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恋人会議をはじめよう

めったに泣かない彼女が珍しく号泣している。

はじめは、ただ映画を観てひさびさに涙を流していただけなのだけど、途中からその理由は、泣いている自分をほうって隣でスマホをいじりはじめた彼になったらしい。

 'きっと、誕生日に寄せられたメッセージに一つ一つ返事を書いているのだろう、あるいは仕事の連絡か…

物分かりの良い自分でいることに、彼女は悲しくなった。感情に任せてプンプン怒ったり甘えられる"彼女"には、彼女はどうしてもなれなかった。

 'きっと、彼女は今自分で一生懸命感情の整理をしているんだろう…

初めてみた姿に内心は驚きながら、泣いている彼女に何もできないことに、彼は悲しくなった。「俺がいるから大丈夫だよ」「よしよし」と言える"彼氏"には、彼はどうしてもなれなかった。

ひとしきり泣き終えた彼女は、ある決心をした。
もう、日常のなかで自分に向けられる些細な言葉や気持ちを根拠に、10か月前の「好き」を信じるには、限界が来た。

「一つだけ聞いていい?わたしのこと好きですか?」10ヶ月間、彼女がずっと聞きたかったことだ。

「…好きです」
10ヶ月間、彼がずっと言いたかったことだ。

ふたりは、素直に、とってもうれしそうな顔をした。

聞くのが苦手な彼女と、言うのが苦手な彼氏。
その間には、たったそれだけのやりとりが、とっても難しい。

これからは、聞きたいことを聞き、言いたいことを言う日をつくろう。その日ばっかりは、苦手をこえて、一生懸命伝えよう。家族会議ならぬ、恋人会議をはじめよう。

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