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【短いおはなし】2月25日は「ヱビスの日」

「お、4人でくるとは卑怯なり!」と凄んではみたものの、三文芝居は見え見えで、初主演映画の最初のカットみたいにフワフワした感じになる。監督から「肩の力ぬいていこうー」と聞こえる。4人ともが鯛をもって微笑んでいた。南房総で釣った?

ビールをなぜ飲むかと聞かれる。分かりませんと答える。本当にそうだからだし、家につき、着替えて、テレビをつける次にもう冷蔵庫の中から缶ビールをだして飲んでいる。流れるように飲む。流飲だ、そんな言葉があるかは知らない。たまには飲まないでいようかなと思う日もあるけど、そう思いながら今飲んでいる。つまり毎日飲んでいる。

ビールとは何か。それは彼だアルコールだお酒だ。お酒を飲むと良い気分になる。そしてその日一日にあった良いことと悪いことの中から、ほぼすべてどちらも忘れるという作用がある。
人は忘れたいからお酒を飲むの? 都合よくその日の記憶を選んで忘れさせることは、今の科学技術だとできないたぶん。ただしこの黄色いしゅわしゅわを飲むことで、選べないけど忘れて忘れて、彼らとおもしろおかしく生きることができる。愉快愉快。

4人に見られるとさすがに気まずい。ただし彼らは必要最低限のことしか、しゃべらない。優しく微笑んでいる姿が好印象。モナリザも彼も微笑みが大切。これがしっかりとこっちを凝視して「はい、飲みすぎ」とか「お前アル中か?」なんて地元の怖い先輩のように言われたら、せっかく忘れたことを昨日の分まで思い出しちゃう。彼らは言う「どんどん飲め飲め」数少ない自分を肯定してくれる微笑みで。

飲んでいたビールが空になり冷蔵庫に向かうため廊下にでると、別の彼らの応援が聞こえる「どんどん飲め飲め」左右から聞こえるので、狭い廊下の真ん中を自分はまるでオリンピックの聖火ランナーのように走る。右手には巨人の応援メガホンを聖火に見立て、左手は応援に応え手を振る。

台所でも積み重なった彼らが合わさった結果、さらに廊下からの明かりに照らされて、金色の仏像のように輝いていた。ありがたすぎて、一旦合掌。そのままお寺さんに持ち込もうと思ったが、せっかく自分のことだけを見守ってくれる仏像を失いたくなかったからやめた。我にご利益あれ。この汚い台所が本堂。

冷蔵庫から冷えた微笑みを出す。我慢できずに本堂でプシュッとし、仏の前で失礼しゴクゴク。そしてまた仲間が増えますと仏に報告す。

2月25日はヱビスの日




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