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これからの博士に伝えたいこと

こんにちは.かなみんです.
今回は主に博士課程の人に向けて書いていますが,
既に就職して働いておられる方(博士号取得者も含む)や,博士課程進学を考えている方にも,参考にして頂ければ幸いです.

1.このnoteを書いたきっかけ

はじめに,このnoteを書いてみようと思ったきっかけを少し.
(次のセクションから読んで頂いても構いません)

今や人生100年時代とも言われるほどですが,変化が激しい時代で100年の人生を生き抜いていくのは,なかなか大変だと思います.
(私はまだ4分の1ほどしか生きていないので,何を知っているんだ,と言われるかもしれませんが…)

良い大学を出たからといって,良い仕事につけるとは限らないし,
大企業に入ったとしても,それで老後まで安泰とは限らない.
生活の苦しいポスドクの問題が報じられることもありますが,
博士課程に進学したからといって,みんなが大学や研究機関で研究が続けられるとは限りません
せっかく研究が楽しいと思って進学しても,将来への不安や,研究生活での悩みなどを抱えて,精神的に苦しくなってしまう人も多いのではないかと思います.

私自身も,博士課程に進学して,色々な悩みを抱えながら,なんとか博士号を取得しました.
博士課程に進学した人の全ての悩みや不安を知っているわけではありませんし,私の考えがすべて正しいとも思いませんし,私の考えでみなさんの悩みのすべてを解決できるわけでもありません.
それでも悩みを共有したり,こんな考え方もあるよ,と提案することはできるのではないかと思っています.
私が直接会って,お話できる人には限りがありますし,情報共有する機会というのは限られてしまいますので,
今回noteへの投稿をきっかけに,博士課程と社会のつながり博士号ホルダーならではの社会への貢献って何だろうとか,どんどん模索していきたいと思っています.

2.どんどん情報発信する

実は,私もどうやって情報を発信していけば良いのか分からなくて,
これまでずっと自分の周りの人に対してのみしか,情報を共有する機会がありませんでした.
Twitterも基本的に情報収集するためにやっていましたし,インプット過多だったのです.

もちろん研究(実験等)というのはアウトプットの一種ではありますが,
研究内容が論文や学会発表等で表に出ない限り,社会にはほとんどアウトプットされていません

でも,研究で最先端を切り拓いていく博士ならではの考え方,物の見方,分析能力,思考力は,

社会にも活かせるはずですし,むしろ活かすべきだと思います.

そのために情報の発信は不可欠です.

3.アウトプットが良質なインプットにつながる

これは,私自身が研究やプログラミングをしている中で,学んできたことですが,
アウトプットをすることで,自分の頭の中が整理されてきて,
「どこまで分かっているか」「何が分かっていないか」を整理することができます.

最初から何でも上手くやろうと欲張らずに,
アウトプットを続けていく中で,
少しずつ改善していくのが大事なのではないでしょうか?

とはいえ,私も出来ていなかったのですが,
アウトプットしたいという意思だけがあっても,
それが世に出なければ,ゼロなのです

たとえ,最初の完成度が60%くらいだとしても,
ゼロよりは何かを変えるきっかけになるでしょう.

「中途半端な情報を出すな」という声も聞こえてきそうですが,
そういった意見によって,新たな意見や少数派の意見などの芽が刈り取られてしまうのも事実です.

現代はインターネットが発達し,色々な人が情報を発信していくことができます.
最初はアイディアが良くても,なかなかうまく伝えることが出来なかったり,ダメな部分が色々と見つかるかもしれませんが,
本当に良いアイディアなら,オープンな議論の中で磨きをかけていくことで,自然と洗練されていくと思います.

「まずはやってみる」「たたき台を作って,徐々に洗練させていく」
第一歩を踏み出すこと,そして継続していくこと.

4.失敗を恐れない

失敗が怖いという人はよくいますが,失敗しない人なんていませんし,
みんな失敗から学んで,成功まで継続して努力するから,結果がついてきます.

ここでも,「アウトプットしなければ,ゼロと同じ」理論ですが,
失敗を恐れて行動しなかったら,行動したいという意思があったとしても,
現実は変わらないのでゼロと同じ
です.

楽天の故・野村克也監督が仰っていた言葉だと思いますが,
「勝ちに不思議の勝ちあり,負けに不思議の負けなし」
と同様で,
なぜかうまくいったというビギナーズラックみたいなものはあったとしても,
失敗するときは,失敗するべくして失敗しているのだと思って,
失敗から出来るだけ多くのことを学ぶ必要があります.
ここでどれだけ学べるかが,その後どれだけ飛躍できるかにつながると思います.

5.不安になったら行動する

このように偉そうなことを述べている私ですが,私も出来ることなら失敗したくないと思いますし,
不安に思うこともたくさんあります.

博士課程の学生だと,卒業するために論文を執筆しなければなりませんが,卒業を控えているのに,論文として発表できるだけのデータがないとか,
就職が決まらないとか,焦ったり不安に思うことがあるでしょう.
研究と並行して,授業料や日々の生活のために働いている人もいます.

大学院生にもなると,周りは会社などに就職して働いていたり,年齢的に結婚や出産などのライフイベントと重なってきたりして,
周囲と比較して,劣等感を抱く人も多いと聞きます.
(何も周囲と比較する必要なんてないのですが)

だけどこういった不安も,悩んでいるだけでは解決しません.
むしろ博士の学生こそ,どんどん自分から行動していって,解決に結びつけていかなければなりません.
研究では,誰も真の答えを知りません
それを最先端に立って,自ら切り拓いていかなければいけないのですから,
不安になるのも仕方ありませんが,みんな経験することです.

周りに相談することは悪いことではありません.だけど,何か行動は起こしましょう.
そして,行動した結果どうなったかを見て,また次の行動を考えましょう.

あと,自分ではどうしようもない不安は悩んでも仕方ありません
私も完璧ではないので,自分ではどうしようもないことに気を揉んで,落ち込んだり悩んだりすることもありますが…
自分ではどうしようもない不安を抱えても,不安を抱えたままにしているとどんどんそのネガティブな思考が増幅してしまいます.

人間はポジティブな感情よりも,ネガティブな感情の方に流されやすいそうです.
ネガティブな感情は3,4倍程度のポジティブなことがないと打ち消せないようです.

とにかく悩んだら行動あるのみです.

6.才能という言い訳

相談を受けた時によく聞くのが,
「自分には研究の才能があるのか」です.
まぁ,私も気になります笑

でも,これって自分の逃げ道を作っているだけな気がするんですよね.
「才能がないから辞める」と言うための自己防衛.

自己防衛を完全に否定するわけではありませんが,
行動しないための言い訳を考える方が楽なんですよね.
(私自身もそうです)

ただ,向き不向きは多少なりともあると思っています.
私は文章を書くのが苦手ですし,直接話す方が良いのですが,
人見知りでうまく話せない,とまぁコミュ障です笑
自分で1から作り出すことよりも,
既存のものを改良することで,新しい発見に結びつけたりすることの方が得意です.

仕事の内容とか状況によって,求められる能力は異なりますし,
研究の分野も色々あって,分野によって求められる能力は異なります.

たぶん,才能の有無よりも,
自分の得意不得意(向き不向き)を活かせる分野なのか
ということを重視した方が良いと思います.

7.視点を増やす

視点が多い人と少ない人では,同じ出来事でも受け止め方が変わってきます.
もう一つ重要な点は,視点が多いと,気付けることも多いということです.

ずっと同じところで研究していると,「井の中の蛙大海を知らず」の状態になりやすいです.研究室という狭いコミュニティの中での生活時間が長くなることで,
自分でも気付かないうちに,視野が狭くなっているということがよくあります.
不安に陥るときや,研究がうまくいかないなぁ,というときは,
視野が狭まっていることがよくあります.

では,どうやって視点を増やしましょうか?
まずは,他の視点を知らなければなりません.
本を読んで著者の視点を手に入れるという方法もありますし,
身近な人であれば,話してみることで,その人の視点を知ることが出来ます.

そして,他人の視点を知ったら,次はその視点で物事を捉えてみましょう.
ここでも実践あるのみです.今までの自分とは異なる視点で見た時に,どのように見えるか,その時に感じたことも含めて,メモしておくのも良いと思います.

読書をする際は,意識的に,自分がこれまで読まなかったようなジャンルの本を読んでみるとか,自身の研究とはまったく別の分野の本を読んでみるなどすると,違った視点からの物事の見方を学ぶことができます.

視点を増やすのは,意識的に取り組まなければ難しく,
放っておくと,思考が偏ってしまいがちです.
博士課程の学生は何かと忙しいですが,1日5分でも10分でもいいので,
自分の研究分野とは関係のない分野の本や,自分が普段読まないジャンルの本を読む
という習慣をつけましょう.
これは,すでに就職している人にもオススメです.

8.博士号取得者の活躍できるフィールドは?

さて,ここまでは博士課程の学生の意識改革みたいなことを述べました.
ここからは,就職活動やキャリアパスについて考えてみたいと思います.

みなさんが博士課程に進学されたのは,様々な理由があるかと思いますが,
研究が楽しい,好き,と思って進学された方が多いと思います.
では,みなさんは博士課程を卒業し,無事博士号を取得されたら,その後何がやりたいですか?

私が相談を受けたほとんどの人は,研究がしたい,と漠然と考えているようでした.
しかし,博士号取得者は研究以外で活躍できないのでしょうか?

私は,
博士号取得者だからこそ,色々なところで最先端を切り拓いていく能力があり,
その能力を活かして,どんな分野でも活躍するチャンスがあるのではないか
と思います.
例えば,ドイツのメルケル首相は物理学で博士号を取得されたそうですが,ドイツの首相として活躍されておられます.

これから博士号を取得しようとされている方々は,
自分が最先端に立って,新たな世界を切り拓いていくんだ
そういう能力を身につけていくんだ,
という強い気持ちを持って,取り組んでほしいなと思います.
(自分が果たして出来ていたのかは……自信がありませんが笑)

博士課程って甘くはないです.
最先端を自ら切り拓いていく必要があるのですから,
その能力を養成する場所である以上,みんな茨の道を経験します.
研究って楽しい!という気持ちだけで乗り切れないこともあるかもしれません.
脅すなよ,と思われるかもしれませんが,
博士課程へ進学するのであれば,それなりに覚悟が必要だと思います.
そりゃぁ,博士課程へ進学してくれる学生がいっぱいいると,研究が進んで研究室にとっては良いかもしれませんが,
その後,その学生さんが博士号を持って,それぞれの道でハッピーに過ごせるのかを考えると,安易に薦めるべきではないなと思います.

9.企業就職に博士号は不要か?

みなさんは,博士課程修了後,どのようなところで活躍したいですか?
日本の企業は,博士号取得者をあまり取らないと言われたりしますが,
私の周りには,企業に就職した人も,大学や研究機関で研究している人もいるので,
企業が博士号取得者を避けているとは思いませんし,
むしろ色々な企業で博士号取得者を採用しはじめているなぁ,と思っています.

欧米では,研究職では事実上博士号が必須と言っても過言ではないようですし,
日本でもこれから博士号の重要性が認知されてくれば,
ますます博士号取得者の需要は高まってくるのではないかと思います.

ですが,そこに至るまでは,まだまだ博士ってどんな人材なのかを知ってもらう必要はあるんじゃないでしょうか?
残念ながら,博士は視野が狭い,融通が利かない,みたいな認識はゼロではないようです.
しかし,どうせ素人には分かりっこない,といって歩み寄りをしない研究者がいないわけでもありません.
大学での研究も,企業での研究も,優劣なんてないし,
どちらも,それぞれ得意分野などがあって良いと思いますが…

大学と企業に限りませんが,研究の進め方はそれぞれの場所で異なります.
それぞれ,自分が活躍できるフィールドを選ぶのが良いでしょう.
どこで研究するにせよ,博士号の取得は今後,研究者のライセンスとも言うべきものになると思います.

10.一人でできることなんて知れている

色々なことを知っていくと,人間一人で理解できることなんて限られているなぁ,とつくづく思わされます.
すべてを知るなんてことは,人生100年時代といえども,100年なんか短すぎて足りるはずもなく,おそらく不可能でしょう.

そうなると,自然と研究者は自身の研究分野(専門分野)をある程度は絞り込まなければなりません.
しかし,これは自身の研究分野と異なる分野に首をつっこむなということではありません.
むしろ,時々は違う分野を見たほうが良いです.ただし,すべてのことを一人でやるというのは不可能なので,
今後は複数の研究者がそれぞれの得意分野を持ち寄って,連携して研究を進めるという機会がますます増えるのではないかと思います.

こういう連携の機会においても,視野が広いことは重要なのではないかと思います.
視野が狭ければ,そもそもコラボするという発想が出てこない可能性が高いです.
視野が広いということは,チャンスを掴むという点でも非常に有利です.


そういう意味で,これからは「二足のわらじを履く」研究者は増えていってもいいのではないかと思います.
メディアに出てくる研究者が,大した研究をしていないと叩かれることもありますが,
それぞれ得意分野があるのだから,伝えるのが得意な研究者はどんどん情報発信していっても良いのではないでしょうか?
むしろ,私にはただの「負け犬の遠吠え」にも聞こえます.

11.リーダーたるもの,自ら最前線に立て

最後にリーダーシップについて.
リーダーというのは,字面どおり解釈すると,リード(率先)していく人です.
昨今のコロナ禍の対応で,各国首脳のリーダーシップや,日本でも各都道府県知事のリーダーシップが問われたと思います.
今回のように未知の感染症が発生した際には,どのように対応すべきかについて答えがありません.
失敗したら人命に関わるので,冷静かつ的確な判断が求められます.
みなさんもテレビ等でご覧になったと思いますが,自ら責任を取るという覚悟で必死に対応にあたった人もいらっしゃれば,そうでない方もいらっしゃいました.

リーダーは偉い人で,お殿様みたいなイメージがあるかもしれませんが,
字面通りに解釈すれば,リーダーは自ら最先端に立って陣頭指揮を取れる人でなければなりません.
まさに,未知の領域を切り拓く博士人材と同じではありませんか.

日本学術振興会の「博士教育課程リーディングプログラム」というのがありましたが,
まさにリーダーを育成することを目的としたプログラムでした.

科学技術立国と言いながらも,だんだん科学技術後進国になりつつある(いやもうなっているかもしれない)日本を盛り上げていくのは,
やはり博士人材にかかっていると言ってもいいのではないでしょうか.
未知の領域を切り拓いていける博士人材の創出は,
変化が激しい激動の時代だからこそ,今後ますます重要になるでしょうし,
今まさに求められているのだと思います.

教育はなかなか短期で効果が出るものではないので,
こういった素晴らしい教育プログラムが実施されても,
すぐに社会に還元できるわけではありません.
ですが,少しでも博士としての能力を社会に還元できるよう,
私自身もこれからも努力していきたいと思うと同時に,
未来を担っていく後輩たちのために出来ることをしていきたいと思っています.


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