいと思います。
前回#7で紹介できなかったことを補足して紹介してみようと思います。

まいごのかぎに限らず、私は物語教材を扱う際、

物語の世界にどっぷり入り込んで楽しむ「内側の視点」
物語のつくり方や、作者の意図など客観的に作品を楽しむ「外側の視点」を意識して授業をつくります。

①「内側の視点」からこの教材を見ると、授業では次のようなことを抑えることができます。

・主人公の定義、りいこはなぜ主人公といえるのか
・物語の設定の確認(時代、季節、りいこの年齢等)
・登場人物の性格
・場面ごとの気持ちを表す言葉の確認 
・比喩等の表現
・起こったことの時系列
・段落、起承転結
・物語の構成 …など

これらは、文に書かれていることなので、本文をしっかり読めば分かることとも言えます。


②次に「外側の視点」から、この教材を見ると、次のようなことを授業で考えることができそうです。

・題名の設定理由(「まいごのかぎ」とは?)何が「まいご」なのか?
・設定について(4つの出来事、順序性)
・後半急にりいこの気持ちが変わる理由
・消したうさぎがもう一度出てきた理由
・作者について
・物語のテーマについて
・物語はどんな続きの話が考えられそうか  
…など

これらは直接答えが書かれていませんが、文章をよく読むことで、構成や、表現などから、作者が作品に込めた意図が見えてくることがあります。

いま紹介した項目の一つひとつを「一時間ずつ」扱うのではなく、まとめて授業の中で考えていく事ができます。

例えば「物語を大きな場面に分けよう」という問いを一時間の授業で提示すれば
・起こったことの時系列
・段落、起承転結
・物語の構成
・場面ごとの気持ちを表す言葉の確認

 などは同時に考えることができます。



私は個人的に、②の「外側の視点」から問いをつくる方が面白いと思っています。

子どもによって、自分も気づかなかったような、色々な解釈を知ることができますし、作者の意図(作者から読者への挑戦状みたいな感じ)にみんなで挑んでいく過程が楽しいと感じるためです。

とはいえ、何でもかんでも想像で、面白いことを言い合えばいいというわけではなく、叙述に基づいて、作者や作品の意図を読み解いていくことがポイントなのかなと思っています。(極端ですが、例えば面白がって「りいこは宇宙人だと思います」みたいな根拠や論拠のない読みにならないように、その理由をしっかりとたずねるようにしています。)


今回、外側の視点から見た問いを同じ職場の先生方といくつか考えてみました。
(ああでもない、こうでもないと言いながら授業を考えるのは本当に楽しいです。)
以下の3つの「外側の視点から考えた問い」は、まとめとして単元後半の方で扱いました。

※補足として自分の考えも紹介していますが、前回同様これも私の個人の解釈なので、これが正解というものではありません。

問①「なんで落ちていたのが『かぎ』だったの?」
・なぜボタンじゃないのか。鍵にする必然性は何か(必ず作者の意図がある。)
・発問として以下のようなものが考えられそう。
「かぎって普通ドアを開けるもの。使い方が違うんじゃない?」
「かぎにする必要はあるのかな?ベンチにボタンではだめだったのかな?」
「『まいごのかぎ』というタイトルだけど本当は『不思議なかぎ』じゃないのかな?何がまいごなのかな?」
「なぜ別の鍵穴に、全てりいこの見つけたかぎがが適合したのかな?全部開けることができているけど」

以下自分の解釈です。(詳細は#7で紹介しています。)
・「かぎを合わせて、開ける」という鍵の特性にヒントがあるような気もする。
・ボタンは「押すもの」⇔「かぎは合わせるもの」つまり、かぎ(りいこの本心、価値観)を対象に合わせるという意味もありそうである。
・またかぎは外部のから、別の対象に働きかけるのに対して、ボタンは対象そのものにプログラムされた機能が起動するという意味になるので、りいこが「自分の価値観で」ものごとに働きかけるという意味ではやはりかぎの方がしっくりくる。

問②「なぜうさぎは、りいこに消されたのに怒らず最後は笑顔で見送ったの?」
・発問例「りいこってうさぎには何にもしてあげてないよね。なんでうさぎは最後笑って出てきたのかな?」
・考え方として「うさぎはりいこに会いたかったから」では弱い。
・「なぜ会いたかったのか」会いに来る必然性を考えさせたい。
・そもそもうさぎは何なのか?かぎは何なのか りいことうさぎの関連性を子どもが考える授業になりそうである。
・うさぎがりいこに「何か」を気づかせるためにかぎに変身したと思わせる描写がいくつかある。
・しっぽのようにくるんと丸まったかぎ、普通より少し大きいかぎ、何か特別なかぎの特徴が描かれていることもヒントになりそうである。

問③「木 → ベンチ → 魚 → 時刻表 だけどなんでこの4つなのか ポストなどじゃダメなのか?」
・出てくるものの順序性、段階性、関連性を考えさせたい。
・構造としては「大きなかぶ」のような繰り返しの構造と似ている。
・内容以上に、物語がどういう構造をしているかを読む面白さがある。
・木→ ベンチ→ 魚→ 時刻表 の4つのモチーフの関連性はあるか。
・ポストや自動販売機でもよいはずだが。このモチーフを考えた作者の意図を考えてみたい。
木、ベンチは「物理的に動けないものの象徴」、アジとバス関しては「人の都合によって動きを制限されたものの象徴」ともとらえられる。
・木、ベンチ、アジはもともと動くことができない状態である。しかしバスに関しては動くことは可能である。
・バスは時刻表という「ルール」に鍵をさしていることもポイントだと感じる。
・授業中子どもが言っていた、「バスはもともとエンジンを動かすためにかぎをまわすじゃん。だから時刻表にかぎをさしたんじゃないの?」という意見もよい視点だと感じた。


先日の研究授業後の協議会で、この教材のついて話し合った時、同じ学校の初任の先生は、「かぎ」はりいこの自由を解放するためのものというだけでなく、りいこの「自制心」を象徴するものではないかという考察をされていてとても面白かったです。
(A市小学校研究会国語部会の先生方さまざまな、ご意見ありがとうございました!)

確かにりいこは不思議なことをする度に、「これはよくない」と思ってかぎを抜く場面がいくつかあります。



このように、何度読んでも新しい解釈が見つかることが、国語の魅力だなと感じます。これからも、新しい発見する感覚を大切にしながら子どもたちと授業をしていきたいと思います。

今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。
また日々の生活や授業の中で、考えていることを紹介できたらと思います。

みんなのフォトギャラリーからtoyslabさんの写真を使わせていただきました。物語の世界のような素敵な写真です。