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母の物忘れと父の病気

年末年始、実家に帰って、まず感じたことは母の物忘れが以前にも増していたことだった。コロナでなかなか実家に帰れなかったおかげで、余計にその忘れの度合いが強く感じているのかもしれないとも思った。

日常生活はできている。でも以前だったら年末年始の大掃除、綺麗好きの母は、細かいところまで綺麗に掃除をしていた。今年は違った。洗面台や、テレビ台など細かなところで、ほこりや汚れが目立ったいた。
一方で、いつものように生花はお正月用に華やかに飾っていたし、日頃の生活もできている。

そして、父が外出している際に母はこそっと父の体調のことを教えてくれた。
「おとうさん去年6月にワクチン受けて、その後7月くらいにちょっと胸のところが苦しいからってワクチン受けた病院で検査受けたんよ。そしたら、血液検査で鉄分が足りないって言われて、鉄分の薬、毎日飲みよるんよ。」
そうやったんか。昨年、秋に私が体調くずして実家に帰った時は知らされていなかった事実。
と、同時に、日常の生活のことは割と覚えているんやな。とも思った。

そして、私は母が外出している時に、父に聞いてみた。
「お母さん、物忘れ激しくなっていない?私が秋に帰ったことも覚えとらんかったよ。大丈夫?」
「あ、気づいた?」

気づいたじゃないよ!とツッコミを入れつつ、秋に体調を崩した私に気を使ってのことなのかなとも思った。
「お父さん、去年から、ワクチン打った病院で血液検査したら、鉄分が足りないって言われて、鉄分の薬のみよるけど、そこの病院で物忘れ外来ってやっとるから、今度一緒に行こうと思っとるんよ。でも、なかなか最近お母さん頑固になってきとるから頃合い見計らっていこうとは思っとるんよ。」

そうか、そうなのか。そうだったのか。
その時は、
「まあ、あまりにも物忘れがひどくなったり、生活が難しいようだったら、連絡して。インターネットでも調べるし」
と父には伝えて、私は実家から家に戻った。
実際、母の症状をインターネットで「認知症」で調べても、全てが該当する形でもなかったし、グレーに近い感じの結果しか出なかった。できれば早く病院に行ってほしい。どうやって病院に行ってもらうかを調べたりして過ごしていた。

そんな中、私から実家から自宅に戻って一週間くらい経った頃、平日の、いつもはかかってこない時間に、いきなり父から電話が入った。母に何かあったのかと思って電話に出ると
「今大丈夫か?お前、ちょっとこっちに戻ってこられんか?
 実は、お父さん2日前から入院しとるんよ。なんかなー。ちょっと胸が苦しいな
 と思って、別の病院に行って検査したら、すぐに大きな病院で入院してくれって言われて。突然入院したらお母さんびっくりするからって言って。でも救急車呼んで大病院行かないといけんくらい重症じゃ言われて。でも、待ってくれって、翌日必ず行くからって言って。翌日大きな病院にお母さんと二人きたけど、腹部大動脈瘤で、即、入院してくれって言われて、来週火曜日手術なんよ。お前に黙っとこうとおもっとったんじゃけど、今日、お母さんが見舞いにきてくれたんじゃけど、なんかなーお母さんが元気がなかったんよ。心配やから、だから、すまんけど、お前、会社休んでこっちに来れんか?」

ということだった。
帰省後どちらかというと母のことが心配だった私には、父の病はいきなりのことで、私はかなりの動揺だった。

腹部大動脈瘤

同時にこの病名は私を不安にした。
実は2年前、会社の先輩のお母さんが同じように動脈瘤の補強用のステント手術をしたのだけど、手術後意識が戻らず半年後に亡くなったのを見てきた私としては、不安でしかなかった。
とにかく、会社に事情を話すからと電話をいったん切った。
そして、会社に事情を話し、術後一旦父の状況が落ち着くまで、休暇をもらうことになった。

それを伝えると、父は「よかった」と言って安心していた。
同時に、母にも電話をし、父から電話があったこと。会社に行って休みをもらったから、翌日には帰省すること。を伝えた。母も少し安心したようだった。

その翌日、午前中に実家に戻って、母からの視点で父の状況を聞いてみた。
概ね父が話していたことと一致していた。
ただ一点、新たなことがあった。

「昨日ね、お母さん、お父さんをお見舞いに行ったら、大動脈瘤を手術してくれる先生と廊下で会ってね。先生に言われたんよ。お父さんには、今は胃潰瘍って伝えてあるけど、多分胃癌もありますって。この手術の期間に合わせて、胃癌の検査もする予定だって。」

あーーーーこれか。母が元気がなくなった要因は・・・・

そうか・・・鉄分足りないって言ってたの。もしかして、胃癌が原因で鉄分が足りなかったんでは・・・
そうよぎった。

その日の午後、土曜日だったので病院の診察はないが、そのまま母と二人、父を見舞いに行った。
私の顔を見ると、父はちょっと安心したようだった。
そして、心配ないから、簡単な手術らしいからと言って、自分の病状を病院からもらった説明書を見せながら私や母に説明をし始めた。
「なんか腹部大動脈瘤が7センチくらいになっとって、かなり大きいらしいんじゃ。で、カテーテルで、ステント手術をするけど、そんな大きく切らないから大丈夫や。1週間から10日の入院らしいわ。それと胃潰瘍か胃腫瘍もあるらしいから、合わせて検査させてくれって言われとるだけじゃ。大丈夫よ。お父さんは今までも運が良かったけえ。そんなに心配しすぎるな。」

う・・・うん。確かに父には胃癌のことは、まだ伝えられてないようだった。

真実を知っていて、知らないふりする演技をすることはこんなにも辛いことなのか・・・私には女優は無理だ・・・

そう思いながら、休日の病院の看護士さんに、手術の前日、家族に手術の説明があるというが、このコロナの中、本来は同席できる家族は1人だけど、母だけでは心許ないので、私も同席して良いかどうか許可を得た。

素晴らしき、インターネット、メールの世界。
父からのSOS電話と同時に、インターネットで現在の父の入院先の病院の対応を調べ、同時に地元の友達にメールをし、最近の地元のコロナ状況を調べていたので、とりあえず、月曜日病院に行っても同席できないという状況は免れた。

翌週月曜日、父の手術前日に母と二人、病院に行き、病状・手術の詳細の説明を受けることになった・・・


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