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キャッシュフローの「お値段」 ~ そろそろ投資対象を知る(2)

第3章(1)からどうぞ)

ここまでで、キャッシュフローという考え方をなんとなく感じていただいたと思います。

ここで学ぶことはキャッシュフローの「お値段」としての「金利」です。金利を知らない人はめったにいませんが、その意味は深遠で、実はあまり知られていません。

例えば「なぜ金利ってあるの?」と子供に聞かれて分かりやすく答えられますか? お金を借りると返す時に多めに返す、お金を預ける(貸す)時には少し増えて戻ってくる。そうでないならば、お金の貸し借りはしない…。こう考えると、そもそも投資の成果をなぜ私たちが受け取ることができるのかを知り、適切に自分のキャッシュフローを設計するために、「金利」をよく理解することが重要だとおわかりいただけるかもしれません。

しかもこの考え方は、債券だけでなく、株式やREIT(不動産投資信託)の意味を考えるときにも、もう少し複雑な形で使われることになります。お金の貸し借りの形を取る融資や債券を題材として考えるのが一番簡単なので、まずはそこから始めましょう。

まず、キャッシュフローと金利について考えます。
今日100円を預けたら1年後にいくらになってほしいでしょうか。マイナス金利でややこしい状態になることをちょっと棚上げし、普通は100円を預ければ、90円で返してほしいと考える人はおらず、110円になって返ってくれば嬉しいでしょう。ここで大事なことは「時間」です。

現役時代と引退時代とか、自分のお金の出入りをキャッシュフローで考えるときにも時間の存在をいつの間にか想定していました。40歳、60歳、65歳、85歳、100歳などといった年齢を考えることは、すなわち「時間について考える」ことを意味します。

インフレ(またはデフレ)がない世界を考えてみましょう。そもそも「金利」は必要でしょうか?

お金をいま手放す(投資する・貸す)人は、現時点で「消費」する使い道がなくお金が余っており、しかし将来は使うことになると思っているはずです。「寄付」も「消費」に含めておきましょう。また、この人は、商売のために在庫を確保したり、何か良いアイデアがあって材料を買う予定もありません。つまり現時点でお金を手放す(投資する・貸す)ことを考える人は、いまはお金の使い道がなく、また一時的に手放す(投資する・貸す)ことで将来時点では増えると期待できると考えているはずです。

減るとわかっているのにお金を手放すこと、それは「消費」です。投資や貯蓄は、将来増えると期待できるわけですから、「消費」とははっきり違います。お金は普通、ただ手元に持っていれば、安心ではありますが、自分には増やすアイデアも使い道もないわけですから、増えることはありません。一時的に手放す(投資する・貸す)ことで、普通は増えることを期待します。

現時点で使い道がないお金を持っている人は、将来使う時までただ持ち続けることもできます。だから、仮に一時的にでも手放すとすれば、それに見合う報酬が何か欲しいのです。この報酬こそが金利というわけです。報酬=金利がなければ手放さないのです。一時的に手放す時のドキドキ料(リスクの報酬)とか、時間選好(明後日より明日、明日より今の100円の方が価値が高い)とかいろいろな説明がありますが、そもそも手放すからには何か良いことがなければならない。それが金利です。金利は(今おカネを手放した人にあとから)追加的に返ってくる報酬、と言い換えることができます。

逆にいえば、いまお金を得るために金利を支払う人がいるということです。現時点でお金を使いたい人は、将来そのお金を増やせるアイデアを持っている人です。いま消費で使ってしまってその後に別の仕事で稼いだお金で返すこともありえます(住宅ローンや消費者金融など)が、ここでは関係が分かりやすいので前者を考えましょう。

お金を借りる人は、たいがいの場合、それを使って将来のお金のインフローを増やし、返済しても何かが残ると考えます。商売のアイデアがあるが手元にお金がない、という人が、一番分かりやすい例です。現時点でお金を借りて、それで在庫を抱えたり材料を買って商品を作って売ったりすれば、儲けが出そうです。借りたお金を返しても、自分の生活費は稼げそう、となれば、金利を払ってでもお金を借りる人はいるでしょう。

金融は、このように現時点でお金が必要な人と余っていて使い道がない人を結びつける仕事をしています。金融商品に投資することの本質は、このような経済の中でのお金の流れに参加するということです。

さて、現時点で100円借りる人が、1年後に110円で返すと約束したとしましょう。1年で10%の金利が支払われる約束ができたわけです。

キャッシュフローで考えると、貸す人(投資家)は現時点で100円のアウトフロー、1年後に110円のインフローです。借りる人は現時点で100円のインフロー、1年後に110円のアウトフローです。10円が金利分で、これはお金を一時的に手放す人が1年後に欲しい見返りということになります。

貸す人(投資家)はその100円を「手元にただ置いておく」よりも、ドキドキしたり、「他のことに使えばよかった」と気に病んだりするかもしれません。なので、それに見合う見返りが必要です。借りた方はその100円を「単に現金で持っておくのではなく、他のことに使う」わけですが、10円の金利を払ってもなお何か得るものがあると信じているからこそ、借りることを決めたのでしょう。それがうまく行かなければ、もちろん別のやり方で返済しなければならなくなるわけですが。

さて、ここまで、人間の歴史の中でお金そのものと同時に発明されたというお金の貸し借りと金利についてざっと考えました。投資家のキャッシュフローの観点からは、現時点で100円手放すが1年後にまた返してもらう時には10円増えていれば良いと考え、その10円が、ずっと持っておけば現金のままで安心なのに、手放してしまうと返ってこないかもしれないというリスクが生じ、しかもいつ使うかの選択肢(流動性といいます)を失ってしまうというコスト(機会損失といいます)がかかることを我慢できる水準ということになります。

このように、「金利」とは、現時点と将来時点でお金をやり取りする(キャッシュフローが生まれる)契約において、一時的に手放す方と受け取る方の双方がちょうどいいと思うキャッシュフローの「お値段」ということになります。

普通は出し手が金利を受け取ります。ここまでの話では当然のことですが、マイナス金利の世界を見てしまった私たちは、そうではない世界の話もしなければなりませんね。この複雑な現実を見るために、もう少し現実に近づいて、「債券」とは何かを考えましょう。

第3章(3)に続きます)


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