かもめソング
かもめ主宰・雨伽詩音の作品まとめ
非実在の猫について語るとき、与えられた名前を呼ぶとき、ただその瞬間だけこの危険な領域から飛べるのだと知っているから、失われてゆく記憶の中から名前を呼び起こして、…
器というものを仮定して、そこに水を入れるのだか、遠いところから運ばれてきた宝石を入れるのだかわからないけれど、満たしていくうちに、だんだんとこぼれ出てくるものを…
白いねときみ云う体病み果てて記憶は罪へ変わりゆくだけ 詩を書いて眠れぬ夜の友としてあるいは自傷の代わりとして 鈍麻してゆく感情に名づけてよきみの好きなお酒の名…
2021年11月17日 16:23
非実在の猫について語るとき、与えられた名前を呼ぶとき、ただその瞬間だけこの危険な領域から飛べるのだと知っているから、失われてゆく記憶の中から名前を呼び起こして、ピコにゃんと呼ぶ。お天気ロボット・ピコにゃん、故障中。老婆の家の片隅に追いやられて、出てくる言葉は「今日は晴れるでしょう」という言葉のみで、雨の日も雷鳴が轟く日にも予報を誤り、お腹の液晶には呑気な太陽のマークが明滅して、降水確率は10%のま
2021年10月28日 18:24
器というものを仮定して、そこに水を入れるのだか、遠いところから運ばれてきた宝石を入れるのだかわからないけれど、満たしていくうちに、だんだんとこぼれ出てくるものを涙と名づけておきたい。涙の色もさまざまあって、標本博物館には七万人の涙を採取して綴じたものが展示されていると聞くけれど、そこから三百五十八番目の名前がきみのものであることを知っているのは学芸員だけで、つまるところ僕の兄ということになる。兄が
2021年10月7日 21:54
白いねときみ云う体病み果てて記憶は罪へ変わりゆくだけ 詩を書いて眠れぬ夜の友としてあるいは自傷の代わりとして 鈍麻してゆく感情に名づけてよきみの好きなお酒の名前を ひとり寝の虚しい夜をいかに越す闘病日記傍らに置き傷跡をジャックダニエルと名づけてシードルすらも飲めないままで 哀しみの持続力さえ切れてゆく薬によって「私」は 消され 映画館なくなって時流れゆくあなたの写真一枚残さ