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【ハケンの品格】助産師の場面が忠実、リアルすぎた!

2007年日本テレビで放送された【ハケンの品格】。第6話で篠原涼子演じるスーパー派遣、大前春子が助産師になる瞬間があった。ドラマ内で描かれる助産師やお産の様子が、リアルで驚いた。今までテレビで見るお産の様子は、時代遅れ、非現実的で落胆していたから。どのポイントが助産師として忠実!と感じたのか、まとめてみた。

再放送をしていた【ハケンの品格】、大泉洋が好きなので見始めた。

第2弾が13年ぶりに、2020年4月15日からスタートするという。

ハケンの品格を見ているうちに、大前春子のさばさばとした物言いがかっこよく好きになり

展開を楽しくのんびり見ていたら、第6話、

いきなりある女性が産気づき、大前春子がきりっと表情を引き締め、

「助産師、大前春子です!」と高らかに宣言。

え!?えええええ!とびっくり、まさか【派遣社員がもつ資格】として助産師がでてくるとは。

本当にびっくりしたけれど、正直嬉しかった。

(実際はこんな免許カードはないけれど)

でも、瞬時に不安になった。
どんな風にお産が、助産師が描かれるのか。こんなに人気だったドラマで描かれて、助産師がどんなイメージをもたれるようになっているだろうか。
今まで私がテレビのバラエティーや、ドラマで描かれるお産は、助産や産科の勉強をしていると「そんなふうにお産がすすまないよ…」「そんなこと言わないよ…」「時代遅れ」「間違ったイメージを植え付けないでよ…」と落胆するものばかりだったから。

今までそのように落胆する場面は、具体的に以下のようなもの。
・ひっひっふー、の呼吸
・いきなり妊婦が「うっ」と叫び「うまれるー」と産気づく
・帝王切開のお産に家族が立ち会いし手を握っている

でも、ハケンの品格で描かれていたお産、助産師は
これはきっときちんと取材をしたんだな、と感心してしまった。
一体どこが、助産師として「すごい!そこまで丁寧に描いてくれて…」と感激する部分だったのか。

お産となった場面と、登場人物のセリフを追いながら
数字をつけた部分が、なぜ感心するポイントだったのか、数字をつけてまとめたい。
これはちょっと違うな、という部分も少しあったのでまとめたい。

※ややネタバレあり、お産のシーン
大前春子が派遣をする会社は、あるチョコレート会社にチョコレートの販売を増やしてほしいと頼み、臨月の社長の娘、あゆみさんも手伝いながら徹夜で商品を仕上げていた。
しかし、すったもんだあり大量にチョコレートを売れ残してしまう。
チョコレート会社の社長に、大泉洋演じる東海林主任と大前春子が謝りに行くシーン。
場所はチョコレート会社。
以下、誰の言葉か、省略して書く。
大前春子:大前
あゆみさん:あ
チョコレート会社の社長:社長
東海林主任:東

社長の前で土下座をして謝る二人。そこにあゆみさんが下っ腹を手で押え、人に支えられながら登場。
あ「あーお母さん、いたーい」顔はすでに痛みで歪んでいる。
社長「あゆみ、大丈夫?あんたが徹夜なんかさせるから。①上の子のときも早かったのよ。大丈夫?車まで歩ける?」
あ「あー生まれるうううう、あー、ふー」②あゆみさんほぼ叫び声、力をいれてしまいそう
社長「大丈夫?③いきんじゃ駄目よ」
あ「お母さん、もうだめー」 ④あゆみさん、立っていられず、社長にしがみつく。
社長「救急車、救急車よんで!」社長が叫ぶ中、大前春子がパッと表情引き締め、あゆみさんに近寄り、腹に片手を当てる。
大前「失礼します。⑤破水してますね。救急車がくるまで間に合わないので、ここでお産します」
社長「お産てあなた…」
大前「いいから言うとおりにしてください!」
社長「はい…」
大前「あゆみさん、動けますか」
⑥あゆみさん、うなりながら首を振る。もう言葉はでない。
大前「ここに布団を敷いてください!」
東「お前、無茶じゃ…」
大前「あんたは糸とはさみとアルコール!あとバスタオル!はやく!」
東「…はい!」
大前「ね、あゆみさん、大丈夫よ、元気な赤ちゃん産みましょうね」
社長「ちょっと待ってくださいあなた…あなたS&Fのバイトの人じゃ…」
大前「助産師、大前春子です」大前春子、自分のバックの中から助産師免許証を出す。
大前⑦「心音良好」自分の時計を見ながら、産婦のお腹に耳を当てる大前春子。
⑧布団の上ではーはーと力を抜き、息をするあゆみさん
大前「⑨仰向けはつらいですね、横を向きましょうか」布団の上で側臥位に。
⑩あゆみさん、あーー…と声が漏れるようになる。「うーーーー、うーーー」
大前「あゆみさん、さあ、お母さんの目をみてください。赤ちゃんは自然と出てきますからね、⑪力まないでください。ファー、ファー、ファー。
ファーと息を出すように促す。力をぬき息を吐こうとするあゆみさん。
大前「そうですそうです、上手です上手です。」
⑫あゆみさん、うーーーーーー、と声もれ、だんだんと甲高くなる、表情が曇り、力を入れだす。
大前「⑬今赤ちゃんの頭が出てきました。力抜いてくださいね。はー、はー、はー
救急車が到着、家の中から赤ちゃんの泣き声が聞こえてくる。

こんな1場面だった。
まず①、上の子もいるということで、あゆみさんが初めてのお産ではなく経産婦(2回目以降のお産の妊婦)ということになる。
経産婦は、初めてのお産となる初産婦よりも、お産の進行が速いことが多い。
もちろん赤ちゃんの大きさや、いろいろな要素があるので一概には言えないけれど。
お産の進行が速い、というのはお産のトータル時間が短くなることだけではなく、
それほど強くなかった陣痛が、一気にスイッチが入ったように強くなると、急激に赤ちゃんが下りてくるということでもある。
赤ちゃんのいる子宮の出口が一度開いたことがあるために、のびやすくなっているため、といわれる。一度膨らました風船は、2回目に膨らますことは簡単、という例が使われる。
つまり、経産婦であるあゆみさんが産気づいた、ということはかなり危ない場面ということを示している。

②③④⑥のあゆみさんの様子。
あゆみさんは経産婦の上に、すでに赤ちゃんを押し出そうとするかのように力を入れていしまっている。しかも自分では立てないほどに痛みが強く、理性を失っている。おそらく赤ちゃんはお腹のかなり下まで降りてきて、いわゆるお尻のほうを圧迫される“便を出したくてたまらない”ような感覚がきているのだと推測できる。
ここで社長のいう「いきんじゃ駄目よ」はとても正しい声かけで、
立っている状態の経産婦さんがいきんで、つまり力をいれてしまって、赤ちゃんが一気に降りてきたら、赤ちゃんが落ちてきてしまうかもしれない。

いわゆる墜落産だ。 
そこまでお産がすすんでいるかはドラマの画面上でははっきりわからないが、もし同じ場面に助産師が出会ったら「いきまないで!」と声をかけると思う。

⑤お腹に手を当てて、破水に気づく場面、これは疑問だった。
破水とは赤ちゃんと羊水を包んでいる卵膜が破れること。
赤ちゃんは子宮の中で卵膜に包まれ、ぷかぷかと羊水の中に浮かんでいる。
破水かどうかは目でみるだけではわからなくて、尿か判断がつかない時もあり、破水の診断はBTB試験法などPhの変化があるか紙で調べる方法が病院で一般的。
まさか、お腹を触るだけでわかるということはないと思う。

⑦で大前春子はお腹に耳をあてて、赤ちゃんの1分間の心音をカウントしているようだった。
通常耳を当てるだけで心音は聞こえない。
今はエコーも胎児心音モニターといった機械が主流で、ほとんど現場では使われないがトラウベ型聴診器というものがあり、一応助産学校では使い方を習う。
ただ、赤ちゃんの心音、つまり心臓の音は妊娠期に非常に重要な要素で、お腹の赤ちゃんが元気かどうかの大きな指標になる。
ここも確認している一場面がみられたのは、すごいなと思った。

⑨助産師からの上を向いているのはつらいですよね、という、この声かけ。
お腹に赤ちゃんのいる妊婦は仰臥位低血圧症候群になりやすい。

上向きに寝ると、赤ちゃんがいる子宮によってお腹にある太い静脈が圧迫されてしまい、低血圧になりやすい。母が低血圧になるということは赤ちゃんも低血圧になるということだ。
お産の最後生まれてくる瞬間はいわゆる分娩台の上で上向きに寝るけれど
それまでの間は横向きや、座る姿勢を勧めることも多い。

** ⑧⑩⑪⑫で描かれていたのは、陣痛がおさまる時間と、陣痛がある時間の違いだった。**
お産=陣痛というイメージは強いと思うが、陣痛、つまり痛みのある子宮の収縮が“ずっと”あるわけではない。
陣痛があるときと、陣痛がひいてきて収縮がおさまるときが、交互に、最後の最後赤ちゃんが生まれてくるときまで必ずある。
陣痛と陣痛の間は⑧であったように、ふーっと全身の力を抜くように助産師は伝えることが多い。
陣痛が強い時も、力を入れる、つまり赤ちゃんを体の外に押し出そうとするように助産師が指導するのは、子宮の出口が十分に開いたことがわかった後だ。
専門用語になるがお産にはⅠ期とⅡ期があって、Ⅰ期では子宮の出口が赤ちゃんがでてくる幅(直系10㎝)まで開くまで、Ⅱ期は赤ちゃんが下りてきて出口から出てくるまでを言う。
うーーーーと声漏れをして、痛みが増してきた、つまり陣痛が再度やってきたあゆみさんは、おそらくすでにⅠ期を終えており、赤ちゃんがいよいよ出てくる段階にあった。
大前春子が力まないでください、と声をかけていたのは、むりに力を一生懸命加えようとしなくても、陣痛の痛みと収縮であゆみさんがかけていた努責で、十分に赤ちゃんが下りてくる様子がみえたからだろう。

参考: 【助産師解説】いきみ逃しとは? 行う理由と逃し方のコツ6つ

⑬赤ちゃんの頭が出てきたところで、力抜くよう伝える、これは助産師の声かけとして、すごく大事なポイントだ。
赤ちゃんは頭が一番大きい。なので、頭が出てしまえば多くの場合体は出てきやすいので、無理に力を入れ続ける必要はないのだ。
むしろ頭が出た後に力を加え続けていると、勢いよく赤ちゃんが出てきすぎて、子宮や股の傷を大きくしてしまう可能性がある。

以上まとめてみて、やっぱりハケンの品格で描かれていた助産師とお産の場面は
すごく忠実で丁寧で、だからこそ資格をたくさんもったスーパー派遣、大前春子の資格のある職業の専門性・技術をしっかり伝えることができていたように思う。
ハケンの品格第2弾では、どんな資格が出てきて、どんな風に描かれるのか、楽しみだ。

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