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新しい領土ゲーム「メリディアン」(Meridians)【AG23日本語訳】

この記事はアブストラクトゲーム専門誌 "ABSTRACT GAMES" 23号(2022年3月発行)に掲載された以下の私の執筆記事 'Meridians - the game of paths and path-groups' を自分で日本語に訳したもの(正確には日本語に戻したもの)です。

この記事は同誌の発行者の一人であり編集者であるKerry Handscomb氏の依頼によって書かれたもので、私自身のゲーム「メリディアン」のルール紹介と、実際に行われたゲームに対する注釈を行うことで、その進行や初歩的な戦略を解説しています。メリディアンはいまのところ物理的な形式での出版されてはいないのですが、2021年にBoardGameGeekのフォーラムで発表したところ反響があり、ゲームエンジンLudiiやゲームサイトmindsportsに実装されました。これに興味をもったケリーが注釈ゲーム(annotated game)の執筆を私に依頼した、という経緯です(記事タイトルは編集者によります)。

掲載にあたり翻訳と画像使用の許可を得ています。


「メリディアン - パスとパスグループのゲーム」

ルール

メリディアンでは、下図のような三角形を敷きつめたボードを使用し、囲碁のようにグリッドの交点を石を置くために使用します。ボードの6辺のうち、向かい合う一組は他の4辺より1交点分短く、このためボードに唯一の中心となる交点は存在しません。

ボードの標準の大きさ1辺6/7交点で、このほかに初心者用として5/6交点サイズ、エキスパート用として7/8交点が公式サイズとして提示されています。理論的にはより小さいサイズやより大きいサイズでもプレイが可能です。

標準サイズのメリディアンボード

最初はボードには何も置かれておらず、2人のプレイヤーは交互に自分の石を一つずつ、空の交点に置くことによって手番を行います。各自の第一手では好きな場所に石を置くことができますが、2手目以降は、いわゆる「視線」(line-of-sight)のメカニズムに従って新たな石を配置します。

2つの石が同一直線上にあり、その間に他の石がないとき、この2つの石はお互いに「見えて」いると考えます(2つが隣接する場合も含みます)。これが「視線」のメカニズムです。2手目以降は、自分の石のいずれかから「見えて」いる位置に自分の石を配置します。ただし、石が盤上に残り続けるためには、その石を「生きて」いる状態に保たなければいけません。

ここで、「石の接続グループ」ないし単に「グループ」を、囲碁やその他の多くのテリトリーゲームやコネクションゲームと同じ意味を持つものとして定義しておきましょう。慣例的に、単独の石もグループの一つと見なされます。

ある石が、他のグループに属する味方の石から見えているとき、その視線をパス(path)と呼びます。石が生きているためには、その石が少なくとも一つのパスを持っている必要があります。ただし、パスはグループで共有されます。つまり、同じグループに属する石のどれかひとつがパスを持ってさえいれば、そのグループ全体を生きている状態に保つことができます。

リングは黒のプレイヤーが新たに石を置くことができる位置を示す。ただし中央の赤い点の位置に置くと、黒は唯一のパスを失って負けになる。

パスをひとつも持たない石、およびグループはデッドグループと呼ばれ、プレイヤーの手番が終わったあとにそのプレイヤーのデッドグループがすべてボードから除去されます。このため、相手の手番でパスが塞がれることによって自分のデッドグループができても、つづく自分の手番で新たなパスを与えることでそのグループを救うことができます。あるいはデッドグループを見捨てて、他に活路を見出すための場所に石を置くことも可能です。

リングは白のグループ間のパス、赤い点のあるグループはデッドグループであることを示す。黒のすべてのグループにはそれぞれに少なくとも一つのパスがある。

メリディアンの目的は相手の石をすべてボードから除去することです。ただし大半のプレイでは、実際にどちらかの石がすべてなくなるより前に、両者がまだ石を置くことができる交点を数えることによって勝敗が明らかになります。囲碁とはちがい、メリディアンには着手放棄の意味でのパスはありませんが、自分の負けが明らかになった場合にはいつでも降参することができます。

メリディアンはこれまでのところ製品化されていませんが、現実のコンポーネントで遊ぶことを考えると、デッドグループが見落とされがちになる可能性があります。このため、デッドグループができるごとに、そのグループに目印となるような第三色のトークンを置くようにするというオプションルールが提案されています。

注釈ゲーム

以下は2021年7月24日から8月5日にかけて、Mindsports上でターンベースで行われた、加藤香流(私) とケリー・ハンズカムによるメリディアンのゲームに対する注釈です。これは私とケリーの3回目のゲームであり、ケリーはその前の2回のゲームで要点をつかみ、このゲームで初めて作者である私を打ち負かしました。ケリーは白(先手)、私は黒(後手)です。

メリディアンは若いゲームであり、まだごく一部の人にしか知られていませんが、単純なルールが深さを呼び込むことに成功したゲームの一つであると確信しています。この注釈を通じて基本的な戦術と、戦略へのヒントをつかんでもらえればと思います。

互いの第一手では、中央のスペースを囲むような形に互いの石を配置しました。このゲームの序盤では、将来的に自分の石を置くことができる、視線の通るスペースを確保することが重要です。従って第一手をボード端に置くことはまずないと考えられます。

一方、中央スペース付近に第一手の石を置くことは悪い手ではなさそうですが、将来的に敵の石に囲まれてしまう懸念もあります。従って、今回のようにボード端から2~3ステップ離れた位置に石を置くことは最も無難な手だと言えそうです。

以下では、将来自分の石を置いてパスを作ることができる、自分の石の視線が通っているボード上の直線を「潜在的なパス」(potential-path)と呼ぶことにしましょう。

続いてケリーは中央のスペースと等距離のに2個目の石を置きます。これは、私の石がCで容易にカットインできる位置であることを考えるとやや挑発的な手です。しかし私はCには置きませんでした。この段階でカットインしても、ケリーは次にに石を置くことで簡単に自分の2つの石を救うことができます(特にBは潜在的なパスを多く確保できる良い手のようです)。一方、Cに置いた場合の私の石は3方向にしか視線が開けません。そのため、私はカットインするよりも、中央付近の地固めをする目的でに石を置きました。

引き続きケリーは中央からも端からも等間隔になるの位置に石を置きました。これによって、ケリーの勢力は薄くかつ広く中央スペースを囲んでいく形を見せています。しかし、ケリーの両側の石はそれぞれひとつのパスしかなく、やや脆弱に見えます…ここで、私はに石を置き、間のパスにカットインしました。この位置は相手のパスにカットインできるだけでなく、図のようにトライアングルを作ることができます。

トライアングルは、メリディアンのゲーム序盤においてもっとも基本的な陣形です。個々の石が他の2つの石とパスで通じ合っているため捕獲されにくく、初期のゲームの布陣の要になります。とはいっても、序盤でトライアングルばかりを作ろうとするのは得策ではないでしょう。トライアングルは既存の2つの石と同一線上に石を置くことで作られるため、潜在的なパスを増やしにくいという側面があります。

ここで私がに石を置いたのは、トライアングルの作成とカットインの両方を同時に行うことができるので、潜在的なパスが増えないことを差し引いても良い手になると考えたためです。

トライアングル、カットイン、そしてそのどちらでもない空き地への配置、メリディアンのゲーム序盤はこの3つの要素を組み合わせつつ、有利なポジションを作ることを目指します。「有利なポジション」というのがどういうものであるかは、以降の記述である程度明らかになると思います。

ケリーはやはり中央スペースを避けてに置きました。これはトライアングルでこそないものの、にもにもパスを与える安定した手です。そして今や私の小さなトライアングルはぐるりと囲まれかけています。ここで打った私のは、言い訳をさせてもらうとあまり打ったことのない手を打ってみようという実験的な意図があったのですが、とはいえこのゲームを通じてもっとも悪い手でした。ここはコーナーの近くにあるせいで、北側の3方向に潜在的なパスがありません。加えて小さなトライアングルからも遠すぎてすぐにパスをカットされてしまいそうです。もしに置いていれば、相手のの潜在的なパスに割り込むこともできるためずっといい手だったのですが。ゲームのこれ以降は、もっぱらこのの悪手による失点を私が取り返せるかどうかのゲームになったようです。

ケリーはに置くことよって、私ののもつ唯一のパスを遮断するとともに、既存の3つの石にパスを与える安定した形を完成させました。盤面に白の3つのトライアングル(一部私の石が割り込んではいますが)があることに注意してください。この形はさらに、黒の石のない外側にも別のトライアングルの頂点を置くことができる非常に強い形だと言えます。

私のほうはできれば相手ののラインに割り込みたいところですが、を生かそうとするのであれば先ににパスを与えなければなりません。10の位置は、白の視線が通っていないためすぐに割り込まれることがなく、かつにパスを与えることができるので、ベターな位置だと考えました。しかしの場所の悪さを考えると、を見捨てたほうまだましだったのかもしれません。

次にケリーの打った11は、私のを追い詰めようとする意図が明らかですが、加えてとの間に新たなトライアングルを作ることができる非常に良い手でもあります。次に私が12に置いてわざわざ間のパスを埋めたのは、を取られて相手が「眼」を作ることを危惧したためです。

メリディアンにおいて「眼」とは下図のような、相手が侵入できないように一つまたは複数の自分の石を、自分の石の別のグループで囲った状態のことを言います。このフォーメーションは一度できたら盤石であり、他に石を置く場所がなくなって自ら眼を埋めざるを得なくなるまで盤上に残り続けます。さらに眼につながっているグループは消えることがないため、相手のパスに侵入するための強力な武器にもなります。従って、このような眼をつくることはゲーム中盤におけるサブゴールであると言えます。

「眼」を先に作ったプレイヤーが必ず勝つわけではありません。相手の眼を囲うようにして相手の他のグループとの繋がりを遮断すれば眼の影響力を最小限に抑えることができますし、相手より大きい眼を作ることで勝つチャンスもあります。しかし、序盤で相手に眼を作られることは極力避けなければいけません。

ゲームに戻ると、もし私が12に置かず、その後でケリーが12に置いた場合、を生かすには南西に石を置いてパスを作るしかありません。しかし南西のパスはで容易に遮断されてしまうので、結局のところは捕獲されることになるでしょう。つまるところ、これはケリーにとって眼をつくるための絶好の形になります。

とはいえ、たとえを放っておいてもにグループを繋げていれば眼の作成は防げたであろうことを考えると、この12の手も「眼」が作られることへの焦りが出た結果であったと言えるかもしれません。

案の定、ケリーは私の南北に通じるパスを遮断しにかかりました。の位置にカットインできなければ南北のパスを保つことは難しくなりますが、まず北のグループを救わなくてはならないため、には手出しができません。

ここで、このゲームにおいてグループ間のパスを保つ意味について確認しておきましょう。メリディアンでは、グループが生存するためには他のグループからの視線、すなわちパスが必要です。しかしグループが相手のカットインによってパスを奪われ、かつ他の場所に新たにパスを作れないような位置に追い詰められた場合、他の生きているグループへ繋げることによってしばしば延命することができます。そのため、各グループはパスを保ちつつ、いざというときにはグループ同士を繋げ、より大きなグループにできるようにしておくことが重要です。理想的には、そのとき同時に相手のパスをカットすることができれば有利を取れるでしょう。

以下、パスでたどることができる複数のグループをパスグループ(path-group)と呼ぶことにしましょう。私の経験している範囲では、二人のプレイヤーが互いに「眼」を作らせないままゲームが進行した場合、自分のグループを一つのパスグループに保ちつつ、相手のパスグループを大きく分断することに成功したプレイヤーが必ず勝利しています。なぜなら分断された方のプレイヤーは、「眼」を作らない限りは、相手のパスがなくなる前に、自分の小さくなったパスグループからすべてのパスを奪われて陣地を失い、結果として相手に「眼」を作ることを可能にさせるからです。そのため原則として、自分のグループをできるだけ一つのパスグループに保っておこうとすることは良い考えです。

注釈中のこのゲームでは、私の南北それぞれのパスグループはどちらも窮屈な位置に押し込められていて不利な状況ですから、にカットインするか、あるいはまだ空いている北西の方向に北のグループを伸ばしていってなんとか南のグループに繋げたいところでした。そのような考えをもとに14に打ちましたが、しかしすでに、およびから南西のラインの石によって相手の潜在的なパスが張り巡らされているため、北のグループを救うのは一見すると絶望的に見えます。

このシークエンスでケリーはミスを犯したようです。15は私の北のグループABCを捕獲するための手ですが、この位置はへのパス1つしか通じておらず脆弱です…おそらく、ケリーはなるべく多くのグループを持つほうが潜在的なパスを作るために有利かもしれないと考えたのでしょう。しかし、ここはに打っておけば、その次にABCが南東にパスを作ってもで確実にそのパスを遮断できますから、このグループを安全に捕獲できたのです。

現に、私は16に石を置いて15の唯一のパスを遮断することで、ABCのグループを延命させることができました。ケリーは15を救うためには南方向に新たに石を置いてパスを作るか、に石を置いてと統合するしかありません。もし救わないことにすると、次の私のターンで15は捕獲されて空になるので、ABCを南西方向に伸ばすことで延命できそうです。

ケリーは17に石を置いて15を延命させることを選びました。私は直ちに18に置いて1517のパスを遮断するとともに、15の囲い込みを図ります。

ここでケリーはパスを失ったの両方を捨てて、19に石を置くことを選びました!これは大胆に見えますが的確な手です。もしのどちらかを救うために19以外の場所に石を置いていたら、おそらく私はまずを取り、のちにを取って最終的に眼の形を完成させることができていたでしょう。序盤に2つの石を失うことは痛手ですが、それよりも相手に眼を作られる方がおそらく不利になります。

このケリーの選択により、私も北のグループを救うため、を捨てて20にグループを伸ばす選択をせざる得なくなりました。前に書いたように、GHIのグループを捕獲されると逆に相手に眼の形を作られてしまうことになるため、このグループを捕獲させないことは私にとって優先事項です。

北の地点でケリーの石を囲い込むことはできなくなりましたが、結果として私は北のグループを南西に伸ばすことができ、北西のエリアに勢力を伸ばすことができました。序盤の自分のミスを相手のミスによって少し取り返すことができた形です。

ケリーは西へ勢力を伸ばそうとしますが、北のパスグループを温存できたおかげで北西には私の石の視線が集まっているため、うまくそうすることができません。逆に私は左回りに石を置いていくことで、北と南に分断されていたグループを再び一つのパスグループにまとめ、相手のパスグループを遮断することができました。

2224の位置に注意してください。将来的に22と、2422と繋げることができます。このように2点で他の石とつなぐことができるような置き方は、Hexなどのコネクションゲームではおなじみのものだと思います (メリディアンには確かにコネクションゲームとしての側面があります) 。面白いのは、このゲームでは2点で繋げられる位置に石を置くためには、繋げられる石とは別の石からの視線が必要だということです。

この時点での盤面は、私のひとつのパスグループが相手の北にあるパスグループを大きく囲い込む形になりかけており、私にとって悪くない形です。とはいえ、まだ私のほうが有利とまではいきません。FGHの三角形は相手が簡単に割り込める位置にあるので、ケリーの北のパスグループへの囲い込みを完成させるのは難しそうですし、また北西には私の石の視線が集まっていて有利ですが、南西から東にかけてはケリーの勢力のほうが強い状態だからです。

ケリーはやはり私のトライアングルにカットインしてきました。これでこの3つの石をすべて繋げることは絶望的になったようです。ここでの私の順当な手は、Aで相手のパスグループを2つに分断したままにすることだったかもしれませんが、この時点でパスを減らしてしまうことに不安がありましたを繋げてを遮断されたのち、北西に攻め入られてしまった場合、勝つことは難しくなります。そこで、私はあえて28に石を置いてみました。この位置はケリーの4つのグループのど真ん中であり、簡単に捕獲されてしまう位置なので、無謀な一手に見えるかもしれません…しかし私は自暴自棄に石を置いたわけではありません!

ここで、が私の石を結ぶことができる交点にも敵の石を結ぶことができる交点にもなっていることに注意してください。ケリーが28を捕獲しようとするならこのに自分の石を置く必要がありますが、すると必然的にケリーの2つのグループは1つにつながることになります。もしそうなった場合、私はに石を置くことで28を延命させることができますが、ケリーはこれを捕獲するためにはに石を置く必要あるでしょう…すると、パスで互いにつながっていたケリーの5つのグループはたちまち1つのグループにまとめられることになります。仮にそうなった場合、ケリーのこのグループにはあとは27の2つしかパスがありません!

互いに多くのパスでつながっているグループを捕獲するのは厄介ですが、一つの大きなグループであれば、盤面によっては一網打尽にできるチャンスがあります。つまり28は、私に不利な盤面から逆転するための布石だったのです。メリディアンのゲームの目的はより多くの石を捕獲することではありません。このように自分の石を犠牲にして相手のパスを減らさせることは時として有効な戦略につながります。

中盤~終盤

ここまででミドルゲームの半ばまでコメントしましたが、メリディアンの初歩的な戦略や盤面の見方を説明するという目的はおおむね果たせたのではないかと思います。以降このゲームがどう展開したか、終盤までの流れをざっと解説してこの注釈を終えることにしましょう。

私の目論見通り、ケリーは5つあったグループを繋げて大きなグループにまとめてくれました。この時点で、ケリーの大きなグループにはパスがひとつしかない状態です。しかし私は、もし37を取ると北西に攻めこまれるのではないかという不安から、37のスペースをみすみす取られてしまい、パスグループを3つに分断されてしまいました。最終的に負けることになることを考えると、やはりではなく37を先に取っておいたほうがまだ勝ち目はあったのかもしれません…

ケリーは大きいグループを北西に伸ばして私を脅し、私はそれに応じて北西の石をぐるりと繋げました。これによって私の最も大きなグループもパスが一つしかない状態になりましたが、うまくいけば北西に眼がつくれるかもしれないという状況です。しかし北東の私の小さなパスグループは孤立しかかっています…ここを捕獲されてケリーの大きなグループにつながる「眼」が作られた場合、盤面の状況からいって私に勝ち目はなくなるでしょう。

私の残りの勝機は、ケリーの最大グループの少ないパスをふさぎ続けることによって、「詰めろ」をかけ続け、北東を攻められないようにすることです。

ケリーは自分の最大グループとABCDのグループを繋げたあと、59に石を置くことで最大グループのパスを一度に2つ増やしました。一方、私は相手の最大グループを攻めながら北東の小さなグループを伸ばすことでなんとか延命させています。この時点で、ケリーの最大グループには2つのパス()があり、私の北東のグループをケリーが囲むのにも少なくとも3手かかるため、ケリーはまだ北東のグループを完全に攻められない状態です…しかし、63を閉じられたことで私の最大グループは1つしかパスがありません!

ケリーは的確にターゲットを私の最大グループに変更しました…自分の最大グループを伸ばして、67でそのグループの唯一のパスをつぶします。私は最大グループを延命させるために北西に石を置くしかありません。北東にパスを作っても1手でつぶされる状況なので、70に置くことで作った2つのパスがこのグループにとって実質最後のパスです。しかしケリーは71に置くことで、伸ばした自分の最大グループにさらに2つのパスを与えることに成功しました。この後、どう進んでも私の最大グループが捕獲される前に相手の最大グループのパスを埋めることはできませんから、私に望みはありません。71手目で降参し、ケリーの勝ちが決まりました。

以上が、これまで私が経験したなかで最も興味深かった対人戦でのメリディアンの注釈です。冒頭に述べたように、メリディアンはまだ若いゲームであり、まだ定石といえるものはありません。そして私もケリーもプロフェッショナルではないので、戦略の研究が進めばこのプレイの中にもっと多くのミスが見つかるかと思いますが、以上で戦術や戦略のための基本的な考え方は提示できたのではないでしょうか。

メリディアンは、Michael Amundsen氏によりLudiiに、Christian Freeling氏とEd van Zon氏によりMindsports.nlにそれぞれ実装されておりターンベースによるプレイが可能です(後者には弱いAIもあります)。興味を持たれた方はぜひプレイを試してみてください。◾️

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編集後記

メリディアンは、今号と21号で紹介したタンブルウィード(Tumbleweed)や、スティグマジー(Stigmergy)とそのスクウェア版プレトーレ(Pletore)など、2021年に現れたいくつかの視線ゲーム(line-of-sight games)の1つです。タンブルウィードは、今号と21号の記事内のダイスセットが示すように、たしかに物理的なセットでプレイできます。一方でスティグマジーは、コンピュータの補助なしには、コントロールされている位置を特定することは困難です。 メリディアンの視線メカニズムはミニマムで、囲碁でグループ内の「目」を確認するようにカウンティングを行う必要がありません。実際、メリディアンをプレイするのに必要なものは碁石のセットと、正しく設定されたボードだけです。メリディアンが優れている2つめの点はまさにこのボードの形状にあります。偶数のマス数をもつ四角形のボードには、ただ一つの中心となるマスはありません。一方でヘクス-ヘクスボード(正六角形のボード)にはただ一つの中心となるヘクスがあります。メリディアンは中心点を2つもつボードを使用することによって、この潜在的なアンバランスを克服しました。長辺が2つ合わさっている角と、長辺と短辺が合わさっている角との近さによって、微妙に異なる戦略が必要になるでしょう。


ABSTRACT GAMES Magazine について

"ABSTRACT GAMES" は、カナダのKerry HandscombとConnie Handscombによって発行されているアブストラクトゲームの総合誌です。2000年から2003年にかけて16号が印刷ベースで発行された後休刊し、2019年にWebベースで復刊しました。古今のアブストラクトゲームの紹介や戦略の研究、アブストラクトに関する包括的な議論やデザインコンペティションの実施など、このジャンルに関する幅広い話題を有志の寄稿によって提供しています(各号の最後にはこれまでに取り上げられたゲームの全リストと掲載号の索引があります)。

これまでの発行号はすべてPDF形式で無料配布されており、誰でも閲覧することができます。オンデマンドの印刷版を購入することも可能です。アーカイブページから寄付を行うこともできるので、貴重な活動と思われた方は是非検討してみてください。

同誌については過去に珍ぬさんが紹介記事を書いておられます。こちらもご参照ください。

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