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ショートショート:「陳腐な恋の歌を聞きたい。」

【前書き】

皆様、お疲れ様です。
カナモノさんです。

最近、仲のいい方から「お前さんはお洒落だ」と言われて。
そんなことは無い!と、なんか下品な作品を!って思って書こうとしたら。
不倫が僕の中で下品だという結論に辿り着きました

少しの間でも、お楽しみ頂けていることを願います。


【陳腐な恋の歌を聞きたい。】

作:カナモノユウキ


《登場人物》

・マリア(30)会社の事務
良則の部下で入社二年目から良則と浮気を重ねる。好きな人には一途。

・良則(39)妻子持ちの課長
仕事はやりてだが女遊びが酷い。マリア以外にも4人の女に手を出している。


今夜も彼の車で、如何わしいネオンの光るホテルへ行く。
部屋はいつも決まって301号室。
回転ベットの上には鏡があり、そこに移る現実が彼のお好みだ。
入室して荷物を置き、ベッドの枕元に向かって興味もない有線でラブソング特集をかける。
彼から自動精算機にポイントカードを入れてと言われ従順に従う私。


「ねぇ、ここのポイントカード。もう溜まったんじゃない?」
「え?…あ、本当だ。景品交換にしようか、割引か…悩むなぁ。」
「帰りまでに決めればいいじゃん。」
「いや、そんなに時間無いし。景品交換なら早く言わないとだろ。」
「あ~、そっか。」



他愛ない会話、そこの節々が気に掛かるが…まぁいつものことだ。
もう慣れた…見て見ぬフリをする事とかに。


「先シャワー入ってきなよ。」
「…うん、そうする。」



一緒に入りたいと言うのは、いつも言えずじまいだ。
お互いの時間の大事さは、痛いほど知っているからね…これも仕方ない。
熱めのシャワーで浮ついた気持ちを流し、心の準備が出来たところでバトンタッチする。


「次、良いよ。」
「シャワーの温度下げた?」
「下げてるよ、熱いの苦手だもんね。」
「サンキュー。」



軽いお礼にちょっと嬉しくなることに、ちょっと最近は情けなさもある。
所詮、そんな時間の密度しか過ごしていないってことかって、再認識しちゃうな。


「おまたせ。」
「先に何か呑む?」
「呑むと…んっ…寝ちゃいそうだからさ。んっ。」
「ちょっ…もう、脱がすの早くない?」
「綺麗だよ、マリア。」
「…ベッド、行こう。」



細身の腕に抱き寄せられながら、今夜もステージにエスコートされる。
お互いのバスローブは乱雑に転がり、徐々にお互いの肌の熱が高揚を始める。
匂いや音、声や彼の眼が、まるで麻薬の様に私の余計な考えを忘れさせてくれる。
…今の私は、これが無いと生きていけないんだろうな。
例え、それが手を付けてはいけない…禁断の果実だとしても。
何度目かの情事のあと、ステージの回転ボタンを押して、地味な白地に濃い青のラインが入った箱に手を伸ばす。
タバコの臭いが広がったあと深めに吐かれた煙で、二人の空気が眀転する。


「あれ、眼鏡どこだっけ。」
「眼鏡ない方がかっこいいよ?」
「そういうことじゃないでしょ、色々見えにくいし。」
「…色々見えにくいほうが、都合良いじゃん。」
「何言いたいか分かんないけど、俺は見えてた方が安心するタイプかな。」
「ふーん…はい、コレ。」
「あ、持ってんじゃん。スッと渡してよ。」
「今見つけたの。…裸でウロチョロする貴方、何か可愛かったからもう少し焦らしても良かったかな。」
「何だよ、急にイジワルかい?」


「それは…。」〝あなたの方が意地悪でしょ〟と言いかけた。

言葉を飲み込むのもしゃくだから、枕元のビールを含んで無理やり口づけしてやった。
そして興奮した彼は、二度目のステージを始める。
でも二度目の麻薬タイムは、少し効き目が弱かった。だからかな…。
いつも気に掛けないようにしていた感情が、頭の横をくすぐる様に話しかけてくる。
〝そろそろさ、痕跡を残して…私のだって…証明してやりたいよ。〟
〝そうね〟と言いたいけど…そんなことしたら、きっと終わってしまうよ?
この最低で最高の時間が、たった一つの痕跡だけで。
…でも、もう私の限界は近い。


「なぁ、何か…考えてる?」
「んん?…ハア…ハア…何が?」
「いや…はぁ、今何か考えてたでしょ…。」
「…良則、かっこいいなって。」
「嘘っぽいぞ。…何かあった?」
「…いや、私もさ。そろそろ…貴方と。」
「…あぁ、なるほど。…大丈夫、考えてる。」
「本当?」
「…本当だよ、マリア。俺はお前が好きだ。だからちゃんと考えてるから。」



うすっぺらい言葉と、薄い味のキスで誤魔化される。
そして、回るステージの上に映る私たちは、とてもチグハグで。
いい歳をした社会人というより、火遊びの好きな子供にしか見えなかった。
なんだかそれがとても嫌になり、私は衝動に身を任せることにした。


「え?…あ、おい、ちょっと…。」

首筋に唇を当て吸い上げる、相手の血か、自分の血かも分からない味が口に広がる。
今の自分は、きっとこんな味なんだろうな。

「もう、首筋は見えちゃうじゃん…。」
「…奥さんに見つかるのマズい?」
「多分。これは…言われるかなあ。」
「フフ、離婚したらさ!一緒に居れるじゃん。」
「…本気で言ってる?」
「じゃないと言わなくない?」
「まぁ。それもいいかもな。」
「…え?」
「考えてるんだよ、俺も色々とな。」
「本当に本当?」
「何回も聞くなよ、信用できないか?」
「…そう言う訳じゃ、ないよ。」
「じゃあ、この話終わりな。…悪い、ちょっと一服させて。」
「…うん。」



〝全部は信用できない〟て言えないのは、惚れた弱み何だろうか。
情事を続けるには、お互いの熱は冷めて続けることは難しい。
今日はここまで…そう思ったとき。
名前も思い出せない、陳腐な恋の歌が有線から流れて来た。
それは懐かしくもあり、恥ずかしくもなる、不倫の唄。
…その歌詞が頭に浮かび、今の自分たちが重なって…何だか笑ってしまった。


「どうした?何笑ってんだよ。」
「いやさ…、私達みたいだなって。この曲が。」
「ふ~ん。…あー…ちょっとよく分かんないや。」
「…そっか。」



ホテルの時間は休憩のみ、回転ベットはゆっくりと止まり、そろそろ終わりの時間だ。
忘れ物や指輪のチェックをして、今日も部屋を後にする。
彼の車に乗り、最後の会話。


「…結局、ポイントカード使わなかったね。」
「あぁ、また直ぐ行くから。今日じゃなくても大丈夫でしょ。」
「…そう、だね。」



助手席には、人の痕跡が残りやすい。
このずぼらな人ならなおさらだ、〝髪の毛〟〝香水の匂い〟〝髪留め〟〝口紅の着いた吸い殻〟とか。
片づけたつもりになっているその痕跡たちが、無数の女の数を漂わせる。


「車の中、少し掃除した方がイイよ。」
「あ~、…そうだよな。」
「…奥さんに、怒られるよ?」
「アイツは、大丈夫だよ。」



〝大丈夫だよ〟って言った横顔に、熱が上がるのを感じた。
私は、どうしようもない。こんな人が何で好きなのか、分からない。
でも、気持を誤魔化すにはまた麻薬が必要だ。さっき散々味わった、あの温もりが。


…会社で出会い、一緒に仕事をする内に好きになり。
妻子がいることは分かっていたが、彼の温もりと匂いが欲しくて、踏み込んでしまった。
幾度となく重ねた肌は、自分を誤魔化す欲情と、彼への愛情になった。


…彼には幾重にも女性の噂があって、それは社内の人気トピックだった。
私の名前もあれば、他の部署の後輩も、契約先の女性も。彼は陳腐な芸能人の様に話題が絶えなかった。
そんな彼でも、私の前では本当の熱を持ってくれていると思っていたけど。


…結果、彼は私の前からも、他の女の前からも消えた。
昇進したタイミングで、全てのダラシナイ関係からは…足を洗ったのだ。
所詮2番達は妻子がいることを知っていた、だから何もしないと…舐められていたんだろう。


…残ったのは、一人の温度だけ。
記憶をたどって、貴方の温度を求めて慰める気持ち悪い自分だけ。
私は、願わくばあのキスマークで彼の全てが壊れてしまえばいいって。
本当に願ってしまった…願ってしまうでしょう?誰だって、愛した男が手に入るなら…。
でも何もなかった。あのとき、きっと私の口の中に広がったのは汚い願いの味だったんだ。
あんな汚い願い、叶わないのが…世の中なんだ。それに、こんな深い深い人の闇の中じゃ…何も届かないんだわ。

こういうとき、あの陳腐な恋の歌を聞きたい。

あの曲がきっと、唐突に流れたあの曲が。
きっと貴方と私のエンディングだったんだ。
だから、もう一度聞こう。二人の為じゃない、今度は私自身の為に。
あの、陳腐な恋の歌を聞きたい。


【あとがき】

最後まで読んでくださった方々、
誠にありがとうございます。

そもそも、スタンドエフエムの企画でエロいシナリオを意識して書いてみた。そのお題が【ベッド】で、そこからの連想ゲームで回転ベッドとラブホテルが浮かんで。さらに前書きで書いたことがり、下品を追加したら…不倫の話って…ボキャブラリー浅いのかなぁ…また悩みが増えた。

まぁどうでもいいか。

女性の心理描写を言葉にするとき、書いているときは意識をなるべくどう思うかに集中させているから、中身が合ってるかどうかはとりあえず気にしないように進むのです。

そして書き終えてから…悩む。

悩みまくる…これでいいのかと。
女性は果たしてこう思う人も居るのかと…でもまぁ、三日間で大体忘れるんですけどね。

とにかく、女性の心理描写が少しでも誰かに刺さると言いな…とおもいまする。

では次の作品も楽しんで頂けることを、祈ります。
お疲れ様でした。

カナモノユウキ


【おまけ】

横書きが正直苦手な方、僕もです。
宜しければ縦書きのデータご用意したので、そちらもどうぞ。


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