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市場 시장 シジャン

 海外に行って、その国の息吹を体験するのであれば、市場が最適ではないでしょうか。韓国も例外ではなく、市場に行くと韓国の今の鼓動を感じることができます。

 例えば、外国の観光客も数多く訪れる南大門市場ですが、昔は英語の説明や表示が多かったです。それが日本語が次第に増え始め、今は中国語が幅を利かせています。
 扱う商品も、昔は革製品や眼鏡屋などが多かったですが、日本で韓国のりのブームが起きると、店先の商品はあっという間に韓国のりに変わりました。

 韓国の市場は常に開かれている常設市場と、決まった間隔や日にちで開かれる昔ながらの市場があります。前者は日本でも有名な南大門市場、東大門市場などがあります。ちなみにこの~門というのは、昔のソウル──漢城(한성)にあった門のことです。

 14世紀の終わり頃に、李氏朝鮮の太祖の李成桂によって都が漢城に定められました。風水に基づき、北は白岳山、南に漢江がある現在のソウルの地が首都になりました。中国と同じような城壁都市であり東西南北に代表的な門が作られました。

 それが南大門や東大門なのです。門前という言葉があるように、門の周辺には市が立ちます。門の周辺にできた市場なので、南大門市場、東大門市場と呼ぶのです。

 ──あれ? では西と北は?

 西にも西大門(下記写真)がありました。だが、20世紀初頭に解体されました。ここにも市場が立ったのでしょうが、今は残っていません。区や駅の名前にその名残を見ることができます。

 北にも北大門があり、現在もあります。ただ、この地域は軍の警備区域となっており、立ち入るのには身分証明証が必要です。当然、市場などはありません。この地域には韓国の大統領府である青瓦台があります。過去、1968年に北朝鮮のゲリラが襲撃未遂事件を起こしています。この襲撃事件の報復として設立されたのが、『シルミド』という映画の基となった684部隊です。


 話がずれました。市場に戻します。ソウル市内には数多くの市場があります。有名なところでは下の写真の東大門(トンデムン)市場──ここはファッション関係、衣料品などが多いです。数十年前に大型のショッピングモールができきれいになりました。ただ、少し周りに足を伸ばすと、昔ながらの市場も残っています。靴や本、大体同じ商品は一箇所に集まっているので、目的の物を探すのは楽です。

 東大門市場から少し東の清涼里(チョンニャンニ)駅の周辺には、京東(キョンドン)市場があります。ここは漢方や野菜を主に扱う専門市場です。チャングムやホジュンなどの韓流ドラマにも出てくるように、韓国では韓医学――漢方が身近です。どんな小さな町にも漢方の専門薬局があり、前を通ると独特の匂いが流れてきます。

 京東市場では、韓医学の生薬を売っています。有名な高麗人参を始め、鹿の角、キキョウの根、五味子など、ありとあらゆる物が所狭しと並べられています。歩いているだけで健康になった気がする市場です。近くに韓医薬博物館もあります。

 また、韓国初の常設市場の広蔵(クァンジャン)市場は、市内の鍾路(チョンノ)5街にあります。ここは韓服、織物、衣料品、青果、精肉、民芸品、伝統工芸など何でもある市場です。屋台なども多くあり、一日いても飽きない、総合テーマパークのようなところです。市場のエンターテインメントです。

 その他、水産物専門市場の鷺梁津(ノリャンジン)水産市場、公営卸売市場の可楽(カラク)市場など面白い市場が韓国にはたくさんあります。

 そして、その中でも筆頭が南大門の側にある南大門(ナムデムン)市場でしょう。歴史も古く、600年近くあるそうです。ここはソウル駅からも歩いていける距離にあり、観光客も数多く訪れます。取り扱っている物は、一言で言えば、何でもありです。

 市場の象徴でもあった国宝第1号の南大門は、残念ながら放火で全焼してしまいました。非常に惜しいことでした。今は再建されています。

 南大門市場は表側の大通りなどでは外国人観光客向けの商店が多いです。値札も貼ってあり、クレジットカードも使えます。しかし、何と言っても楽しいのは市場の奥、特に古い建物の奥深くで営業している商店のアジュマ(おばさん)との戦いでしょう。

 東大門市場のように小ぎれいでなく、通路も狭い商店には当然値札などはありません。アジュマは客の顔を見て値段を吹っかけてきます。丁々発止のやり取りして買った物が、後から聞いたら、思いのほか高かったなどは日常茶飯事です。ただ、一般的に表通りの店よりは安いです。

 アジュマとのやり取りは、外国人と分かって最初は吹っかけてきても、いろいろと話を続けていく内に、突然安くなったり、おまけを付けてくれたりもします。韓国のアジュマは非常に人情的なのです。韓国で生活していることを告げると、周りのアジュマがいつの間にか集まってきて、何で韓国で、食べ物は平気か、などと矢継ぎ早に質問を投げつけてきます。その間、当然のごとく、お客さんはほったらかしです。

 南大門市場や東大門市場などは24時間休むことがありません。夜は地方からバイヤーが駆け付け、卸の場となるのです。大型バスで大挙、乗り込んでくる姿は迫力があります。私も一時期、韓国の子供服や雑貨などをネットショップで販売していました。ほとんどの物を深夜の南大門市場で仕入れていました。

 バイヤーとアジュマの真剣勝負のやり取りは、見ているだけで楽しかったです。まあ、私は交渉を韓国人の妻に一任していましたが。

 一度、夜の市場に足を伸ばしてみてはいかがでしょうか? いつもと違う景色を楽しめますよ。買い物が終わった後、屋台(ポジャンマチャ)で飲む焼酎や、つまむオデンやトッポキは最高ですよ。

第13回『このミステリーがすごい!』大賞優秀賞を受賞して自衛隊ミステリー『深山の桜』で作家デビューしました。 プロフィールはウェブサイトにてご確認ください。 https://kamiya-masanari.com/Profile.html 皆様のご声援が何よりも励みになります!