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【ワーホリ国際恋愛体験談】 ③ 一緒に来ないか? 香港の男(後編)

この記事は② 一緒に来ないか? 香港の男(前編)の続きです。
誰かに迷惑が掛からない程度にフィクションをまぜた、ほぼノンフィクション体験記です。

☆前回のあらすじ☆
初ワーホリでオーストラリアの常夏ケアンズに降り立ったその日、空港で出会った香港出身のジェームズが宿泊先の安宿までついて来た!
一緒に夕食を取ろうと言われて・・。

☆用語解説☆
ワーホリ: ワーキングホリデービザ(他国において若者の異文化交流を目的とした就労可能なビザ)、またはそのビザ保持者。
バックパック: リュック。
バッパー: バックパッカーズホステルの略。安宿。

***
(本編ここから)

アジアンマーケットの食事はそれほど高くもなく、というかジェームズが奢ってくれて私は1ドルも払わずに済んだ。

なんてラッキー!
貧乏ワーホリの初日にこれは助かる!

ぶっちゃけ他の国も含めて、アジアンマーケットの食事を美味しいと思ったことはない。

そもそも食文化がアレだと言われる、イングランドという伝説の地からの移民で多くが形成された現在のオーストラリアだ。
元々あまり期待はしていなかったので無問題である。

ジェームズの奢りと知るやいなやお腹いっぱいこれでもかというほど食事を堪能した。
恥じらいも遠慮も無い。

ジェームズが聞き上手なので私はペラペラと拙い英語で自分のことを話した。
旅が好きでこれまでちょっとした休みを見つけてちょこちょこ海外旅行をしていたけれど、それでは満足できずについにワーホリにやって来たのだと。

英語の練習にもなるし、
食事は驕りだし、

最高のワーホリ初日だ!

日本であれば一人で牛丼屋に行くのも全く問題ない私だったが、誰も知る人の居ない、言葉も不慣れな異国で、もし一人だったら・・
これから始まる1年間を前にきっとちょっとは心細かったに違いなかった。

ジェームズが居てくれて感謝した。

オーストラリアで出来た初めての友達。
たくさんの人に出会うだろうここから先の一年に胸が高鳴った。

ディナーを終えバッパーまでの帰り道。
二人とも少し食べ過ぎたしちょっとゆっくり遠回りして帰ろうと、ジェームズが提案するので私も頷いてマップに目を向けた。

アジアンマーケットを出るとすぐ海が見えるのだが、その手前にプールがある。
海に面した無料プール、エスプラネードラグーンはケアンズっ子の溜まり場だ。

日中は子供たちが、ライトアップが美しい夜は大人たちが、こぞって集まり各々の火照りを冷ます。

水面にキラキラ揺れる明かりを眺めながら歩いている内に、ジェームズの手が私の手に触れた。

あれっ?
と思う間に手を繋がれた。

あれれ?

すぐさまそれを振りほどき、
「いや、ちょっと待って、そういうつもりじゃない!」と私。

「カナコ、君はとても可愛いね」
恥じらったと思われたのか、再び私の手を握ろうとするジェームズ。

いや待て。
落ち着け、ホクロ!
いや違う、落ち着けジェームズ!

「僕はビジネスでここに来ててね、時間が無いんだ。

それなのに君が可愛いから。
僕は空港で君をひと目見たときから、君に恋をしてしまったようなんだ!」

彼のメガネが熱っぽく近づく。
彼の左頬の大きなホクロから湯気が吹き出して見えるよう。
(※ホクロをディスるつもりはありません。全部ジェームズのせいです。)

「この後ブリスベンとシドニーにも仕事で行って、それから香港に帰るんだけど、僕は仕事でこんな風にしょっちゅうあちこちに行くんだよ。

君は旅が好きなんだよね?
僕と一緒にあちこちに行けば良いよ。
もちろん飛行機代もホテル代も、君が一緒に来てくれるなら全部出すから。」

英語でばーっと言われて、それを聞き取るのだってもちろん大変なんだけども、かろうじて聞き取れた彼のオファーに耳を疑った。

いや、待って。
確かに旅が好きとは話したけどもそれはなんか違う。

彼の仕事に一緒に行くということは、それはつまり、もちろん彼と同じベッドに寝るってことに、なるんだよね?

そしてそれは
彼と致さなければいけない、
ということなんだよね?きっと。
子供じゃないんだものね。

どうしてもジェームズとどうこうなるといったことは考えられなかった。

というか、その待遇なんなの。
今で言うパパ活的な?
キモ過ぎる!

頭の中はグルグルする。
キモい。
兎にも角にもこのホクロはキモい!(※ホクロは悪くない)

会ったばかりじゃないか!
今日だよ?!会ったの!

ひと目見たときから?
そんなことある?!

英語もまともに話せない日本人がチョロそうだとでも思えたか。

「私はあなたに恋してないし友達だと思ってた。
あなたの旅について行くことはない!」

彼の手を戻し、ちょっと距離を置いて並んで歩く。
気まずさが残る。

え、私、ここは走るべき?

ここで例えば私が走って逃げるとする。
でも泊まるバッパーは徒歩で・・・15分くらい?
いやいやいや、15分も全速力で走れないよ?
アラサーだよ?

こんなとき一体どうしたら良いのか見当もつかない。

所在のなさと言ったらなかった。
誰か助けて(涙)

ジェームズはその後の道中も美しい誘い文句を並べ、私は疲労困憊。
バッパーまでの道のりが永遠とも思われるほど遠く感じた。

これがワーホリ初日の夜の出来事。


その後のバッパーで彼は私を探し周り、私は彼から隠れて日中はコソコソ動き回って隙を見て外出。
夜間は部屋に閉じこもるという、なんとも休まらない引き籠りな日々を過ごすことになった。

ていうかジェームズ、仕事は?

せっかくのワーホリなのに!
日本を発つときは、それはそれはキラキラした世界を想像していたのに!

現実はどうよ。

その落差に愕然とした。
何のために私はダブルワークでこのワーホリ資金を貯めていたのか。
あの時間を返してほしい!

ワーホリ3日目の朝、彼はついにバッパーを去っていった。

来た時同様に大きなスーツケースを転がし去っていく彼の後ろ姿を見送り、私はやっと自由を手に入れた。

もう堂々と外に出られる!

外のダイニングテーブルで燦燦(さんさん)と降り注ぐ太陽の下、トロピカルな風を感じながら、のんびり朝食を楽しむことが出来るんだ!

まぁ楽しむっつっても、バッパーでフリーで食べられるパサパサの食パンとジャムとコーヒーだけども。
フリー最強。

やはり男と女は友達にはなれないのだろうか・・。

いや、違うな。
そんな話じゃない。

ジェームズは元々金にモノを言わせて気軽にヤれて連れて歩ける女の子を探していたんだと思う。

何とも香ばしいワーホリの始まりだった。

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