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変なあなたを変じゃないと言う私もきっと変で


それはもう激しく、目まぐるしく、嵐のような人だった。



今までの人生の中で一番心の中に残っている人は誰ですか、と聞かれたら私は間違いなく彼のことを話すだろう。


彼のことを「変」だと人は言う。
私は彼のことは「変」だとは思わない。


彼は突き抜けた人だと思う。
雨が好きだと言い、雨の研究をしに大学へ行った。
いきなり武士になりたいと言い、髪の毛を伸ばしはじめた。
モノを作るのが好きだと言い、テーブルを一から作った。しかもチョークで文字が書ける。
自分の苗字の由来を知りたいと言い、自分の足で由来の地まで行った。
引っ越したいと言い、リビングからお風呂もトイレも丸見えな家に住んだ。
ホームパーティーにハマったと言い、友達を沢山家に呼んでいた。


雨が好きだ。傘が好きだと言うから誕生日には年に一度しか販売しないデザイナーさんの傘をプレゼントしようかとさりげなく普段使う傘のタイプを聞くと、「俺は雨を感じたいから傘は使わない」と一蹴り。


私なんかの脳みそでは彼のことは到底理解できなかった。

そんな彼と居た頃の私は振り回されてばかりで今までで一番自分らしくなくて、知らない自分ばかりで毎日が違う色だった。
よく泣いて、嫉妬して、怒って、涙が出るほど笑ってと感情のフル活用だった。

時々ほんのりと思い出される彼との記憶は暖かくてどこか落ち着くものだ。


始まりは悪い印象から


高校三年生になってやっと関わり始めた彼に対する私の最初の印象は最悪だった。

高圧的な話し方、
人の出来ないところを指摘してくる、
いつも怒っている、
厳しいことを言ったかと思えば急に優しくしてくる。
私の心の中はいつもジェットコースターだった。

私を泣かせたかと思えば、急に自分にも至らない部分があったと話を始めたり。

そんな彼の行動のどこかに愛情が見えた気がした。

学校内で同じ役割を持っていたから必然的に共に行動することが増え、右も左も分からずに不安にしている私を叱りながらも
「しっかりしろ」といつも後ろからサポートしてくれていた人だった。

それは今まで経験したことのない感覚だった。
「恋に落ちた」というような表現では表せない程の衝撃で、
「雷が私に落ちた」とでもいうような感覚だった。

毎日学校へ行って、叱られることの方が多かったが
それさえも幸せと感じていた私は雷に打たれた衝撃で頭のネジが何本か取れていたのだろう。


それから何の進展もないまま一度は気持ちに蓋をしたが、
曲折を経て付き合った。


夜中に連れ出してくれるドライブ

仕事や大学で疲れ果てた後なのに、
よく私が行きたいと言っていたところに車で連れて行ってくれた。

出発した時は楽しそうだけど、目的地に着くと夜中だから疲れが出始めて
家に着くとベットに倒れるように寝てそのまま起きないことも。

そんなヘトヘトになるまでして運転してくれなくても良かったのに。
ていうか、休日に行けば良かったじゃん。
でも、そこまでして連れて行ってくれることが私は本当に嬉しかった。


自分を守った女

彼は私と真反対でアクティブに動き、
経験をした結果の知識も人脈も沢山持っている人だ。
憧れていた。尊敬していた。

それに対して私はかなり内向的で
いつもウジウジしている人間だった。

そんな彼に私の頭の悪さ加減を知られたくなくて
自分を取り繕うのに必死だった。

それもあっていつしか自分の悩みや感情を押し殺して私から心を開かなくなった。自分を守ることしか頭にはなかった。
本当の私を知られなければ好きでいてくれると思っていた

加えて
彼に会えなくて寂しがっている私を察してくれ、
色々と我慢している私を察してくれ、
と随分と自己中心的な行動をしてきた。

意識はいつも自分だけにあって、
彼のことは表面的な部分しか見れていなかった。


そんな状態の私を彼は知っていたのかもしれない。

振り返ると私にいくつものメッセージを投げてくれていたなと今になって気づく。


成長精神

付き合い始めの頃は、やけに互いの成長に夢と希望と闘争心を燃やしていたような気がする。

「次帰国するまでにはもっと成長して帰る」

なんて恥ずかしい言葉をよく言えたものだよなぁと
当時の自分を思い出して赤面する。

彼に「できない自分」「頭の悪い私」を知られるのが怖くて
結局口だけの約束だった。

帰ってくる度にレベルの下がる私をみてがっかりしただろうな。
呆れていたかもしれない。

そして私は帰ってくる度に成長している彼に依存していた。

彼に憧れていた。尊敬していた。私もあんな人になりたいと思った。
それはいつのまにか依存となっていた。

「次会うときまでにお互いに成長していようね」 
「私負けないからね」「俺も負けないから」

その勝負に負けたのは私でした。
そもそも私は勝負するリングにも立てていなかった。


別れは気づいていた

コミュニケーションを取らなくなり、
関係が悪化していっていることはお互い気が付いていた。

いざ別れの言葉を直接告げられると頭が故障したように、
言葉の1つ1つを理解するのに、飲み込むのに時間がかかった。

頷くものの、全く意味不明の言葉を並べられているような感覚だった。

私の世界は彼が占める割合がほとんどだった。

その存在が消えてなかったことになるなんて嫌だと思った。

嘘つきだと思った。

「俺、『もしかしたら結婚するかもしれない』って考えることあるよ」

って少し照れたように言っていた言葉を思い出した。

それは恋人間ではありがちな言葉だが、
彼の言葉は一瞬にして私の未来を色とりどりな色で染めていった。

こんなギクシャクした関係も修復して、隣にこれからもいれると思っていた。

こんなに自由奔放で、何を考えているか分からなくて、突き抜けているあなたを横で笑って見ているのは私だけしかいないじゃんって思っていた。思って欲しかった。

人間という生き物は意外と丈夫にできている。
しかし、その後は脆い。

面と向かって別れ話をされて悲しみで打ちひしがれているにも関わらず、
最後の別れの時は笑顔で別れることができるのだ。

別れた後の記憶は私の中には無い。

どれくらい一人で歩いたのかも知らないし、
どうやって帰ったのかもどれ程泣いたのかも分からない。

「あぁもう前みたいに彼の横で匂いをかいで寝ることも、手を繋ぐことも、一緒にご飯を食べることもできなくなるのか」

そんなことを思って泣きながら寝るものだから、寝てるのか泣いてるのか分からないし、体調も悪くなってきて朝になるまで意識がプツプツと途切れていた。


回復

急激にどん底に落ちたが、
「いつまでもウジウジしてられない」
と奮い立たせられ、精神状態の回復はかなり早かった。

依然として心に空いた穴からは冷たい風がひゅーひゅーと鳴っていたが、
それも時間と共に埋められた。

埋められたというよりか、本来自分で補うべきである心を取り戻したのだと思う。

あれから日にちはまだ浅いが、頭と心をフルに活用させて考えた。行動した。そしてこれからも私は動き続ける。

彼に言われた言葉の1つ1つが後になって身にしみて分かる時がある。

どれ程自分のことしか考えられていなかったのか、どれだけ残念な人間だったのかを痛感している。

その度に苦しんで、学んでの繰り返しだ。

私のことを側で見ている友人は「顔つきが変わったね」と言う。
私は幾分か強くなったのかもしれない。前に進めているのかもしれない。

もうあの頃の私ほど弱腰ではなくて、覚悟があることは確かだ。



「次会う時までにお互い成長していようね」

もうその約束を果たせる日は来ないが、次があるとしたら
その時は競争するのはやめようよ。
その時はきちんとコミュニケーションをとろうよ。
その時は自己中心的な考えは捨てているよ。
その時は同じ目線に立っているよ


その時は、雨の中を傘もささずに裸足で歩きに行こうよ。私の好きなプリンをこれでもかっていうほど頬ばろうよ。


未練はない。ただどうしようもないほどの後悔が溢れているのだ。


彼のことを「変」だと人は言う。
やっぱり私には彼の「変」なところは見つからなかった。

こんなことを別れた後に書いている私はどこか変なのかもしれない。
言葉で上手く伝えられないから文章で表したいんだ。


いつか彼が言っていた言葉を思い出す。


僕のことを変じゃないと言うあなたもきっと変な人で






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