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投資のリスクとは報酬の裏付け ~ 私たちはなぜ投資をしたほうが良いのか(5)

第1章(4)から続きます)

「リスク」という言葉は普通悪い意味に使われます。病気になるリスク、子連れで働けない娘を支援するリスク、株を買ったら値下がりして損するリスク・・・。
しかし、投資では「リスク」は報酬(リターン)の裏付けでもあることを確認しておきましょう。いわば、良い方のリスクです。「良い」というと悪いことを隠ぺいしているように聞こえるかもしれませんが、そうではありません。

上のような図では、右に行くほどリスクが大きくなり、それにつれて収益(リターン)も上に向かって大きくなることが示されます。
リスクが大きいと、必ずしも儲かるときばかりだけではなく、損する場合も当然ありますから、損失が示されていないこういう図はおかしいと思われる方もいるでしょう。ポイントは、なぜこんな図を描いても良いのか、です。
もしも、取るリスクが大きくなるほどほど収益(リターン)が小さくなる、という金融商品があるとしたらどうでしょうか? 実は「そんなものは誰も必要としない」ので「世の中に存在できない」のです。これはとても重要な考え方なのですが、あまり教えてくれる人がいません。

リスクが大きいのに「前もって」収益(リターン)が小さいと分かっていれば、誰もそんなものを持ちたいとは思いません。期待できる収益(リターン)が多いと「前もって」思うからこそ、ひとはリスクが高い金融商品を買うなり持つなりするのです。もちろん、リスクが大きくても、「結果として」収益が小さいとかマイナスになることがあります。この「前もって」と「結果として」の違いが投資においてリスクを考える時にとても重要なのです。

「良い」リスクとは、証券投資を考える時に、「リスクが大きいほど前もって期待する収益も大きい」と信じられるようなリスクです。言い換えると「何だかわからなくて不安」とか「天災が起こればどうなるか分からない」といった不確実性からくる不安ではなく、そもそも株式とか債券とかは過去こんな程度に動いたし、こんな程度に収益が(前もって)期待できる、という、いわばざっと計算できる部分のことをリスクと考えると良いのです。

そして何か特定の国(為替)や企業、事業などに集中しないことです。長い時間が経てばいろいろなことがありますし、その間に、他にもっと良い手段が出てくるかもしれません。

「悪い」リスクとは、たとえばリスクの大きさの割に、前もって期待できる収益(リターン)がそれほど高くないケースとか、詐欺まがいの恐れもあるような仕組みの不安定・不透明さ、何が起こるのやら良く分からない不確実なこと、などです。これは特定の国(為替)や企業などに投資先を集中するほど起こりやすくなります。

証券取引では、株式や投資信託などの売買を行なう際、法律や免許などで制限された適切な業者を選ぶことができます。もちろん「売りつけられる」とか「手続きが分からない」とかまだ心配事は減らないでしょうけど、これからお話しするように潤いのある生活のための投資は「コア」であり「バランス型」ファンドであるので、タイミングを考えたり銘柄の中身に詳しくなったりする必要はありません。

ここで知ってほしいことは、自分が働かないで得られる収益には二種類あるということです。
ひとつは、預貯金のように値動きのリスクはほとんどないが、収益(リターン)もせいぜいインフレ率(賃金上昇率)程度、あるいは国債の利回り程度しか期待できないものです。
もうひとつは、会社や不動産の経営者や従業員、管理者が熱心に働いてくれるので、「前もって」預金金利などよりも高いリターンを「期待」できるものの、事業が失敗したり経済全体がぱっとしなかったりすることで結果的に期待ほどには収益があがらないこともありうるという「リスク」を引きうけることで得られる収益です。

収益は何かを行なうことに対する報酬です。投資によって得られる収益はリスクを取ったことに対する報酬です。言い換えれば、投資のリスクとは報酬の裏付けであるわけです。

現役世代は投資をどう考えるか


さて、第2章以降で、投資対象となる証券について詳しく知る前に、潤いのための投資という目的のために考えを、まず積立期の現役世代のためにまとめましょう。

大事なことは、消費の現金フローを考えることでした。まず文化的な最低限の生活ができることを確認しました。いま入っている年金が厚生年金であれば、かなりカバーできます。国民年金であればその半分くらいかもしれませんから自助努力が必要かもしれません。全然備えていないのであれば何か「死ぬまでもらえる」保険などを探したほうがいいのですが、そういうものはあまりないので気を付けてください。もっとも、あまりに想定外に長生きしたせいでひどい目に合いそうでも公的扶助があります。みんなが公的扶助だけを期待して暮らすとしたら困ったことになりますが、どうしても仕方ない状況では頼りになります。現役時代に払ってきた社会保険料や税金がこれらの元手の一部となります。医療費も自己負担以外は健康保険である程度賄われます。会社などの健康保険組合であれば自己負担が変わるかもしれませんが3割程度でしょう。自己負担分についてはある程度想定して貯蓄として持っておきたいですね。

「預貯金であるべきお金」と「なんとなく預貯金にしているお金」を分けましょう

前回までの回で用いた40歳を想定したモデルケースで、60歳の時に預貯金で持っておきたい額を1,500万円とすると、この家庭の場合、月4万円(最終960万円)を「なんとなく預貯金にして」しまっています。この「なんとなく」が意外に大きいと思う人も多いと思います。

さて、現役時代の教育費や住宅ローンは現役時代になんとか賄ったとしましょう。想定外の教育費などで貯蓄があまり進まなかったり、不景気で退職金が減ってしまうなどのリスクはありますが、そのあたりはちょっと「悲観的な見方」を想定に盛り込んでおくことで対処しておくしかないでしょう。たぶんそれでも老後の「潤い」が全然なさそうという状態にはなりにくいことに気づくと思います。
それに、潤いを追求する資金は、いざ想定外の費用が必要になった時など、変化に応じて配分を変えていいのです。いま決めたら今後変えられないというわけでもありません。

最低限の備えについてある程度明確になれば、残りが「潤い」の部分です。これは増えれば増えるほどいいのですが、60歳で引退する想定ですから、そのあとは自分で働いて増やすことができなくなっているはずです。だからこそリスクを取ってでも増やすことが適切となります。自分以外の人に働いてもらうのです。

株式やREIT(不動産投信)、社債などへの投資は、経済の枠組みの中で、「お金をかけてさらにお金を増やせるアイデアがあるのだが、いまお金がない人」と「お金をかけて消費したりお金を増やしたりするアイデアはないのだが、将来必要なのでいまあるお金を増やしたい人」とが出会うところです。株式とは何か、REITとは何かをより深く知ることで、投資は社会の発展の恩恵を受けるとともに、寄与もすることを知っておきたいですね。

引退世代は何をするのか


引退すると多くの人は退職一時金をもらうでしょう。本当は現役時代の給与を増やしてもらった方が、並行して自分の才覚で投資したりできてよいのですが、退職一時金のケースのほうが多いのでここではそのように想定します。
退職金をもらうのが60歳で、年金が65歳から支給されるとすれば、60歳からまさに「取り崩し」が始まることになります。再雇用などで収入もある程度残るでしょうが、給与水準が大幅に下がり、積み立ててきた資金を取り崩さなければならないケースが少なくありません。

しかし、そうした「取り崩し」の期間にあっても、投資は続きます。平均すれば30年程度で「終わる」はずですが、いわゆる長生きリスクがありますから、まだまだ長期投資の継続が必要なのです。
ただし、取り崩しながら残りを投資していくことになるので、現役世代と比べると現金の受け取りをある程度意識した投資対象に資金をシフトする必要があるでしょう。

では、ここまで用いてきた想定ケースを続けて活用し、40歳時に手元資金が500万円、それが今後年間で48万円増え、割と悲観的でも60歳時に約1,000万円の資金があるとの前提で、潤いを増やすため、リスクを取って投資に回していくことを考えていきましょう。引退世代の方についても、60-65歳の取り崩しも想定しつつ、65歳以後の本格的年金世代での投資を考えていくこととします。

(第2章に続きます)

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