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【就職】"人生最大の失敗"と聞いて思い出すもの「ありさのばかちん」話

昔の職場を離れて15年経つというのに、
いまだにウエディングプランナー時代の夢を見る。そしてうなされる。

うなされる私を、夜中によく旦那さんが
「大丈夫?」とゆすって起こしてくれる。
「またうなされてたよ」と。

大体の夢のあらすじはいつも同じ。

後輩プランナーが、
「カナさんこのお二人わかりますか?」と
見慣れない顧客ファイルを持ってくる。
知ってる。だいぶ前に成約した二人だ。でも、すっかり忘れてた。やばい、そろそろ打ち合わせのアポ取らないと…。挙式日いつだっけ?
え?来週!招待状も出してない!お花もお料理も打ち合わせしてない!間に合わない!どうしよう!!という夢。

いつもこれ。
で、急いでお客様に電話する…ではなく、まずシェフに謝りに行く。(結婚式場というヒエラルキーのトップが誰なのかがよくわかる。)
で、めちゃくちゃ怒られる。いつもこの夢。

ウエディングプランナーは素晴らしい仕事だ。
良い思い出もたくさんある。
悪い思い出もたくさんある。

悪い思い出のほとんどは、ミスした思い出。
新郎に怒鳴られたことも、新婦に泣かれたことも、色々ある。

昔っからミスをしやすい不注意な性格のため、お客様には本当に迷惑をかけた。

でも、仕事の一番のミスはなんだろう?と思い返してみたら、真っ先に思い出したのは、お客様へのミスではない。


「ありさのばかちん」事件だった。


私のいた会社は若いベンチャー企業で、社員は1,000人もいなかったと思う。
それでも直営会場の数は日本で1番多く、人気もあったし、多分とても儲かっていた。

社長は若くて、熱くて、体育会系で、いつもスーツではなくデニムに革ジャンを着ていて、六本木ヒルズに住んでいて、芸能人の友達がたくさんいる、絵に書いたようなTHE東京の社長だった。

そういえば、2回ほど
社長の家にお邪魔したことがある。

1度目のお宅訪問は、同期全員が招待された。その時社長はすでに六本木ヒルズを出て、別の高級マンションに住んでいた。

最上階だと聞いていたのに、エレベーターはそほ一個下の階で止まったので「最上階じゃないじゃん」と思っていたら、メゾネット的ペントハウスで、2フロア分が社長の家だった。東京の社長、すごい。

東京の夜景が見渡せるバルコニーにはジャグジー、部屋にはプライべートジム。めちゃめちゃ広いリビングと、キッチン。社長はそこに一人で住んでいた。

一瞬だけ、寂しくないのかな?と思った。

祖父母も含め7人家族で育った私からすると、こんな大きい家に一人は寂しい。
テーブルの上には豪華な食事。北海道から出てきた田舎者の私は初めて「ケータリング」というお金持ちしか利用しないオシャレな言葉を学んだ。

2度目のお宅訪問も、また違う高級マンションだった。同じ店舗のメンバーと行ったが、長くて白いリムジンが店舗に迎えにきて、社長の家まで連れてってくれた。
社長の家のリビングの一角には、高級寿司・銀座久兵衛さんの即席カウンターが出来ていて、2人の板前さんがその場でお寿司を握ってくれた。
久兵衛だけでも驚きなのに、こんなスタイルの出張久兵衛が存在するなんて、知らなかった。
私たちが暇つぶし出来るように、個室には占い師が来ていて、未来を占ってくれた。帰る時社長が「これあげるよ」と、大量のブランド品をみんなに配ってくれた。バブル崩壊からややしばらく経っていたが、あそこだけはまだバブルが弾けてなかった。まだあわあわしてた。

社長は、新卒で自分の会社を選んでくれた私たち同期30人を、とってもかわいがってくれた。同期もみんないいやつで、とても仲が良かった。

私のいた会社は、社内間での全社一斉メールが非常に多用されてる会社で、例えば新卒が初めて成約を貰うと、
「祝・初成約!!Aくん、おめでとう!!」
と全社一斉メールが来る。
誰かが初めて担当パーティをする時は
「〇会場の、Bさん初パーティ、お疲れ様!」
など、いつもそんな感じの全社メールが届いてきていて、そこに、「ありがとうございます!」とか、「がんばって!」とかさらに様々な社員さんから返信が来る。

そして、時々そこに社長も返信してくれる。
「期待してます!」とか、「頑張れよ!」とか。
短いけど、熱い言葉を。

忙しい社長にはなかなか会う事はできなかったけど、私たち新卒は、そのメールだけでも嬉しかった。怒ると怖いけど、とっても人間味のある社長だった。

30人いる同期の中に、
とっても美人な「ありさ」という子がいた。

同期はみんな美人揃いだが、その中でも、ありさは特に美人だった。美人なのに性格もいい。

ありさとは内定時代に仲良くなり、他の同期とも一緒に大学の卒業旅行で京都に行った。
ありさがほとんど旅行の手配と段取りを終わらせてくれていて、私たちはほぼ参加するだけ。
ありさは気遣いも仕事も出来た。

そんなありさは関西の店舗に配属され、関東に配属された私とは、社員総会くらいでしか会う機会がなくなった。

そんなありさが、ある時、やらかした。


とある週末の23時。
ありさから社長あての個人メールを、
全社メールに一斉送信してしまったのだ。

内容は、
「本日は遠路はるばるうちの店舗に来て頂き、お土産も頂き…」というような当たり障りのないお礼のメールだったように思う。

そしてその数分後に、ありさのメアドから再び
一斉メールが送られてきた。

「大変失礼いたしました。不注意で一斉送信してしまいました。大変申し訳ございませんでした。」という内容だった。

誤送信したのは、そんなプライベートな内容でもないし、ちゃんと礼儀正しいお礼のメールだった。言うほど大失態ではない。

でも、かわいそうに。。。

わかるよ。
社長が送った全社メールを開けて、返信ボタンすぐ押して、そのままメール書き始めちゃったんだよね。

で、送ったとたん、全員に送信され、きっと、そばにいた先輩プランナーに、
「あんたちょっと!全社メールで送信してんで!!」と怒られたんだろう。

「ごめんなさい!!」と事務所で謝るありさが目に浮かぶ。新卒1年目の立場で、なんてかわいそうに、ありさ。
絶対落ち込んでる。私なら落ち込む。

そんなありさがかわいそうで、ありさを元気づけようと思い、私は一言だけ


「ありさのばかちん☆」と送信した。




皆様、もうお気づきだろうか。




そう。お察しの通り、
私も全社一斉メールに送信したのだ。

「ありさのばかちん⭐︎」を。

そして、私の隣のデスクにいた先輩プランナーに、
「あんたちょっと!全社メールに送信してるよ!!」と怒られたのだ。

「え!!!!!!!!!!!」
もう一度パソコン画面を確認する私。


私がありさに送った「ありさのばかちん⭐︎」が、私にも届いている。

そりゃそうだ。
それが全社員一斉メールだ。


「ぎゃあーーーーーーー!!!!」と叫んだ。


本当だ。
間違いなく全社メールで
「ありさのばかちん☆」が配信されてる。

全国の店舗にいる、
会った事のないプランナーたちにも、
行った事のない店舗の支配人たちにも、
シェフにも、本社の社員にも。

もれなく全社員に「ありさのばかちん⭐︎」が届いている。そしてそれはEメール。
LINEと違い、送信取り消しは出来ない。

アウトだ。

ありさのメールはアウト寄りのセーフだったが、
「ありさのばかちん⭐︎」はアウト寄りのアウトだ。

「ど、ど、ど、どうしたらいですか先輩!」
と、私は隣にいた先輩に泣きついた。

「まず謝罪だ!謝罪メールを送れ!」

は、はい!!と、
とりあえず、白目を剥きそうなメンタルで、謝罪文を書くべく再度メールを開き、「先程は大変失礼いたしました…」とメールを打ち始める。

あぁ…、ありさはさっきなんて謝罪してたっけ。
もう開き直ってありさのメールコピペしよっかな。もうどうにでもなれ。

「こういう時は、それ送ったら今すぐパソコンを閉じろ。で、家帰って寝な。もう忘れな。」と先輩は言った。
なんて素敵なアドバイス。

でも、そのとき、先輩が気づいた。



「カナ!社長から全社メールで返信が来てる!」


え!!!!!!?



やばい!絶対怒ってる!

社長は優しいけど、怖い。
怒るとマジで怖い。
上下関係とマナーに厳しい。
めっちゃこわい。


左遷だ。クビだ。引継ぎだ。もう終わりだ。


おそるおそる、先輩と一緒に返信を開く。


そこには、一言、




「カナさんの方がばかちんではないですか?」


…と、書いてあった。



そうです~社長〜。
その通りです~~~~~~~~~。

先輩は、あっはっは!!!と大笑いし、
社長、やさしいじゃん!と笑い飛ばしてくれた。

次の日、支配人にはしこたま怒られた。
それが、私の一番のミスの思い出。


ちなみに、この話を、
ありさ本人にnoteに書いてもいいか聞いた。
私の失敗談でもあるが、一応ありさの失敗談でもある。

ありさは、懐かしー!そんな事あったねー!!と笑い飛ばしてくれた。
やっぱり性格もいい。多分、今でも美人。

ありさ、元気か。
育児とか無理してないかな。

しばらく会えてないけど、また今度会えたら、ばかちん同士、昔の辛かった新卒の思い出話しようね。

育児に家事に疲れてたなら、卒業旅行で行った京都の夜みたいに、みんなでカラオケ行って、大騒ぎしようね。

私またSPEEDのWhiteLoveのHitoeちゃんの
ダンスモノマネするから、一緒に踊ろう。
そしたら、また大笑いして元気でるよ、きっと。


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