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先手有利をどう軽減するか —アブストラクトゲームにおけるバランスルール

Noteでもたびたびご紹介している私の考案したアブストラクトゲーム「メリディアン」につきまして、先日オプションルールとして新たに「パイルール」を追加することが決まりました。これはヘックスツイクストのような接続目標のアブストラクトでよく使われる、先手と後手の有利さのバランスを取るためのルールです。通常、先手が最初に駒を置いた後、後手が先手と交代するかどうか選べるというかたちを取ります(後ほどもう少し詳しく紹介します)。

メリディアンは捕獲ルールが独特で、当初このルールが先手に有利なのか後手に有利なのかよくわかっていませんでした。幸いアブストラクゲームのコミュニティから注目を得、様々なオンラインゲームサイト、特にボードゲームアリーナに実装されたことで有能なプレイヤーによるゲームサンプルが増えた結果、先手が有利であることがはっきりした、というのがルール追加の経緯です。

バランスルールの検討にあたり、どのような選択肢があるのか、ということについてコミュニティ(他のデザイナーやプレイヤー)から様々なアドバイスをいただきました。その際参考になったものの一つが、Christian Freeling氏のウェブサイトMindsportsにまとめられている以下のページです。

以下ではこちらの記事を主な参照文献として、アブストラクトゲームのデザインで一般的に使用できるバランスルールのいくつかを紹介したいと思います。アブストラクトでは先手が有利になることが多いため(オセロのように後手有利と言われているものもありますが)、通常は先手の有利を緩和するためのルールになります。


コミ

コミは囲碁で用いられているバランスルールで、後手(白)のプレイヤー側にハンデとして一定の得点(地)があらかじめ計上されているというものです。現代の囲碁ではコミの値は六目半(6.5)であるため、先手プレイヤー(黒)は相手より七目上回らなくては勝てないということになります。

コミは細かく数字を設定できるため、先手・後手の有利さを精密に調整できるうえ、「6.5」のように端数を設けることで引き分けの余地をなくせるという利点があります。一般にスコアを競うようなゲームに適したバランスルールです。しかしながら妥当なコミの値を設定するためにはそれなりに多くの試合データが必要であり(六目半のコミが日本で採用されたのは2002年からで、それ以前は五目半、さらに以前は四目半でした)、そのため新しいゲームデザインで採用することには難しさもあります。

禁じ手

五目並べは囲碁の用具でプレイできる手軽なアブストラクトゲームですが、先手が非常に有利なことで知られています。この先手有利のバランスを取るために様々なルールを設けて競技化したものが連珠で、このゲームでは先手にのみ禁じ手となる形(三三、四四、長連)があり、先手はこの形を作った時点で即座に負けになります。

ただしこの禁じ手があってもなお先手が有利なため、連珠ではさらに複雑な開局規定(オープニングルール)を設けてバランスを取っています。

連珠の変種である二抜き連珠は捕獲ルールを持つ五目並べですが、先手の二手目は一手目から三目以上離れていなくてはならないというルールがあり、これも一種の禁じ手と見なせるでしょう。連珠くらいの強い禁じ手があると非対称ゲームの趣が出てきますが、このような序盤の軽い制約であれば汎用性がありそうです。

パイルール

冒頭でも触れたように後手番が先手番と交代する権利を持つというもので、スワップルールとも呼ばれます。パイとは食べ物のパイで、要はケーキを切り分けるときに不公平にならないように切り分けた人が最後に取るというあれのことです。

ヘックスのようにボード端を駒で接続することを目指すゲームでは、通常ボードの中心に駒を置くのが有利になるため、配置が一つ先行する先手プレイヤーがまず中心付近を取ると必勝に近くなることがあります(ボードサイズ等にもよりますが)。そのため経験者同士のプレイでバランスを取るために必要とされるルールです。

ヘックスで使用されてよく知られるようになったものと思われますが、英語版Wikipediaによると1909年にマンカラゲームで使用されたのが、記録されているうちでもっともはやい例とのことです。先述の連珠の開局規定の中にも後手番が先手番と交代することを選べるというルールが含まれています。


パイルールのヴァリエーション

通常のパイルールは「先手が最初に駒を配置した後、後手は先手番と交代するかどうか選べる(先手だったプレイヤーは後手としてプレイを続ける)」というものですが、バリエーションとして一方のプレイヤーが各色1つずつ(またはそれ以上)の駒を配置し、他方のプレイヤーがどちらの色でプレイするかを選ぶ、というものがあります(先手の色は固定です)。通常のパイルールだと逆に後手が有利になりすぎるような場合に使用されます。タンブルウィードがこの方法のパイルールを採用していて、メリディアンもこれを踏襲しました。

もう一つのバリエーションとして、一方のプレイヤーが各色の駒を1つずつ配置し、他方のプレイヤーはそれをみて自分の色を決めるか、または先にプレイするかを選べる(つまり先手の色は非固定)というものがあります。Christian Freeling氏が考案し、自作スィッシュおよびスクィーズで採用したものでマルキジアンメソッドと名付けられています。

パイルールはコミと組合わせることもできます。先手プレイヤーは任意の数値をコミとして提案した後で駒を配置し、後手のプレイヤーはその数値と配置を両方吟味してスワップを行うかどうかを決めます。先述のように新しいゲームでは妥当なコミの値を決めるのは難しいのですが、逆にプレイヤーに決めてもらうことで妥当な値を探ってもらえるというわけです。ベラタスアユの作者Luis Bolaños Mures氏がいくつかのゲームでこのようなオプションルールを設けています。

1-2-2 プロトコル

1-2-2プロトコル(12* プロトコルとも)とは、先手の第一手は駒を1つだけ配置し、次の後手は2つ、以後はどちらも毎手番2つずつ配置を行うというもので、コネクト6で使われてから知られるようになりました。この方法だと手番プレイヤーは常に相手よりも1つ多く石を置くことになるため、先手後手間の不公平が大きく軽減されます。

コネクト6は純粋な配置ゲームですが、移動を主とするゲームを含め、理論的には大部分のアブストラクトゲームに適用することができます。マルセイユチェスは手番で2回行動できるチェスヴァリアントで、同様のバランスルールが適用できます。ただし1手番で大きく盤面の状況が変わってしまうため、一般的に言えば戦略の複雑なゲームには不向きなルールでしょう。

2段階フェイズ

最初に準備段階として駒の(自由な)配置フェイズがあり、次に移動フェイズに移行するようなゲームでは、移動フェイズで後手となるプレイヤーに配置フェイズでアドバンテージを与えてバランスを取ることができる場合があります。マトックでは最後に配置を行ったプレイヤーが移動フェイズの先手プレイヤーとなるため、必然的にフェイズの前後で先手と後手が切り替わるようになっています。

私のデビュー作サイジュでは、準備フェイズとして中立の駒を3つ配置しますが、後手のプレイヤーがそのうちの2つを担当することによって先手に過度に有利な配置にならないようにバランスを取っています。

ただしルールよっては、ゲーム全体に対する配置フェイズの影響力が限定的であり、配置フェイズでのアドバンテージがあまり意味をなさないこともあるでしょう。サントリーニインシュなどは配置フェイズがある有名タイトルですが、特にこうしたバランスルールは設けていないようです。

交互にプレイする

一種の最後の手段ですが、先手後手間の不公平さを認めた上で、手番順を変えながら複数回プレイすることを推奨する場合があります。それでも先手を多くプレイした方が有利になるので根本的な解決にはならないのですが、スコアのあるようなゲームでは平等にプレイして複数回分のスコアを合算することで引き分けの可能性を減らすという手段も取れます。

バランスルールと言えるかも微妙ですが、運要素を廃したアブストラクトゲームでは手番順の不公平を完全に無くすことは難しいため、交代制はある意味最も現実的な調整方法と言えるかもしれません。チェス、将棋、囲碁のタイトル戦でも通常先手後手を切り替えながら複数回の勝負が行われます。

新しいゲームのルールを思いついたけれど先手後手のバランスがどうしても取れない、というようなデザイン上の最後の手段としては、先手と後手で別の勝利条件をもつ非対称ゲームにしてしまう、というものもあります。過去に珍ぬさんが紹介したアンラーのオークションルールは、非対称ゲームで使用できる興味深いバランスルールです。


上記したもののほかにも、先手の勝利条件を厳しくするとか、引き分けの場合は後手の勝ちにする、セットアップを非対称にする(先手の駒を1つ減らすなど)・・・といろいろな手段や組み合わせが考えられますが、もちろんどれが正解かは個々のゲーム次第です。バランスルールはなくて済むのであればないにこしたことはないものですが、新たなバランスルールを考えることが新しいゲームのルール創出に結びつくこともあるかもしれません。

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以下のべよさんの翻訳記事では、より広くボードゲーム全般におけるゲームバランスについて論じられています。


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