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令和版小倉百人一首試作5/5

 令和の子でも読める百人一首の試作、最終回、81~100。少しでも百人一首の魅力を現代の子どもたちに伝えたい。
 

81 ホトトギス夜に鳴く声聞く空に見えるのはただ有明ありあけの月

ほととぎす鳴きつる方をながむればただ有明ありあけの月ぞ残れる   後徳大寺左大臣

明け方の月の下でホトトギスの声を聞く。
 

82 恋破れ生きていくのもつらい世に耐えているのに涙が流る

思ひわびさても命はあるものをうきにたへぬは涙なりけり   道因法師

恋に思い悩み、つらくてたまらない。
 

83 世の中を捨てて奥山入ったら悲しく鹿が鳴く声聞こえ

世の中よ道こそなけれ思ひ入る山の奥にも鹿ぞ鳴くなる   皇太后宮大夫俊成

鹿はいろんな鳴き声をあげるそうだが、オスの縄張り主張は「ヒューンヒューン」らしい。
 

84 生きてればつらいこの世も懐かしく思い出される時間の魔術

ながらへばまたこの頃や忍ばれむうしと見し世ぞ今は恋しき   藤原清輔朝臣

昔のつらい時代も、今では懐かしく思い出される。だから今も……。
 

85 けて思い悩んで闇の中いつまでたっても闇が続くよ

夜もすがら物思ふ頃は明けやらでねやのひまさへつれなかりけり   俊恵法師

彼が来るのを一晩中待っている。
 

86 なげくのは空に浮かんだ月のせいあの人思って涙が流れる

なげけとて月やは物を思はするかこち顔なるわが涙かな   西行法師

月のせいではないのに、月を見ると涙が流れる。
 

87 村雨むらさめつゆもまだある森の中きり立ちのぼる秋の夕暮れ

村雨の露もまだひぬまきの葉に霧立ちのぼる秋の夕暮れ   寂蓮法師

にわか雨の後の霧の森。
 

88 難波江なにわえあしを刈った仮の宿一夜ひとよの恋の思い出続く

難波江なにわえあしのかりねのひとよゆゑみをつくしてや恋ひわたるべき   皇嘉門院別当

「~あしの」が序詞じょことばで、「かりねのひとよ」(刈り取ったあし一節ひとふし&旅の仮の宿の一夜ひとよ)を出す。
 

89 たましい消えてしまえよ生きていて恋を隠しているのに疲れ

玉の緒よ絶えなば絶えねながらへば忍ぶることの弱りもぞする   式子内親王

肉体と魂をつなぐ「玉の緒」が切れると命がなくなる。
 

90 見せたいわ雄島おじまの漁師が濡れるよりさらに流れる私の涙

見せばやな雄島おじま海人あまの袖だにも濡れにぞ濡れし色は変はらず   殷富門院大輔

私の涙は血の涙、服の色さえ変わってしまう。
 

91 きりぎりすしも降る夜に生き残り鳴く声聞いてる私は一人

きりぎりす鳴くや霜夜しもよのさむしろにころもかたしきひとりかも寝む   後京極摂政前太政大臣

「きりぎりす」は今の「こおろぎ」のこと。秋の虫の声。
 

92 我が袖は涙に濡れて乾くもなく思い出にれ続けてる

わが袖は潮干しおひに見えぬ沖の石の人こそ知らねかわくもなし   二条院讃岐

沖の石はいつも濡れ、私の涙もとぎれることなし。
 

93 世の中は変わらずいてよ寄せる波漁師の姿もいついつまでも

世の中は常にもがもななぎさ海人あま小舟おぶね綱手つなでかなしも   鎌倉右大臣

世の中は諸行無常、変化する。けれどこの風景が続いてほしい。
 

94 吉野山よしのやま秋の風吹きけてふるさと寒くころも打つ音

み吉野の山の秋風さ夜けてふるさと寒くころも打つなり   参議雅経

布を柔らかくするために、とんとんとんとたたく音がする。
 

95 つらい世で恐れ多くも僧のわれ比叡山ひえいざんにて平和を祈る

おほけなくうき世のたみおおふかな我が立つそま墨染すみぞめの袖   前大僧正慈円

比叡山延暦寺で僧侶として世の平和を祈る。
 

96 花誘う嵐の庭で雪が降るように花散るわれも年

花さそふ嵐の庭の雪ならでふりゆくものは我が身なりけり   入道前太政大臣

桜の「花が降る」ように散るのに「我が身が散る(年をる)」のをけている。
 

97 来ぬ人よあなた松帆まつほの夕暮れに藻塩もしお焼く身はじりじりもだえ

来ぬ人を松帆まつほの浦の夕凪《ゆうなぎ》に焼くや藻塩もしおの身もこがれつつ   権中納言定家

松帆まつほ」と「待つ」の掛詞かけことば藻塩もしおは海藻を焼いて作る塩。
 

98 風そよぐ奈良のナラの葉そよそよと「みそぎ」の行事が夏を知らせる

風そよぐならの小川の夕暮れはみそぎぞ夏のしるしなりける   従二位家隆

「奈良」と「ならの木」の掛詞かけことば。「みそぎ」は夏の神事。
 

99 いとおしくまたうらめしきこの世ゆえあれこれ思いむなしさつのる

人もし人もうらめしあぢきなく世を思ふゆえにもの思ふ身は   後鳥羽院

愛し恨めし人生は、いろんな思いが駆け巡る。
 

100 いにしえの古き屋根うえしのぶぐさ古き昔が思いしのばれ

ももしきや古き軒端のきばのしのぶにもなほあまりある昔なりけり   順徳院

「ももしき=百敷」は宮中、皇居のこと。昔の繁栄がなつかしい。
 

百人一首かるた序歌
難波津に咲くやこの花冬ごもり今を春べと咲くやこの花   王仁博士

 

 百人一首を授業で覚えたりカルタで楽しむだけでなく、意味ある歌として声に出して読んでほしいと試作をしてみた。
 もっといいものができるだろうから、みなさんも作ってほしい。また、子どもたちに作らせるのもおもしろい。大人とは違った発想もたくさんあるだろう。そうして伝統が継承してゆく。





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