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寒竹泉美
2020年12月15日 16:41
(※2008年11月に書いたエッセイです) 京都の町には艶やかで美しい影が潜んでいると、わたしは思う。その影は、完璧な闇というよりは、流れに洗われてぬらぬらと光る川の石のような、どこか愛嬌のある黒をしている。 古い黒ずんだ木造の家には必ず影がある。庇の裏。柱の側面。窓枠の下。少し裏に回って家と家の狭い隙間を覗き見れば、そこにも必ず影がある。見つけ出すと、何だかほっとする。 この町で長年
2020年12月15日 16:54
(このエッセイは2009年1月に書いたものです) 川端康成の長編小説「古都」には、京都の美しい四季や祭りの様子、京都弁で話す人々の暮らしが、観光ガイドのように並べられ、描写されている。そして、そんな京都を舞台に、生き別れの双子の姉妹が偶然出会うというドラマティックなストーリーが繰り広げられる。だけど、わたしが、この小説を読んでいて特に魅力を感じたのは、京都の描写でも双子の運命でもなく、登場人物
2020年12月15日 17:05
洛北を走る叡山電車からケーブルカーに乗り継いで、さらにロープウェイに乗り換える。ロープウェイが地を離れ、約百年ほど前、「虞美人草」の主人公である宗近君と甲野さんが(そして、作者である漱石も)せっせと徒歩で登った険しい勾配が、窓の下に広がり始める。わたしは、それを上から眺めながら、汗もかかずに、ぐんぐん登っていく。乗車賃はそれなりだが、金さえ払えば、あっという間に比叡山の山頂である。「虞美人草
2020年12月15日 17:15
(※このエッセイは2009年11月に書いたものです)「細雪」を読むのは二回目で、以前は関西に住んでいなかったからぴんとこなかった地名も、今読み返してみると、訪れたことがある場所が次々出てくるし、やわらかな関西弁は耳に馴染んで、イントネーションも思い浮かぶから、文字から声が聞こえてくる。 谷崎がこの作品を書き始めたのは、一九四二年だそうで、その頃から、もう六十七年も経っているのに、時を越えて