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ショートショート:「百本目の薔薇を君に」



【前書き】

皆様、お疲れ様です。
カナモノです。

お題を頂きました、まんまです。
〝100本の薔薇〟というお題でした。

少しの間でも、誰かに寄り添えることを願います。


【百本目の薔薇を君に】

作:カナモノユウキ


《登場人物》
・古宮菫(こみやすみれ)30代:女性教師。
・瀬戸新谷(せとしんや)20代:花屋の副店長。

99本目の薔薇を、いよいよ今日…貴女に捧げる。
思えば貴女に初めて薔薇を送ったその日から、コレは全て始まった。

時間は六年前、高校二年生の夏から始まった。

「古宮先生、貴方が好きです。」
「あら瀬戸くん、薔薇一本で…私を落とせるとでも?」
「あ、いやそんな…。」
「良いわよ、薔薇一本分愛してあげる。」

高校生と教師、最初は禁断の関係に憧れて始まった、お互いにとっての危うい遊びのような恋愛だった。
情事が終わり、先生は僕に言った。

「これから会うときは、必ず薔薇を増やしてきて。」
「何で…ですか?」
「今回は、薔薇一本分の恋愛に決まっているからよ。…また一本持ってきても、私は応えないからね。」
「…じゃあ次は二本ですね、分かりました。」

次の放課後、花屋へ走り薔薇を買って…先生に渡した。

「そんな血相変えて、そんなに私のことが…好きなの?」
「もちろん…授業中も、家に帰っても…先生のことしか頭になくて。」
「若いって…良いわね。」

そして二度目の情事を重ねて、そこからはエスカレートする一方だった。
二本…三本…四本、十本を越えたあたりからもっと先を見越して、アルバイトを始めた。

「最近、来ないなって思ったら…駅前の花屋でアルバイトはじめたのね。」
「ちゃんと、学校に申請は出しています。」
「そう言う事じゃなくて…可愛いことするなって、褒めているのよ。」
「だって、そこで働いた方が…先生へのバラの花束を買いやすくなるなって。」
「そんなことだと思った…、今日で27本。半年で考えれば少ないかもだけど。確かに高いかもね。」
「値段なんてどうでもいいんです…僕は、先生に愛を伝えられればそれでいい。」
「動機は不純なのに、気持は一途って…矛盾してない?」
「なら…今日はこの花束だけで。」
「え?」
「失礼します…。」
「フフフ、本当…可愛い子。」

それから高校卒業まで用意した本数は48本…、48回…禁断の恋に溺れた。
時には体を重ね、時には言葉を交わし、お互いの若さを味わうような恋愛を花束の数だけ行った。

そして僕は、そのままアルバイトから花屋に就職。
卒業してからも、僕は先生に…いや、彼女に薔薇の花束を用意し続けた。
花束が50本を超えた頃だった、僕たちに転機が訪れた。

「瀬戸くん、今日でちょうど60本ね。」
「60回目の、デートってとこですかね。」
「そうね…キリもいいし、コレで終わりにしましょ。」
「え?」
「私ね、地方の学校に転勤することになったの。だから…この街ではもう会えない。」
「そ…それなら、僕がその街に!」
「瀬戸くん、もう終わりよ…学校を卒業した貴方はもう生徒でも何でもない。ただの他人。花束で許していたけど…もう終わりよ、薔薇にも…薔薇にも、もう飽きて来たしね。さよなら、瀬戸くん。」

そう言って、彼女とは会えなくなってしまった。でも…こんな別れ方で気持ちは収まらなかった。
学校の関係者に無理を言って転校先と住所を聞いて、一度会いに行ったことがあった。
だが無視された…そうだ、その時の僕は花束を持ってはいなかったからだ。
そう考え、僕は彼女に花束を贈り続けた。
彼女に会いに行った時、新鮮な薔薇が届いているように。
送っては会いに行き、送っては会いに行きを繰り返した。花束が80本を超えた時、彼女から声を掛けられた。

「やってること、立派なストーカーじゃない…そんなに執着心があるなんてね。」
「執着…そうですね、そうかもしれません。でもそうさせたのは貴女だ。」
「…なんで?」
「あんな別れの告げ方、納得なんて出来るはずないじゃないですか。」
「そうかもね。でも、アレが全てよ。…貴方とは終わりたかったの。…終わらせたいと、思ってしまったの。私は、あんな関係を許してしまった自分を…許せなくなったのよ。」
「どういうことですか?」
「あんな不健全な恋愛、やっぱり刺激が強い物よね…私と貴女は年齢差だってある…乗り越えられない物がこれから沢山あるって考えたとき、私は…無理だなって思ってしまった。だから…。」
「古宮さん…いや菫(すみれ)さんは、僕と一緒は嫌ですか?」
「…嫌なら、悩むわけないじゃない。」
「なら…それなら、残り19本。僕はバラの花束を贈ります、その間に…答えを出してくれませんか?」
「え?何で、99本で?」
「だって…もしも結ばれるなら、100本目の薔薇の束を残しておきたいじゃないですか。」
「…分かった。」

三年目の終わりに僕は彼女と約束をした。
そして、六年目の春。僕は彼女と待ち合わせをした。
場所は、僕たちが出会った街の駅前…菫さんと初めて会話を交わしたバス停だった。

「貴女、新海(しんかい)高校の生徒?」
「え?…そう…ですけど。」
「これ、落としたわよ。生徒手帳。」
「あ…あ、ありがとうございます。」
「気を付けてね、貴方みたいな可愛い生徒…怒りたくないから。」
「生徒って…お姉さん、先生ですか?」
「お姉さんなんて嬉しい、そう…今日から赴任する古宮です。」
「…あ、僕は二年四組の瀬戸です。」
「瀬戸くんね…、あら良い香り。…薔薇の香水?」
「あ、いや…多分ハンドクリームです。…妹に、おススメされて。」
「あら、いいわね。私、薔薇が好きなのよ。今度ハンドクリーム、少し分けてね。」
「え、ええ。もちろん!」

最初のバス停での会話…思えばあの時にはもう恋に落ちていた。
そして、気持ちを抑えられず薔薇の花を一輪買ってプレゼントした日から…。

まさか99本プレゼントするなんて、あの時の僕は夢にも思ってなかったんだろうな…。

「お待たせ、瀬戸くん。…何か、黄昏ていた?」
「いえ、ただ…この恋はここで始まったなと思い返していただけですよ。」
「あぁ…そうだったわね。ここで最初に会ったんだものね。」
「菫さん、コレ。」
「…99本の薔薇の花束。」
「菫さん、答えを教えて下さい。僕とこの先、一緒に居てくれませんか?」
「………。」

先生は黙って歩き始めた。

「菫さん?」
「ちょっと、歩きながら話しましょ?…ちゃんと伝えるから。」
「…はい。」

僕たちは、バス停から歩き始めた。

「瀬戸くんは真面目だったよね。」
「そう・・・ですかね?」
「成績も悪くなかった、友達も結構いたみたいだし…。」
「そう、見られていたんですね。」
「だから、火遊びみたいなことはしないと思ってた。」
「それは…菫さんへの気持ちを抑えられなくて…。」
「ある意味健全な理由ね。」
「何が言いたいんですか?」
「そう言うとこが、気になったんだなって。思い返していたの。」
「僕のこと、遊びじゃなかったってことですか?」
「遊びで受け入れるほど、私だって甘くないわよ?ちゃんとね、考えての行動だったんだけどね。まさか薔薇を熱心に買い続けて…花屋で働くことまでするなんて。」
「合理的じゃないですか、その方が。」
「そうね、確かに合理的だし…嬉しかったのはよく覚えている。」
「働き始めたことが?」
「そこまでして、プレゼントし続けてくれたことよ。…ありがとう、瀬戸くん。」
「いや、僕は菫さんと…。」
「80本目から、菫さんって下で呼び始めたよね。」
「あ、嫌でしたか?」
「全然、寧ろやっと呼んだなって。」
「あ、良かった…。」
「私も呼んで良い?新谷(しんや)くんって…。」
「え?それって?あっ…。」

気付くと、見慣れた高校の校門前に立っていた。

「新谷くん、薔薇の花束をください。」
「…はい。…菫さん、僕と付き合ってください。」

心臓が飛び出そうだった。
ただ彼女の顔を真っ直ぐ見詰めて、彼女の答えを待った。

「…喜んで受け取ります、これからも…宜しくお願いします。」
その瞬間、菫さんがあの頃の先生に見えた。
薔薇は彼女の腕に抱かれ、嬉しそうに咲き誇っていた…。


そして、百本目…。

「プロポーズにまで、花束を預けておくなんて…キザじゃない?」
「いいじゃないですか…百本目の薔薇を君に渡すときは…結婚の約束って決めていたんだから。」
「フフ。本当の意味で、これからも…宜しくお願いします。新谷さん。」
「こちらこそ、宜しくお願いします。菫さん。」


七年目の春、僕たちは…結婚した。


【あとがき】

最後まで読んでくださった方々、
誠にありがとうございます。

…大丈夫?夢見すぎ?そんなつもりないんだけど、誇張しすぎたかな…。

では次の作品も楽しんで頂けることを、祈ります。
お疲れ様でした。

カナモノユウキ


【おまけ】

横書きが正直苦手な方、僕もです。
宜しければ縦書きのデータご用意したので、そちらもどうぞ。


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