後世に継ぐ「文化の砦」を残したい
島根県益田市にある島根県芸術文化センター グラントワ。2005年、芸術劇場、美術館が一つになった巨大な複合施設が建設された。人口5万人弱のこのまちには異例の1500席規模の大ホールをもつ。益田市に「文化の砦」を残したい。ここには当時の益田市の澄田市長の強い想いがあったという。
この地でグラントワ設計者の内藤廣による過去最大規模の個展「建築家・内藤廣/BuiltとUnbuilt 赤鬼と青鬼の果てしなき戦い」が2023年9月16日~12月4日にかけて開催されている。建築設計をする上で、内藤氏の中にある夢想的な赤鬼の心と現実的な青鬼の心の葛藤を、BuiltとUnbuilt全80作品を通じて解説する企画展。
面白そう!行ってみよう!
さっそく早朝の電車で益田市へ。
島根県に入ると、あちらこちらで企画展のポスター。
かなり魂込めた企画のよう。期待が膨らみます!
島根県芸術文化センター グラントワ
文化の砦
人類は長い年月を経て、文化を育み、繁栄を遂げてきた。人は生まれ、いずれ死に至るも、DNAは脈々と受け継がれてきたのだ。地域のDNAもまた後世へと受け継がれ、古くから残る建築物は、今の我々に多くの歴史を語りかけてくれる。建築は我々が死んだ後もなお未来をかけ、今の我々の営みを後世に伝えてくれる存在。
消費社会の建築。国土交通省によると日本の住宅の平均寿命はたった30年だそうだ。現代建築に遺跡として残る建築は存在するだろうか。益田のまちに「文化の砦」をつくる。この想いに応えた内藤氏設計のグラントワはその可能性を秘めた日本に数少ない名建築といえる。
石州瓦
200年、300年、未来に残る石州瓦は、ここ益田市で生産される。石見地方のみならず山陰地方の一帯は、赤い石州瓦が使われる。緑生い茂る山の麓の集落に伏せるように並ぶ赤い屋根は、風景に美しいアクセントを入れる。
グラントワでは、28万枚の瓦が屋根に外壁にと使われる。外壁の瓦は鱗のようにキラキラと空の色写し込む。時に真珠色に輝く外壁にはうっとりと目を奪われる。
島根県立石見美術館
真っ赤なエントランスの扉から入ると45m角の中庭に出る。中庭を中心に美術館、大ホール、小ホールが併設される。
美術館ロビー
企画展が開催されている美術館のロビー。なんとかっこいい!中庭の庇から少しずつ天井高が高くなり、ロビーで一気に上に抜ける。重厚感のあるアーチ型の天井も、隅のハイサイドライトで浮遊感を帯び、一層美しい陰影を落とし込む。
美術館展示室
展示室は、ほとんどのエリアが撮影禁止。展示室にもまた違ったハイサイドがあったのでパシャリ。ロビーのハイサイドは西向き。展示室のハイサイドは北向き。差し込む光は少し冷たく、赤鬼と青鬼のグラデーション。
島根県立いわみ芸術劇場
残念ながら大ホール小ホールの見学は予約制。今回はホワイエまでの見学。
大ホールは岩のような重厚感のあるデザイン。このデザインも構造や音響を兼ねた合理的なRC折板構造で、音響も日本一美しい?というお噂。今度こそは…。
木と岩。この空間に統一感を持たせているのは柱だろう。相対する物質の中間的な印象を与えてくれている。また、岩のようなホールは床との接合部が内側に入り込み、天井は深海のように深く暗闇に包まれ、境界を曖昧にしている。
企画展「建築家・内藤廣/BuiltとUnbuilt」
企画展に関しては百聞は一見にしかず、かな。Unbuilt作品は特に貴重。内藤氏の卒業設計からコンペ案、進行中のプロジェクトまでが、3つの展示室を跨いでびっしりと展示されている。
とにかく内容は膨大。何時間美術館の中にいたことか。一つ一つの作品が巨大な模型で緻密に作られ、赤鬼と青鬼の葛藤が細かく記載されている。そうだった…、展示会のタイトルは「果てしなき戦い」。試行錯誤の量が果てしなかった…。
だからこそ、おすすめしたい!大迫力の展示でした!
おまけ
帰りがけ、ザザッと通り雨が降った。深い軒下で雨宿りする人々は、滝のように中庭の水盤に注ぎ込まれる雨のカーテンに包まれて、間隔を開けながら座っている。雨の音を聞いているのか。水面の波紋を眺めているのか。ひとり、またひとりと中庭の軒下に集まってくる。
気付けばカラッと晴れ、時刻は夕方の4時を迎える。少しずつ陽が傾き、赤く染まる夕陽は石州瓦の朱色をより一層赤く染め上げた。中庭の水盤のわずかな波がピタッとやみ、水面に大屋根が浮かび上がった───
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