見出し画像

第1話「占い師の独白」

 私は自称占い師です。なぜ自称かと言いますと、それが生業(なりわい)ではないからです。本業は別にあるのですが、その仕事では足りないため副業的に占いをしています。占い師を本業にしたかったのですが、それで生活していく自信がなかったのが本音です。
 
 私は霊視は出来ません。霊を視(み)た事もなければ、声を聞いた事もありません。霊感がなくても立派に占い師としてやっている人は多いと思いますが、少しでもそういう能力があれば私ももっと自信を持って言えるかなと思ったりはします。
 
 私が占いに関心を持ち始めたのは中学生の時です。そのきっかけは、手相が他の人とは違う「ますかけ線」だったからです。「ますかけ線」と言いますのは、知能線と感情線が一緒になって横一文字の線になっている手相の事を言います。確率的に言えば、片手のますかけ線は百人に一人と言われ、両手のますかけ線は千人に一人と言われています。
 
 そんなに珍しい手相なのですが、私は両手が「ますかけ線」で私の父も両手が「ますかけ線」でした。強運の持ち主と言われるのですが、私の父や自分自身を見てもあまりそうは思えません。父は普通の会社員で、普通の人生を送って亡くなりました。もしかしたら父は、私が知らないところですごい人だったのかも知れませんが。
 
 すごい運気の持ち主と言われているのに、どうして上手くいかない事が多いのか。それが不思議でなりませんでした。占いは本当に当たるのか? それとも全く信用できないものなのか? このような疑問を持つようになり、占いに関心を持ち始めたのです。
 
 手相、姓名判断、タロットなど一通りかじってみたのですが、一番しっくりきたのが「四柱推命(しちゅうすいめい)」でした。私が四柱推命に出会ったのは30歳の時で、当時私は人生のどん底にいました。結婚の約束をしていた人に突然、別れを告げられたのです。どうしてなのか理由を聞いても、その人は黙って泣くだけでした。
 
 骨身を削るほど愛していましたので、その日から精神のバランスを崩すようになりました。引っ越し先を特定して訪ねて行ったりして、今思えばストーカーだったかも知れません。その人はさらに引っ越してしまい、もうその先を調べるのは諦めました。
 
 愛しても報われないと、人はおかしくなってしまいますね。仕事をする気力もなくなり、自宅に一週間引きこもりました。布団をかぶってひたすら悶々としていました。「死にたい」と言う考えが頭の中を支配していました。
 
 感受性が人一倍強い私は、喜怒哀楽も人一倍強いです。そのため、子どもの頃から生きづらさを感じてきました。普通の人なら耐えられる悲しみや怒りが、私にとっては耐えられないほど苦しいものになるのです。
 
 そのため、こんなに苦しいのなら生きていたくないと言う思いから、中学生の頃から自殺願望がありました。いじめに遭っていたわけではありませんが、悪意のある言葉が矢のように胸に突き刺さる感覚です。自分に言われているわけではないのに、影響を受けてしまうのです。
 
 年齢を重ねていろいろな事を経験していくうちに耐性は出来ていきましたが、子どもの頃は本当に大変でした。親にも友だちにもわかってもらえません。ただ「心が弱い」と言われてしまうだけです。
 
 最近では、私のように敏感すぎる人の事をHSP「Highly Sensitive Person(ハイリー・センシティブ・パーソン)」と呼び、広く認知されるようになりました。ネットでHSPのセルフチェックが出来るようになり、自分の他にも同じように苦しんでいる人がいると言う事がわかっただけでも楽になりました。
 
 そういうわけで、もうこれ以上は生きていけないと考えていた30歳の時に、私は占いの師匠に出会ったのです。師匠から四柱推命鑑定をしてもらった事で、どうしてうまくいかなかったのかを理解する事が出来ました。私では彼女を幸せにする事が出来ないと悟ったのです。
 
 それからしばらくして、師匠の元で四柱推命を勉強するようになりました。師匠はどこまでも「実践重視」です。出来るだけ多くの人を鑑定した方が良いとの事で、パソコン通信時代の掲示板に「無料鑑定します」と出して、たくさんのメール依頼に応えていきました。そして、知人友人にも声をかけて占わせてもらい、反応をみました。
 
 師匠は「お金をもらって鑑定しないと身にならない」と言います。確かに無料だと『どうせ無料なんだから、外れても文句言わないでしょ』と甘えてしまい、身になりません。最初、お金をもらって鑑定するときは本当にドキドキしましたが、早めにそうして良かったと今では思っています。
 
 初めの頃は「当てなくちゃ」という思いが強くて、出た結果そのものを全部相手に伝えていました。嘘がつけない性分なので、良い事も悪い事も全て隠さずに言いました。それが正しい事だと信じて疑わなかったのです。
 
 自分自身とても細かい性格で、より正確で詳しい内容を知りたいと言う欲求があります。そのため、知り得た内容を詳細にお伝えしたくなるのです。おっせかいと言いますか、相手が知りたい内容でなくても言いたくなるのは、自分の悪いクセだと思っています。
 
 そんな私が変わったのは、四柱推命を研究するようになってから5年目の事です。ある婦人との出会いがきっかけで、考え方が180度変わったのです。その人に出会わなければきっと、今の自分はなかっただろうと思います。
 
 その方には結構お世話になっていまして、ある意味『恩人』という感覚がありました。その方は母子家庭で、結婚してすぐに離婚されたそうです。占いが好きであちこちの占い師に観てもらうのですが、いつも「強すぎて女性としては幸せになれない」と言われていたそうです。
 
 ある時いつもの恩返しの意味で「占ってあげますよ」と言いました。確かに私が観ても男勝りな方で、女性としての幸せは掴(つか)みにくいかなあと思いました。でも、その方には本当に幸せになってほしかったので、根拠はないのに「3年後に良い人と結婚できますよ」と言ってしまったのです。
 
 その方はとても喜んでくれましたが、私は少し後ろめたさを感じました。子どもの頃から嘘をつくのが嫌で、正直に生きてきたという事もあったかも知れません。もし外れたらどうしようという思いもあったと思います。でも、心から幸せになってほしいと願いました。
 
 翌日その方に会うと、雰囲気がガラリと変わっていました。普段はメガネをかけてお化粧もあまりせず、髪もボサボサです。それなのにその日は、髪も綺麗にしてお化粧もばっちり、着ている服も華やかでした。あまり笑顔を見せない方なのに、とてもニコニコされていたのです。
 
 その半年後、私は遠くに引っ越してしまって、その方の事もすっかり忘れていました。ところが、占いをしてから3年後、突然その方からハガキが届いたのです。
 
「あなたの言うとおり、良い方と出会って3年後に結婚しました」
 
 そのハガキを受け取った時、私は心底びっくりしました。あの占いの事など、とうに忘れていたからです。私はその時から「これからは良い事だけを言おう」と心に決めました。占いが好きで、占いを信じやすかったその方は、「あなたは幸せになれない」という占い師の言葉を信じ込んでいたのです。
 
 占い師の言った言葉通りに生きている方は結構います。思い込みの激しい方は、占い師の言葉に自分を当てはめようとします。いわゆる「ラベリング効果」です。
 
 ラベリング効果とは、「あなたは〇〇だよね」とラベルを貼るように決めつけてしまう事を言います。そうすると言われた本人は「自分は〇〇なんだ」と思い込み、そのように振る舞おうとします。
 
 例えば私は子どもの頃、親から「お前はおとなしい」「引っ込み思案な性格だ」と言われていました。親にしてみれば悪気はないのでしょうが、子どもにとって親は絶対的な存在です。親の言う通りにしなければいけないと、深層心理にあったと思います。知らず知らずのうちに私は、「おとなしくて内気な人間」として振る舞っていました。
 
 自分自身を客観的に分析しますと、言葉に対してかなりのこだわりを持っていると思います。言葉が薬になったり毒にもなったりする事を、身にしみて実感しています。私のような人間は、貼られたレッテル通りに生きてしまいがちです。逆に、占いに当てはまらない生き方をしている方もいます。
 
 私の本業は別にあるのですが、占いだけをしに来られる人がいます。その人は、少し自信がなくなってくるとやってくるのですが、その人が来られたら私は自信を持ってこう言う事にしています。
 
「大丈夫、あなたの思い通りになりますから」
 
 この言葉には、私の願望が入っています。「言葉で運命は変えられる」という奇跡を、もう一度見たいからです。

占い師の独白
第1話「占い師の独白」
第2話「除霊ボランティア」
第3話「父親に憑依された娘」
第4話「霊眼が開く時」
第5話「霊と気功」
第6話「不思議な予言」
第7話「遊女と名乗る女性」

Amazonキンドル出版
占い師の独白: ある占い師の体験談

この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?