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「消える職業」「なくなる仕事」10年後どうなった|未来予測の結果

未来予測の方法は確立されていない。

未来を予測できたら、どんなに素晴らしいか。
できる人がいるとしたら、わざわざ公表せずに富を独占するだろう。
一般常識で考えれば、あり得ないことだと気づきそうなのに
もはや確実な情報のように報じられている。
明日の天気予報ですら降雨予測の適中率が、平均83%なのに ※1
10年以上先の社会状況を予測して当たるわけない。

未来予測が信用できるなら、競争の激しい生成AIの開発など
全部やめて未来予測に資金をつぎ込んだ方がいい。
企業は、様々なリスクから解放されて、大儲けできる。

有名な未来予測は、もはや定説として扱われているように見受けられる。
その一つが「消える職業」「なくなる仕事」説で、元ネタとなったのは
オックスフォード大学のフレイ&オズボーンによる
「雇用の未来」という論文だ。 ※2
この論文の以下の指摘がインパクトがあった。

本調査の結果、米国雇用全体の約47%がコンピュータ化のリスクに晒されていることがわかった。また、賃金と学歴がコンピュータ化される可能性がある職業と強い負の相関があった。

雇用の未来(The Future of Employment)全訳

発表されると、世界中で話題を呼び活発に報じられた。

職業に関する未来予測の話題が盛り上がるのは、ネガティブ情報だから。
大昔から繰り返される「技術的失業」というステレオタイプである。
・ITが普及し、AIやロボットの技術革新が注目されていて、
 技術に対して信頼を置く一方、脅威を感じていた。
 そこへ権威が大胆なネガティブ予測を発表したから、
 メディアにとって、とても売りやすいネタになった。

この様な経緯で世界中に拡散したと想像する。
大雑把な背景の解釈だが、当たらずとも遠からずだと思う。

すでに発表から10年が経過しているが、予測は外れまくっている。
ネットの一部では、批判的な記事も確認できるが、打ち消しには至らない。
例えば、機械に代替されなくても、最も消えそうな職業は
フィルム写真の現像技術者だと思うが、フィルムの生産が中止されても
根強い需要があり、現像サービスは継続している。

統計データから予測を導く

日常的な感覚として、何らかの予測方法を考案しても、未来については
情報が不足しているので、予測は当たらないと、皆が知っている。※3
しかし、新しい予測方法と根拠データを持って、予測が示されると
興味津々で思わず疑いもなく、誰かに教えたくなるところが面白い。
長期的な予測など占いと変わらないだろうと疑った方がいい。

「雇用の未来」で予測に用いられている方法は、ロジスティック回帰モデルである。複雑なアルゴリズムとか、大規模なシステムを構築して予測したのかと思ったら、ロジスティック回帰って、EXCELで使えるやつでしょ。
世界中に影響を与えるような未来予測が、ノートPCレベルの計算スケールで出力された結果だったら、落差が激しすぎる。

予測方法の詳細を確認しようかとも思ったが、面倒なので検索したら、
専門家の方が、ちゃんと検証されていた。

① 将来、約半分の雇用者が機械に代替されるというフレイ&オズボーンの推計値は現在では、ほとんど誰も相手にしていない。過大な推計値が出るという、ある意味で計算ミスが指摘されたからである。

人工知能(AI)等と「雇用の未来」「人材育成・働き方」

メディアが散々煽りまくって、予測が外れるならまだしも ※4
「計算ミス」って...一体、何だったんだ。
間違いの原因は下記の引用元の資料が分かりやすい。

① 全 702 の職業の中から、代替リスクが 0% 又は 100% であると見込まれる 70 種の職業を 選定する(表 5)。これは有識者会議(69) で複数の専門家が、職業名のみを基準として「自 動車の運転手は 100%」「医師は 0%」等のように主観的に判断・選定したものである。

AI等の技術の雇用への影響をめぐる議論

最も重要な根拠が、ただの偏見だった。
「低賃金と低学歴の仕事がコンピュータ化される可能性がある」という偏見を持った人たちが、リスクの判断基準を設定し、その偏見がアルゴリズムを通って再現されただけだ。

この話題の根本に関わる重要な点が、元の論文に記述されている。

我々は、テクノロジーの能力の観点から、年数が明確でない状態での潜在的にコンピュータ資本によって代替されうる雇用の割合を評価することに焦点を当てている。どれだけ多くの職業が実際に自動化されるかについて調査しようとしたものではない。

雇用の未来(The Future of Employment)全訳

雇用とテクノロジーの関係を散々語った後で、でも
本当は、テクノロジーのことしか分からないですけどね。
と言い出すのは、クレイジーすぎる。さらに

恐ろしいのが、行政の資料で引用されていること

厚生労働省:技術革新が労働に与える影響について (先行研究)
総務省:2040年頃までのICTの発展イメージ
文部科学省:2030年に向けた日本の教育政策について

重要な政策の方向性に影響を与えているとすれば、日本は
誤った方向に向かっているのではないか。
「そっちに行っても何もありませんよ」と心配になる。

でも、
数学大好きな官僚とかメディアが、この話題のデタラメさに
気づかない方がよほど不自然だと思う。

みんな初めからマユツバだと分かってた

人間がそうして新しいスキルや知性を磨くようになれば、これまで以上に輝かしい『クリエイティブ・エコノミー』の時代を切り開いていけるのです

オックスフォード大学が認定 あと10年で「消える職業」「なくなる仕事」

誰だって単純で退屈な仕事は嫌だ。でも、
単純で退屈だから、誰かに金を払ってやってもらう。
労働力売買の市場で、価値がある。
クリエイティブと言われる職業だって業務のほとんどが
単純だったり、ルーティン化されていたりで、創造的な瞬間は一瞬だ。

「消える職業」と名指しされて、
労働力としての価値が下がる職業があったとすれば、
得をするのは誰なのか。

「消える職業」と職業別賃金統計を比較すれば、何かわかるかもしれないが、これも直接的な影響を断定できる方法ではないので、やめておく。


以前の記事で、「AIで代替される職業」を扱ったので、追加で調べてみら、
やっぱり、マユツバだったことが分かった。


※1

※2

※3
統計学も少し複雑な問題を設定すると、うまく機能してくれないし、
データや計算結果の解釈も慎重に取り扱わなければならない。

 ロジスティック回帰分析の分かりやすい解説

※4 当時の記事


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