見出し画像

そろそろ投資対象を知る(1)

ここからは投資対象(「株式」や「債券」など)について理解していきましょう。

しかし、そんなに詳しくなる必要はありません。詳細を知らないと投資できないというのがおかしいのです。投資は「なぜ価値を生むはずなのか」を知ってもらうのが一番大事です。

例えば「株式」。その法律的な意味などは法律家に任せましょう。
投資家が知っておきたいことは、たとえば、株式と債券とREIT(不動産投資信託)のそれぞれの価値の源泉が「どう違うのか」ということです。それは自分の引退後にお金をどのように受け取り、そして消費していくかと関係があるからです。このような、“個人が潤いのある引退後の生活を目指して投資する時に知っておくべきこと”に絞って話を進めていきます。

投資とは、事業などの希望に満ちた良いリスクを取る一方で、他の人が働いてくれた成果をリスクの報酬として受け取ること、でした。さらにその目的は、自分の最低限の生活を確保した残りの資金で、生活の「潤い」部分を獲得すること、でした。

賭け事のように株式を売買したり、脳の衰え防止などのためにあれこれ自分で勉強して銘柄と売買タイミングを選んだりすることは、一見「投資」のように見えますが、実はその行為自体を楽しむ「消費」に近いといえます。

またリスクを取って潤いを追求する「投資」は、ピケティの「R」を求めることですが、最低限の生活や医療費などの備えのための資金も国債など安全性の高い(しかし「g」しか求められない)金融商品に「投資」することもできます(ここでは「貯蓄」と呼んでおきます)。

「潤い」があることは、特に自分が働けなくなる引退後の生活でとても重要です。仮に、60歳で再雇用、65歳で年金生活に入り、平均余命が85歳だったとしても100歳を超えて長生きする可能性=「リスク」があり、その時は「潤い」のある100歳でありたいわけです。

キャッシュフローの観点からは、現役時代はインフローが貯蓄・投資に入っていきます。消費や住宅ローン返済などアウトフローも多い時期ですが、少額でも毎月積み立てていけば、60歳になった時に意外に大きな蓄積となるでしょう。

60歳から再雇用、65歳から年金で必要資金を賄うとしても、旅行や孫への小遣いなどは潤いとして欲しいのです。そのためには、この引退後の潤いとしてのアウトフローを、60歳までの蓄積の取り崩しだけで賄うのではなく、引退後においても適切にリスクを取って投資することで、他の人が働いた成果を分配してもらうことでカバーしたほうがさらによさそうです。

引退後の潤いの原資であるRとgの差は、ピケティが発見してくれた長期的・世界的におおむねR>gという歴史的な事実に基づいて、また、単なる賭け事とは異なり人々の経済社会での努力の成果を資金部分のリスクを取ることで分配してもらうという仕組みから、安定してプラスであろうと期待できます

もちろん、おおむねそうだからといって確実だとは言えないわけですが、最低限の生活と医療費などの備えを確保したあとの「潤いのための資金」を見極めれば、リスクを取ってもよいと思われる背景が十分あるわけです。どんなときでも損失リスクをゼロにしたいと考える自由はありますが、ここまでのお話を知った上の判断していただくことが望ましいし、また、平均的に多くの人々は一定のリスクを取ることを選択するように思います。

ここまで、投資についての考えを深める前に、さんざん引退後のキャッシュフローについて考えてきたのは、そのキャッシュ(アウト)フローに合わせて投資商品のキャッシュ(イン)フローを「作っていく」ためです。つまり、自分が望む85歳時点の潤いはこのくらい、65歳時点ではこのくらい、とイメージしたうえで、その目的にフィットした適切な金融商品を組み合わせていくことを考えたいのです。

もちろん都合よくキャッシュのインフローだけを獲得することはできないので、現役時代の収入と退職金などからの金融商品の買い付け(アウト)が必要となります。潤いのある生活でのアウトフローのためにはインフローが必要、そのインフローのために投資へのアウトフローを前もって行い、その投資の成果として誰かに働いてもらってリスクの報酬を得ることで、潤いのインフローが多くなる、という仕組みです。この仕組み全体を「投資」と考えていきましょう。

潤い部分だからこそリスクを取ることができ、gだけではなくRを求めるから100歳になっても最低限の生活だけでカツカツにならず潤いを維持できる、という点がポイントです。リスクを取ったことの報酬が絶対にプラスになるとは限りませんから、運悪くカツカツになってしまう可能性を否定はできません。しかし、金融商品への投資は、単なる賭け事とは違って、経済社会の(規模の成長だけでなくITなど技術革新による生産性改善も含めた)発展の中に組み入れられた金融商品の仕組みを利用することで、長期・世界的にみれば安定しているリターンの獲得を目指せるのです。

これを理解するために、まずキャッシュフローの「お値段」という考え方を知りましょう。その上で、次回以降、その分かりやすい例として「債券」の仕組みを確認します。その後、他の人が仕事をしてくれる「株式」の仕組みをみていきます。そしてこれからとても大事になるREITの話をします。どれについても、投資家である自分がどんな役割を担っているのか、一方で他の人たちが何をしてくれるのか、を知りましょう。そうすれば、引退後の自分に必要なキャッシュのために、今から何をしていけばよいかを考えることができるようになるでしょう。

第3章(2)に続きます)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?