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「枕草子」冒頭文を完全に暗記しちゃえ②

 清少納言の「枕草子」を暗記しよう。あまり長い文章は読むのに疲れるので、2回に分けた2回目。

 人間は忘れるので、忘れた頃にもう一度繰り返す。それが暗記だ。その繰り返しで記憶が定着していく。だから文章も分けて繰り返す方がいいのであ~る。ほんまかいな。

 現代の読み方(表記)で読みやすく書いたものは、(①の繰り返しになるけど……こっちのページでも口に出して言って覚える)


 春は、あけぼの。ようよう白くなりゆく山ぎわ、少しあかりて、むらさきだちたる雲の、細くたなびきたる。

 夏はよる。月のころは、さらなり。やみもなお。蛍の多く飛びちがいたる。また、ただ一つ二つなど、ほのかにうち光りて行くも、おかし。雨など降るも、おかし。

 秋は夕暮れ。夕日のさして、山のいと近うちこうなりたるに、からすのどころへ行くとて、三つ四つみっつよつ二つ三つふたつみつなど、飛び急ぐさえ、あわれなり。まいて、かりなどのつらねたるが、いと小さく見ゆるは、いとおかし。り果てて、風の音、虫のなど、はた、言うべきにあらず。

 冬はつとめて。雪の降りたるは、言うべきにもあらず。しものいと白きも、またさらでも、いと寒きに、火など急ぎおこして、すみもて渡るも、いと、つきづきし。昼になりて、ぬるく、ゆるびもていけば、火桶ひおけの火も、白きはいがちになりて、わろし。

 現代語訳は、

 春は、明け方がすばらしい(をかし)。次第に白くなってゆく山ぎわが、少し明るくなって、紫がかった朝焼けの雲が細く空にたなびいている景色はすばらしい(をかし)。
 夏は、夜がいい。月の晩はいうまでもなくすばらしい(をかし)。月のない闇夜もなおすばらしい。闇夜にホタルが多く飛び交っている、すごいじゃないか。ホタルは、多くいなくとも、1匹2匹がほのかに光って飛んでいくのもすばらしい。夏の暑い夜に雨が降るのも最高じゃん。
 秋は夕暮れ時がすばらしい。夕陽が山の端に近くなり、もうすぐ沈もうという頃に、カラスが寝床に行こうと、あちらに3羽4羽、そちらに2羽3羽と飛び急いでいるのも心にしみる。あの黒いカラスでさえそうだから、カリ(雁)の群れが隊列を作って上空を飛んでいるのが小さく見えるのは非常にすばらしい。日が沈んで、風の音や虫の音など、言うまでもなくすばらしい。
 冬は早朝がいい。雪が降り積もっている景色はいうまでもなくすばらしい。雪じゃなく、霜が降りてキラキラしているのもすばらしい。また、そうじゃなくとも、とても寒い朝に、急いで火をおこし、真っ赤に燃えた炭を持って部屋を渡るのも、とっても冬らしくていい。
 昔は、火鉢で暖をとっていた。火鉢には炭が入れてあるけど、火鉢の中で炭に火をつけることはできない。別の場所で炭を燃やして真っ赤にする。それを入れ物に入れて持って、各部屋にある火鉢に入れていく。火鉢の中では、真っ赤な炭に灰をかけたり取ったりして温度調節をする。これが一昔前の日本の冬の風景だった。その情景が、冬らしくてすばらしいと言っている。
 昼になって、だんだん暖かくなり、火鉢の火が灰になって白くなっていく、これはよくない。
 「すごい、すごい」と並べてきて、最後に「わろし(悪し)」というものを出す。
 「わろし」は、燃え尽きた灰のこと。反対の「をかし」の情景は、真っ赤にギンギンに燃える炭。燃えている赤い炭は好きだけど、燃え尽きて灰になった炭はよくない。清少納言の性格、感覚がわかるところだ。


 訳していると、だんだんくだけてきて、昔、流行った、橋本治「桃尻語訳 枕草子」(1987)のようになってしまう。

春って曙よ!
だんだん白くなってく山の上の空が少し明るくなって、紫っぽい雲が細くたなびいてんの!
夏は夜よね。月の夜はモチロン! 闇夜もね……。

 こういう作品もすばらしく、「枕草子」の世界を伝えてくれる。でも、外国の人に日本文化を紹介するときには、やっぱり原典を紹介したい。そのためにも、原典の一つ二つは完全に暗記し、自分のものにしておきたい。
 と、ここまで読んだら、もう暗記文を少し忘れているだろう。忘れたら覚える。それが「学習」だ。
 
 暗記するときは、ゆっくり読まないリズムをつけて、スラスラとちょっと早口で読んでいく。情景の浮かぶ季節から覚えていい。こういうふうに作者は景色を見ているんだなと、平安時代の貴族の生活を想像して覚えていこう。



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